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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㉕

「心躍る感動の瞬間ですが」


「○○ちゃぁん、こっち向いてぇ」
「はい、ポーズッ」
「ちゅきにかわって、おっしょっきよっ」
インスタントカメラや、SONYハンディカムで
何かにつけて撮影会がはじまります。
我が家の姫は元気にすくすく育ってくれています
 
初めての寝返り
初めてのハイハイ
初めてのお座り
初めてのたっち
初めてのあんよ
 
心躍る感動の瞬間ですが、
悲しいことにあまり記憶にありません
毎日の育児に必死だったせいでしょうか
でもまあ、無事に育ったのでいいかな
 
そんなある日、保健所からお誘いがありました
「保健所の育児サークルに参加しませんか?」
「え、育児サークルって」
「若いきらきらしたママと赤ちゃんのサークルですよね」
「いや、ちょっと待って」
「車椅子で行って、仲間に入れるのかな」
と、心の中でおもいつつ
「はい、ぜひ」
例によって、元気に返事をしていました。
「〇月〇日〇時に、保健所へいらしてください」
「車いす用の駐車場もありますからね」

さて当日、よっこらしょっと娘を車に乗せて、大荷物も乗せて
自分と車いすも乗せて
いざ、保健所へ
会場はなんと、畳のお部屋でした
車椅子のまま上がるわけにはいかないので
車いすから降りて、ずるずると荷物を引きずりながら
娘と畳の上をはいはい、部屋の片隅へ座りました。

「はい、今日は断乳についてですが、まだ断乳出来てない人、いますか」と、保健婦さんがお母さんたちを見渡します。
「はい」
と、手を挙げたのは私だけでした
いっせいに視線が集まります。
すると、一人のママがするするっと寄ってきて
「もう断乳したほうがいいよぉ」と話しかけてくれました。
初めてのママ友です
集まっていたほかのママ達も
みんな日夜頑張って子育てをしている同志のようなもの
普通に仲間にはいれて
「あ、普通だ」とうれしかった
普通のママの
楽しい育児サークルでした

「ピーピーピー」
巣の中で、つばめの雛たちが大きく口を開け
親鳥がせっせと餌を運んでいる頃のことです
 
私はなんとなく体調の変化を感じていました
「ちがうかなぁ」
「いや、でもそうだよね」
「でも、まさか」

しばらく様子を見ていましたが
思い切って
再びあの大学病院を受診してみました
産婦人科です。
 
「おめでとう」
「え、」
「予定日は来年の2月だね」
おじいちゃん先生が笑顔でそうおっしゃいました。
 
やっぱり、私の予想は当たっていました。
コウノトリさんではなくて
つばめさんが赤ちゃんを運んできてくれたのです

私たち夫婦は
「子供を作るなら絶対に2人以上」と決めていました
一人で何もかも背負わずに助け合えるし
 何かの時に心の支えとして、きょうだいはいたほうがいいと
珍しく考えが一致していました。
なので、いずれはもう一人と思っていましたが
こんなにすんなり、普通に
第2子を授かれるとは思っていませんでした
神様に感謝です。
 
夫に知らせるともちろん喜んでくれましたが
義母には
「え、産むの?」
と言われてしまいました
一人でも大変なのに
まさか、車椅子の嫁が
2人も子供を産むなんて
思ってもいなかったのでしょうね
「え、産みますよ」
私はすまして答えたのです。
 


 


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