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短歌連作「あの日のこと」

4月になると毎年、熊本地震のことを思い出します。

当時わたしは福岡にいて、熊本に住む家族が被災しました。

大きな被害はなかったものの、混沌とした日々が続いていたのを覚えています。

あの日からもうすぐで5年が経とうとしている今。当時の記憶を言語化したことがないと気づきました。

あの日の記憶やあの日感じたこと。
それを言葉で残すことは、忘れないということ、覚えておくということ。

わたしが忘れないために、わたしが覚えておくために、短歌連作「あの日のこと」を詠みました。

※以下、熊本地震に関する記載を含みます。無理のない範囲でご覧ください


短歌連作「あの日のこと」


出身は熊本ですと言うたびに大変でしたねって言われる

真夜中の揺れに目覚めて母親に電話をかける「ただ今お掛け―

暗闇のなかでみていたふるさとの町を映しているNHK

朝が来て現実はより現実へYahoo!ニュースを何度もひらく

トイレットペーパーを預けに向かうやさしいひとがこんなにもいる

熊本へ支援物資を運んでるヘリが涙を乾かしてゆく

有給をくださいわたしにもできることを探しにゆきたいのです

こんなにも必死で買い物することはないのだろうな後にも先にも

5軒目でやっと手にした数本の水をリュックにつめこんでゆく

鈍行の窓から見える家々の空より青いブルーシートだ

ずずずずと崩れ落ちてきているそれは熊本城の肉体だった

見たことのない表情の母がいておそらくこれは安堵なのだな

我が家にはリビングの壁のひび割れがひび割れだけでそこに残った

一面に掃除機をかけたかのように祖母宅の屋根はなんにもなくて

ありがとう、ありがとうって何回も言う祖母と祖父が胸に灼きつく

待たされている時間さえもどかしい瓦礫撤去のボランティアにて

お姉さんも同じ中学だったの、とはしゃいでる子らのきれいな瞳

もう辞めた会社の同期から届くレトルトカレー こころがあつい

連休の城彩苑でゆるキャラが元気に踊っていて泣きそうだ

4月、春。あの日のことを思い出す。西に向かって祈りを捧げる。

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