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3月の読書感想文

 去年の冬より雪が降った。たまに訪れる暖かい日には蚊柱がたった。茶柱と違って、縁起もくそもない。大量の虫が網戸に張り付くので気持ちが悪い。誰か暖冬と言ったか、そんなことは山奥では関係ない。0度に近づく夕暮れ、雪が降り、寒さに耐えかねたユスリカが部屋の電気にたむろする。室内灯のカバー裏には死骸の影が映る。どうやって入ったのだろうか。彼らを除いて他のユスリカたちは下に落ち、それらを拭い去ったティッシュも雪も下に落ちる。渡辺佑基『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』で物理を勉強しようと読んだ。今まで目視に頼っていた鳥や魚の調査は人工衛星による追跡でたくさんの新事実が見えてきた、らしい。それを一言であらわすと「バイオロギング」。想定していた物理の話とは少し違ったが、とても読みやすく面白かった。しかし、ペンギンがあまり出てこなかったということで、ペンギンを求めて森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』を読む。面白かった。
 雪がひとしきり降った。窓からみえる景色は、ペンギンが現れるほど幻想的ではなかったが、世界は白くて分厚い布団に覆われた。曖昧な気持ちになった。

 雪が降る日には本や音楽、映画を。(酒を。)寒さがそれほど厳しくない日、映画館から押し出され、夜の街に興奮が冷めていくのはとても気持ちが良かった。雪が降ると家でパソコン、U-Nextばかり。悪くはない。立て続けに映画は観られないので、余韻が抜けないうちは本を読む。何でも観てやろう。何でも読んでやろう。小田実『何でも見てやろう』みたいに。この本は3分の1くらい(便所のくだり)でやめたが、何でも見てやろうの精神には強く惹かれた。それを目標とする今度の旅には坂本龍一『音楽は自由にする』を持っていく。東北旅が僕にとって初めの一人旅だ。心が持つかわからないので、音楽に力を借りるつもりで、坂本さんの本を持っていく。
 本がリュックを圧迫した。旅に本は持っていかなくていい。きっと途中で買うからだ。図書館の本はなおさら持っていかなくていい。売ったり捨てたりできず、荷物になるからだ。 
 旅ではその土地の美術館や博物館に行く。國分功一郎『暇と退屈の倫理学』でいわれていた3つの暇、することなくて暇、することを今まさにしているけど暇(3つ目は忘れた。)をそれぞれ実感した。美術館で絵をみていても、なんだか暇な気持ちになる。美術館はそれを楽しむ人と行くべきなのかもしれない。僕ひとりでは落ち着かない。鑑賞する人と鑑賞されるもので1セット。芸術はひとりでは負えないと思った。

 本を読むのは好きだが、読んだそばから忘れていくので虚しくもある。学びとはなんだろうかと考える。あるとき、それを問うた本に出会った。池上彰『なんのために学ぶのか』だ。これを書いている今、ほとんどの内容を忘れている。だが、熱中して読んだことは覚えている。このままでは衒学のための読書になりかねない。しかし、まだわからないことが多いのて読み続けなければならない。
 あるとき、板書を取るように読書メモをつけながら本を読んだ。そうすると、メモを取った分がすっぽりと記憶から抜け落ちてしまった。外山滋比古『思考の整理学』に倣ったつもりが、そう簡単にはいかなかった。そういう手法を取った本はことごとく挫折した。

 頭を切り替えるには絵本がいい。五味太郎『のでのでので』には頭の疲れを癒やしてもらった。神田神保町で買った。説明的じゃない、だから何、というような話でいい、それでいいのだ。やっぱり絵本がいい。もうひとつのお気に入りは林明子『こんとあき』。一人旅を終え、そのとき感じた不安や孤独は「あき」の心情と重なった。どんな状況でも(ドアにしっぽを挟まれ、砂に埋れ、犬に噛みつかれ振り回されても)「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」と言ってくれる「こん」のような存在はとても貴重だ。僕にとっての「こん」とはなのだろうか。

おしまい。また4月の読書感想文で。謝謝、再见。

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