見出し画像

温度差【読書感想文:朝井リョウ 少女は卒業しない⑶】

前回の投稿はこちら↓

本を一冊読み終えた。
『少女は卒業しない』という短編集だ。今回は三作目、「在校生代表」の感想文を書こうと思う。


私の速読は、母方の祖父に似たのだと母が言った。
パラパラッとめくるだけで読めるような速読能力は無いが、自分の中ですっ飛ばして良いと判断した一、二文字は読み終わった文章と同等の扱いにした。

この作品は、そんな私の速読をさらに加速させる書き方だった。


前回前々回と書いてきた短編集の読書感想文。繋がりがあるのは明らかであるが、繋がりを作るって本当に頭を回さないと出来ない。この人とこの人にこんな関係がある、この時間はあの人にこんなことが起こっていたのにこちらではもっと大変なことが、とか。

この世に命を持って生まれてきた人間が過ごしている時間は平等だから、私が今こうして文章を打っている間に、両親は買い物に行っているし、友人は仕事をしているし、新たな命が生まれているかもしれないし、引き換えのように命が一つ空に捧げられたかもしれない。でもそれを自然に書くことは決して容易なことではない。あの時のあの瞬間に誰がどう動くのか。本当にバラバラだったとしたら書く意味がない。大きな目的を目の前にした彼らの人生を書く。本当に尊敬している。


内容だが、あまり覚えていない。
すらすらと読み進めてしまったのと、私が今持つ語彙力では戦えないくらい面白かったからだ。

他の人間が普通に過ごしていた空間を、彼女は特別だと思って生きていて、一日一日が宝物だった。宝物を自分で宝物だと思いながら過ごしていた。私はそんな彼女を羨ましいと思った。


人は一日一日を大切に生きることが出来ない。それは、どうせ明日はやって来るし、将来的な楽しさを感じていないからだと思う。

特に今の若者はそうだ。死にたい訳じゃないけど、生きたくて生きている訳じゃない。やりたいことも、面白いことも、辛く悲しいことも、学べる側の生活が終われば体験することはないことをもう悟ってしまったから。
この思考は私のものだから、若者と唱えるのは違うのかもしれないが。

だが彼女は日々を「楽しい」と誇らしく言えるくらい輝く生活を送っていた。目まぐるしい毎日でも、宝物の為ならと頑張った。そんな彼女が心底羨ましい。


何の成果も得られていない私の二ヶ月。今年もあと一ヶ月で終わる。彼女のように、誇れる一年として締めくくれるだろうか。
作品を読み終わった時の高揚感と、勝手に現実を突き付けられた絶望感の温度差が激しい。

この記事が参加している募集

スキしてみて

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?