チワワ・シンドローム
「琴美だけはいつまでも、弱くてかわいいままでいてね。」
弱さを味方につけたものこそが強者だ。
表紙からは想像がつかないほどの重さによろめいた。
大切な人が傷ついていたら、救ってあげたくなる。そのやさしい感情を正しさをもって利用しようとしたりされたり。
その中心ではなぜだか、侘しさが募る。
主人公は気が弱い女性で、親友に配信者のミアがいる。彼女は教祖のような求心力で、全てを肯定してみんなを綿で包むように支配する。それはそうすることでみんなを守っているから。主人公も彼女に守られて生きてきた。
そんな主人公が恋を実らせかけていた男性に突如として消えられる。彼の行方を親友と共に追ううちにさまざまな状況に巻き込まれていく。そういう話だ。
読み終わって思うのだけれど、やはり弱者も強者も紙一重だ。それは見え方にすぎないようにさえ思う。裏表や切り取り方、水滴のようなもので、併せ持つのが人間なのだ。
つまり、弱さだけでなく強さも肯定しなくては健全な人間らしくいられないのだど思う。そこのところが、主人公の強いところだとも思った。
チワワという弱者の象徴、過去の傷痕をさらしても、それさえ流行りとして多数に消費されてしまう、渦に巻き込まれるような独特の酩酊感。
びっくりするほど、“イマ”を切り取られていた。
数日前、好きだった漫画家さんが亡くなってしまった。その周辺で起こっているようなことがまるで小説みたいだと思っていた。こうやって読んでしまって、改めてこの事実と向き合うと、あまりにもグロい。肉体よりも精神が殺されてしまうというのは、そういうことなのだと思う。
この小説は、でも総じて強い話だった。
弱さこそ強い。
それは弱さがまっすぐさからくるものだからだ。主人公はきっとこれからも真っ直ぐ進んでいくのだろう。それは照らされない部分からひかる。
弱さをあたためているみなさまへ、ぜひ。
2024.0131
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