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#掌編小説

【掌編】熱(習作)

【掌編】熱(習作)

 武蔵小金井で降りた。これ以上は無理だとおもった。ホームに出てすぐ、ベンチに倒れこんでしばらくじっとしていた。いってはいけないと絶叫する理性が、もう楽になりたいという身体を必死の形相で押しとどめている。目を見開き、無心で味気ない床のタイルを睨む。電車が数本、着いては発つのを感じながら。そうして十数分ののち、俄かに立ち上がって階段を降りきったところで、そのまま操られるかの如くトイレへ吸いこまれ洗面台

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【掌篇】『極夜』(習作)

【掌篇】『極夜』(習作)

 黒のロング・コートを羽織って家を出る。まっくらな部屋の食卓の上には、くるみのパンとチーズ、そしてりんご。あの人の、きょうのモーニングに。
 少し重たいパインの扉をおしあけて、ブルー・グレーにしずんだ世界にあゆみだす。彼の机の抽斗にしまってあったクルマのキー。家の前でしずかに座っている、少しくたびれてくすんだブルーのからだに差し込んで回す。彼がそうしていたように、左側のシートに身をしずめる。再び、

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