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『アントフィナンシャル 1匹のアリがつくる新金融エコシステム』を読んだ上での、日系銀行のデジタル化についての雑感

大学生の就職活動ランキングにおける、銀行の人気凋落が取り沙汰されて久しい。

(ちょっと古い記事だが、
東洋経済2019年6月22日号「ネガティブイメージが先行、就活「銀行離れ」止まらず」
等、様々なメディアで取り上げられている)

マイナス金利政策下、銀行の収益構造に変化が出て苦しい状況が続く中、将来への不安や、或いはドブ板営業みたいな、ブラック企業/旧時代的な職場イメージも手伝ってか、敬遠されている状況である。

一方で、Fintechという言葉も出回っているように、近年すすむ急速な社会のデジタル化で、金融機関の在り方、サービスの展開の仕方が変わりつつある。そして、このFintechの波に乗り遅れまいと、地銀も含めて様々な金融機関が努力をしている状況である。

私も勤めている業界なので銀行の未来は色々考えたりするのであるが、この点、隣国のfintechを活用して急成長している企業を目の当たりにすると、我が社にも活かす点はあるのか、何が違うのか、というのを考えたくなってくる。
ということで、以下の本を読んで、自身の会社のデジタル化について考えてみた。

1.本書の内容と雑感

本書はアリペイ等で有名なアントフィナンシャルが、どのように今の地位を築いていったかを振り返っている本。事業内容としては、決済のプラットフォーマーとして決済情報を集めて、それを信用スコアとして数値化し、個人や中小企業向けの融資にもつなげる形。テクノロジーを駆使して急成長した会社と言える。

読んでて思ったのは、この本書からも伝わってくるスピード感熱量。そしてテクノロジーを兎に角駆使していこうという進取の姿勢

ただ、これからグローバル化を加速させていきたいとアントフィナンシャルは考えているようであるが、金融(銀行)分野は国際的に規制が雁字搦めに構築されている分野。
これらの規制に対応するコストは尋常ではないので、もし国際的な銀行(金融機関)となるのであれば、そのコストは追加で必要になってくる。そういう点では、今後の道のりは決して平坦ではないであろうというのがまず本書を読んでの雑感。
(こういうFintech企業のリスク管理ってどのようにやっているのか割と気になる)

2.日系銀行のデジタル化について

デジタル化、Fintechとは言うが、Fintech自体は新しい技術だったりするので、活用すること自体を目指しているのではない。
新しい技術を使って、その技術を使ってどのようなシステムを作って、どのようなサービス(サービスの内容)を提供していくのか、
そしてそれをどれだけ早いスピードでリリースできるか(競争相手も多いためサービスには鮮度が命)がFintechを活用する場合に取り分け重要な要素となってくる(し、各企業も頭をひねらせている)。
この「スピード感」「サービスの内容」という2点から銀行のFintechの活用の現状について考えてみたい

2.1 銀行がFintechを活用する現状(スピード感)

まずは銀行のスピード感であるが、新しいテクノロジーを使ったシステムを一つ構築するにしても(テクノロジー自体は良いのであるが)、そこに個人情報だったり企業の重要情報を取り扱うシステムだったりすると、セキュリティ面の検討が必要だったり、その他コンプラ周りの検討が必要になってくる(開発側は非常に急いでやろうとするが、リスク管理側は往々にしてスピード感に欠けることが多い)。
銀行のような金融当局等の規制に雁字搦めにされている成熟した企業というのは、これまでに社内で培ったコンプラ規定等チェックすべき点が多いことも災いしてスピード感というのはやはり他のベンチャー企業と比較すると劣後すると思う(ベンチャー企業がリスク管理をやっていないわけではなく、リスク管理側の意識も高いだろう、ただリスクあるから×を出すのではなく、どうすれば〇になるのかも確り考えてくれるからスピーディにできるだろう、という仮説。やっぱ他の会社がどのようにやっているか興味がある)。

そういうスピード感に関する問題意識は多分銀行の経営陣も各社持っているようで、スピード感を求めるために、例えば銀行内ではなく別会社を作ってスピーディに意思決定をする、という取組はやっているところはある。

例えば3メガ銀グループのFintechを意識した関連子会社は参考までに以下。
MUFG・・・Japan Degital Design
SMBC・・・SMBCクラウドサイン(w/弁護士ドットコム)等
みずほ・・・J.Score(w/ソフトバンク)等

ただしかしながら、そういう別会社を作ってもセキュリティのポリシーだったり、チェックのしどころは成熟した親会社に準じている場合がほとんどである(親会社のセキュリティポリシーは年月を経てそれ自体は非常に有用なものだから)。そして定期的に親会社の(スピード感に欠けるリスク管理部門の)チェックが入ったり、或いは重要なシステムは親会社への付議事項になっていたりして、どうしても純正の新興企業には劣後する。

また、自社でサービスを考え出すのではなく、例えばハッカソンを催したりして、完全に資本関係のない別のベンチャー企業が考え出したサービスを、金融機関が採用して戦略的な業務提携を結ぶ、そういう動き方もある(金融機関の自社開発というよりかはこっちが主流なのかしら)。

ただ、そういうパターンも結局サービスの採用にはリスク管理部門のチェックは逃れられず、更には推進する側の銀行員のテンション・知識にも差が顕著にあるため、サービスの採択に時間を要する現状はある(我が社を見ているとね)※。

そういう意味で、成熟した日系金融機関からスピーディな(もっと言うと時宜を捉えた)サービスがでてくるかというと個人的には疑わしいのが勤めていての個人的な感想。

※リスク管理側がストッパーになっていて、スピード感が遅いことが強調されているように取れるが、実は推進する銀行員側(ここでいうと、サービスを開発したベンチャー企業と一緒になって銀行にサービス採用を働きかける銀行員)のスピード感も課題である。
金融の新サービス導入にはもちろん様々な金融規制を突破することや、社内のコンプラ規定をクリアすることが必要である。ただ、推進担当ももともと営業でバリバリやっていた(今ままでデジタルにはあまり関係のなかったような)銀行員があてがわれていて、そういった知識は持ち合わせていない。そういうことは自身で勉強していけば良いのだが、自分はそういったことの専門家ではない、自分は渉外担当として外をケアだけしとけば良いのだ、という悪い意味での縦割り意識がでたりしているのが我が社の現状。

2.2 銀行がFintechを活用する現状(サービスの内容)

スピード感があまりなくても、中身で勝負!素晴らしいサービスを一つリリース出来たらそれで大成功!という考えも勿論ある。では、銀行がそういうサービスを生み出すことが出来るか…。


その前に、Fintech活用の目的であるが、もちろん金融機関にとっては利益を生むために導入するのである。つまりは以下の2つに大別されるだろう。

・既存事業・事務の効率化
・新しいビジネス(収益源)の創出のため

1点目は既存事務の効率化による費用圧縮、2点目は文字通り今までにないビジネスを行うことでの収益増大を目指すものである。

銀行員、1点目は得意である。今ある事務フローの問題点を見える化し、問題点を洗い上げ、どこを改善すれば効率化できるか。
そういうロジカルに物事を考えて的確に弱点を補強する。従来の銀行のビジネスも「課題解決型ビジネス」なんて形で、コンサルチックなことをしてきた。銀行員の得意分野だと思う(以下の佐々木康裕氏の著書の言葉を借りると「MBA思考」となる)。

ただし、1点目だけだと結局は利益率の改善にはつながるが、収益の拡大にはつながらない。2点目について考えないと、(今後日本も人口減少社会になるなど市場も縮小していくので)銀行はじり貧になる一方

2点目はどうか。恐らく2点目こそ、世間でFintechに期待していることだろう(私自身、学生採用を担当していたこともあるが、そこでの学生側の興味もこの領域だった)。
然しながら、そういったことについては銀行員はあまり訓練を受けていないし得意ではないのが現状。
新しいサービスを導入するにあたって社内でプレゼンをして、決裁を貰うのも、(先ほどのMBA思考にもつながるが)兎に角ロジックを積み上げて、数字等のデータで説得的な説明する土壌があるため、感性・ストーリーに訴えかけるようなもので社内決裁を得るのは非常に難しい(経営陣も、部下もMBA思考で育ってきたからね)。

これも個人的な感覚であるが、社内からのアイデアで新サービスがでる土壌では(少なくとも我が社は)ない。これも他のベンチャー企業からアイデア含めて「買って」くるしかない。

3.最後に

再び、掲題の「アントフィナンシャル」の本を振り返る。

そこでは、以下の3つがアントフィナンシャルに備わっているとした。

・スピード感
・熱量
・テクノロジーを取り入れる進取の姿勢

これらが日系の銀行(そして我が社)に備わっているか。

-スピード感
→規定や規制も分厚く、コンプラのチェックも厳重であるため日系の銀行でこれは多分難しい。
-熱量
→我が社に限って言うと、リスク管理側と推進側とで、縦割りの弊害が出ている。早くサービスを展開する、どのようにしたらより良いサービスにすることが出来るかを考え切れていない点で熱量はあまりない。
-進取の姿勢
→MBA思考に拘泥して、テクノロジーが可能にする点をまだ見誤っているような雑感。感性も大事にして、テクノロジーや新サービスを考える余地は十二分にある。

うーん。そうなるか。

兎に角銀行は、まだ金や世間の信用があるうちに、ベンチャー企業が考えた新サービスをいち早く買って(業務提携して)、自身の新たな収益源にしないといけない。

私は私で、スピード感を持って、熱量を持って、テクノロジー含め感性もしっかり備えたビジネスマンになっていかないといけない。
色々頑張っていこう。。

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