47才のキャンパスライフ 〜慶應一年生ミュージシャンの日々〜 49「フランケンシュタイン」
夏休みが終わると英語のクラスで小説「フランケンシュタイン」を扱うという事で、それじゃ先に目を通しておこうかと軽い気持ちで手にとってみた。
予備知識はほとんどなく、フランケンシュタインと言えば僕の世代だと藤子不二雄先生の怪物くんのキャラクター「フランケン」の印象が強いので、エンディングテーマで歌われる
フンガーフンガーフランケン🎵
みたいに、頭の回転はよくないけど気は優しくて力持ちというイメージがあるくらい。また
「怪物の名前をフランケンシュタインだと思ってる人が多いけど、そうじゃなくてその怪物を作った人の名前なんだぜ!」
という、ドヤ顔的雑学を持ち合わせているのみであった。誰が書いたんだろと表紙を見ると著者はメアリー・シェリーという人。女性が書いたんだ!と軽く意表を突かれつつ、読み始める。(以下にオリジナル小説を全くの予備知識なしで読みたいという方には本編のネタバレとなる記述があります。ご注意ください!)
この小説は夏目漱石の「こころ」のように、ある人に宛てた手紙の中に記述されている物語という設定になっている。(枠小説と言うらしいですね)
200年も前の小説だから仕方ないんだけど、最初は見慣れない単語と文体にページがなかなか進まなかった。まあ秋学期が始まるまでに読み終えればいいかというくらいの目算でページをめくっていくと一章も読み終わらないうちに物語の世界に入り込み、すっかりハマってしまって結局三日ほどで読了した。令和の時代に生きる47歳男子をも夢中にするのだから、さすがは不朽の名作である。
それだけはまった要因としては物語の一貫性とスピード感、そして描写されている風景の美しさがあったと思う。スイスの山々、ライン川、スコットランドの島々の絶景が目に浮かび、またウィスキー好きとしては途中で主人公が訪れる島にも興奮したりして、基本的には陰鬱なトーンの物語だけど不思議に風通しが良い。
そしてですね、ここがちょっとネタバレになるかもなんだけど、前述したように無口で無骨なイメージだったフランケンシュタインの怪物、実はこのオリジナルの小説版では…
めっちゃ喋る!
物語の途中でびっくりするくらい長尺で喋る。数章をまたいで一人で喋り倒す。なかなか話が終わらないのでこっちも「いやいや、めっちゃ喋るやん!」と元々のイメージとの乖離もありだんだん面白くなってきてしまった。また喋りがうまい。引き込まれる。もう最後まで怪物の話を聞いていたいくらいだった。
あとめっちゃ賢い!
過酷な環境を一人で生き抜き、読書を愛し、数ヶ月のインプットで結構なバイリンガルになってしまうというスーパー頭脳の持ち主である。そんなアホなという気持ちもしないではないけど、この怪物が非常に素朴で純粋な心の持ち主で、そこで語られる怪物の身の上への同情が若干無理めの設定も(少なくとも僕にとっては)全然気にならなくしてしまう。
めっちゃ賢くて、話も面白くて、背も高い(でかいと言うべきか)という完璧なキャラクターだからこそ、彼の罪ではない「身の毛もよだつような外見の醜さ」のみに起因する被拒絶とそれに端を発する不幸、またその環境が彼の心をも蝕んでいく様が際立って、痛切である。映画版では怪物が無垢な少女と心を通わせるというシーンがあるそうで(藤子不二雄A先生の自伝的漫画「まんが道」に先生方がフランケンシュタインの映画を観たエピソードがあり、そこで紹介されていた)その癒しが来るのを期待していたのだけど、オリジナル版ではそのシーンはなく、清い心を持っているように見えた人物たちも容赦無く彼を排除していく。徹底して救いがない。
おそらく殆どの読者が怪物の方に肩入れし、その不幸を作り出しながらも徹底して被害者ぶるフランケンシュタインには理不尽を感じるのではないだろうか。そうなるとこの小説は諸悪の根源たるラスボス目線で語られる物語であるということになり、それも面白いところである。
読了して大変感動したのでメアリーさんはいったい何歳でこの小説を書いたのかしらと調べてみると、なんと書きはじめたのは18才、初版の刊行時でも20才そこそこと驚きの若さだった。当時は女性が著者である事に風当たりが強かったのか初版では自分の名前で発表する事を許されず匿名での発表となった。夫で詩人のパーシーシェリーが序文を書いたので(それが出版の条件だったらしい)彼の作であると思われることも多かったそうである。
その後フランケンシュタインが舞台化された時に、台本に怪物の名前が「____ 」とアンダーバーで記載されていることにメアリーさんは喜んだという記録があるそうである。名もない怪物であると言うことに、大きな意味があったと言うことだろう。
そして旦那さんだけでなく彼女を取り巻く環境や人々もなかなかに興味深かった(執筆のきっかけとなったバイロンという人物はギリシア独立戦争に参加したあのバイロンだった!)ので、彼女の一生を描いた映画「メアリーの総て(原題:Mary Shelley)」も観て、ますますはまってしまった。その映画には大好きなGame Of Thronesシリーズに出てた役者さんも二人出てて、なかなかにお得な気分だった。Filmarksなんかの点数は高くないけど、個人的にかなりおすすめしたい映画です。
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