見出し画像

思い出はいつまでも黒く『2023.10.30』

目が覚めて七時間しか経ってない。

ご飯を食べて本を読んでご飯を食べた。
私に食べられた食物も、読まれた本も、私に関われて良かったのだろうかと考えてしまう。

仕事を辞めて月日が経ったが、月日が経つほど自分はどうして生きているんだろうと不安になってしまう。

人間が考え込んでしまうのは大体、お腹が空いている時、眠い時、寒い時、暇な時だ。
食べ物を食べて、睡眠の質をあげて、暖かい格好で忙しくしている人は、あまり考え込まないのかもしれないと思った。


私が人生のどん底にいた時を思い出す。


自分の中で、良い思い出と良くない思い出がある。だが良くない思い出は、良い思い出になる前に変身してしまっただけな気がする。
元々は全て良い思い出なんだと思う。


一年前に経験したどん底は、元は天国のような世界だった。
楽しかった。美しかった。ずっとここにいたいと思った。でもそう思っていたのは私だけで、一緒に天国を作り出していた人は、作りながらも少しずつ天国の壁を剥がしていたらしい。

壁を剥がしていますと告げられたのが一年前の夏。

辛くて辛くて、食べ物も食べれなくて、眠れなくて、心にぽっかり穴が空いて、何も手に付かなかった。

ああもういなくなりたいよ。
誰にも必要ない、むしろ邪魔だと言われたこの世界で、私の存在価値は生み出せない。
そう思っていた。

でも今思えばやっぱり、人間が考え込んでしまう要因に包まれている。
生きていく上で、生物としての機能がなっていなかった。だからこんなことならいっそ、と考えてしまったのだ。

こんな状態の中、私と過ごしてくれた友達や親。
おかげでよく食べよく眠りぬくぬくとした布団の中で本当にやらなければいけないことをこなした。

そして今の私がいる。
私はこの時から、考え込まない環境を作り出せる人間になっていたのだった。


大学時代、ひとり映画館にハマっていた。
講義が終わったら映画館に出向き、その時間にやっている映画を見て感想を書き出す。今そのノートを眺めると、なんだか端的で単純な感想が、数か月前の若さを物語っている。

見ていくうちに、人工の天国の中で楽しんでいる私も見えた。映画の感想ではなく、そこで過ごす私達の様子が書かれている。その頃の私はさぞ楽しかったんだと思う。良い思い出になるはずだった。

でも全く良い思い出じゃない。良くない思い出に変わってしまった。

今となっては良い思い出、笑って話そうと思えるほど大人ではないことを思い知らされるが私はこれでいい。
良くないものは良くない。純白だった素敵な思い出も、崩れてしまえば真っ黒で触れたくもない。

二人分の映画の半券と、感想ノートがこちらを見つめる。鈍く、汚く、黒ずんでいる気がした。本当は破り捨てたいけれど、過去の自分を否定するのは苦手だ。見ないように、これ以上黒くならないように取っておこう。

今日私の体内に入った今日の食料と、私の頭に刻み込まれた一冊の本は、私の中で良い思い出として残るはず。

経験値は人に頼らず、自分であげていきたい。
天国は作らない。現実を経験として踏んでいきたい。

これ以上良くない思い出を作ることはないと、夕飯を食べながら誓った。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

527,181件

#今日やったこと

30,816件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?