「切ったものを食べる」というドイツの食文化
今回取り上げるこの料理には、なんともドイツらしさが詰まっていると思う。
日本の基準からすれば「料理」と表現していいのかどうかすら、あやしい。
以前の記事で書いたように、ドイツは冷涼な気候ということもあって、歴史的には小麦を材料とした食べ物(パン、ビール等)がメインだった。そこから徐々にジャガイモ、根菜などが入ってきて小麦以外も食べるようになり、更にはトマト・きゅうり・キャベツなどのフレッシュな野菜をよく食べるようになったのは、わずかここ数十年と聞く。
ということから、元々ドイツではパン、チーズ、ハムなど「買ってきたものを切って食べる」ことが食事の主流だった。
パンを買ってきて、切って食べる。
チーズを買ってきて、切って食べる。
ハムを買ってきて、切って食べる。
野菜を買ってきて、切って食べる。
そんなドイツの食文化を分かりやすく体現したものが、この料理。
日本語にすると「パン時間のお皿」。ドイツ語では「Brotzeitteller」(ブロートツァイトテラー)。
木の板の上にハム・チーズ・少しの生野菜やピクルス・パン・ディップなどがのっている。要は、買ってきたものを切って並べている。これとプレッツェルを合わせて食べる。
むかし、ドイツ人同僚たちとレストランへ行った時のこと。みんなでブロートツァイトテラーを食べているときに、アクの強いCEOが僕に向かって鼻高々で語ってくれた。
ドイツ人同僚
「ほら、ブロートツァイトテラーはとても効率的に提供できる料理だろう。フフフ、ドイツ人は仕事だけでなく、料理すらも効率的なんだ。ハッハッハァ!」
料理の味がおいしいことを誇るのはよくあるけれど、食事の準備が効率的なことを自慢してくるとは、予想外の切り口だった。
この食事は、ドイツを旅行する日本人にはおすすめ。
というのも、ガッツリした料理を注文すると一皿の量が多すぎて胃もたれすることもあるのがドイツ料理。でもこのブロートツァイトテラーは、何人かでおつまみみたいにチョコチョコ食べることができる。そして食材はドイツ的なものが多い。ということで良い選択だと思う。
ただ、これは元々はドイツ南部の郷土料理。地方によってはレストランのメニューにないのでご留意を。
あと、この生ビールサーバーにも、よく見ると下の方にブロートツァイトテラーがしれっと登場。
ということで、切っただけの料理を食べるブロートツァイトテラー。
「こんなの、料理じゃない!」と思われた人もいるでしょうか。
だけど、これはすこぶるドイツらしい思想に基づいたものだと思う。
料理を準備する人が、料理に忙殺されてしまってたいへんな思いをするのはみんな望まない。それよりも、みんなでワイワイ言いながら食事をして、人と人のコミュニケーションを楽しむ方が意味ある、というドイツらしい思想が反映された料理という見方もできるのではないだろうか。
この料理は、家で食事として食べるというよりは、友達や親せきなど多くの人たちが集まったときに、食べることが多い。
そんな大人数が集まったときに、料理を準備しようとすると、準備だけで疲れてしまう。ましてや料理をするために誰かが忙しくて、その人が楽しい会話の輪に入れない、という事態が起こるのは悲しい。
そうなると、料理がハードルになって、大事な人たちとの集まりが遠のいてしまうことも。
それよりは、このブロートツァイトテラーのような「切ったものをお皿に載せるだけの料理」で効率的に済ます。その分、もっと気楽に大事な人たちの集まりを開催することができる方が、よっぽどみんなの幸せに繋がると僕は思う。
ということで、この記事を読んで下さったみなさま。
「ホラ、ドイツではこんな手軽に切ったものを並べただけで、充分な料理になるらしいよ。うちも手軽に切って並べるだけで済まして、そのぶん気軽に友人や家族と一緒に集まって、楽しい時間を過ごそうよ!」
という誘い文句として使ってみてはいかがでしょうか。
by 世界の人に聞いてみた
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