あの日の日記
赤いカバーの付いた日記が一冊、いつも本棚に収まっている。他の日記は一年が終わると何のためらいもなく捨てているのに、それだけは捨てられない。
私にとって、決して楽しかった日々ではないのに、何故か大切で、宝物で捨てることは考えたこともない。
春になると、私はある1ページを開く。
あの日、私は、私の小さな苦しい日常から突然、
切り離されるように解放された。
それと同時に何か大きなものを失った。
でも、悲しくなんてなかった。
少し心細かったけれど、空は晴れていたし、
春の日差しが私の背中をほんのりと暖めてくれていたから。
あの日から、もう7年も経った。
私は、もう一度立ち上がることができた。
でも、春が来るたびに、あのときの気持ちは、
色褪せることなく、今でも鮮明に強烈に思い出せる。
もう、私はあの窮屈で小さな脅迫めいた箱の中にはいないし、誰も私を押し込めたりしない。
平凡で、ありきたりな日常を穏やかに送っていると言えると思う。
だけど、心の奥底には、
静かに、消えることなく、
あの日が横たわっているのだ。
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