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人生の真実を理解している奥さん

むかしドイツで働いていた時に同僚だったインド人が、こないだ桜の季節に日本へ花見にやってきた。奥さんも一緒にドイツからはるばると。

彼からは事前に連絡があった。「日本へ旅行するから、僕が考えた旅行計画について意見をくれよ」って。

そこで、オンラインで話をして意見を伝えて。それから更にメールで情報を提供して。そんな感じで彼の旅程づくりに協力した。

いよいよ彼らが日本へ来たとき。誘ってくれて一緒にお好み焼きを食べに行った。彼の奥さんも含めて3人で。

彼は、かな~りクセ強めのインド人。何かを語らせたら、それなりに聞かせる語り口で、延々と持論を語り続ける。

それはそれは、延々と。

・・・いや、ほんま長いねん、話が。

そんな彼らと、インドカレーとスパイスの話だけで2時間くらい盛り上がったなぁ。どうやったらカレーとスパイスだけで、あんなに話をもたせられるんだろう?

そして彼が滔々としゃべり続ける合間を縫って、奥さんもなにげによく喋る人だった。大家族の末っ子らしく、大らかで、屈託なくよく笑う、そしてユーモアもあるムードメーカー的な女性。とってもいいコンビの夫婦だった。

そんな彼らの来訪にまつわる、ちょっとした小噺から。

インド人時間

お好み焼き屋さんへ一緒に行った時、彼らは30分遅刻した。なるほど、これがインド人時間とかいうやつか。

で、彼らはそのお好み焼き屋さんが気に入ったみたいで、後日彼らがまだ日本に滞在している間にメッセージが届いた。

インド人
「こないだ行ったあのお好み焼き屋さん、もう一回奥さんと2人で行きたいから、電話して予約しておいてくれないか?」

ということで、お店に電話した。


「今日の19時から2人で予約できますか?僕の友人なんですが」

お店の人
「2人ならなんとかなりますよ。でも、今日は予約がいっぱいだから、決して遅れないでって伝えておいてくださいね。うちは小さなお店で余裕がないので」

って言われたから、彼には「NEVER be late」って釘を刺しておいた。

そしたら、予約よりも1時間以上前の、17時半過ぎに彼から電話が。

インド人
「いまお店に到着したんだけどさー。予約が見当たらないって言われて。お店の人と日本語で話をしてくれないか、電話を代わるよ」

電話口に出たお店の人は、予約が見つからずに相当あせっている様子だった。そりゃ、19時の予約なのに、まさか17時台に当然のような顔して来るとは思わないよな・・。極端やねん。

ところで、そのインド人と奥さんと言えば、思い出の話がある。

人生の真実を理解している奥さん

話は、むかし僕がドイツで働いていた当時にさかのぼる。彼と昼ごはんを食べていたら、彼の奥さんの話になった。


「どうして奥さんと結婚したの?何か決め手があった?」

インド人
「彼女はね。『人生の真実』を理解している人なんだ。だから結婚した」


「・・・ジンセイのシンジツ??」

インド人
「何が言いたいかと言うと・・、まず人にとって一番大切なことは『自由』なんだ。どの宗教でも自由の大切さを説いている。自由というのは『精神的に何かに縛られないこと』を意味している」


「フムフム」

インド人
「でもね、現実に人は精神的にいろんなものに縛られてしまう。例えば人は、何かを『所有している』と思ってしまう。奥さんを『僕の』奥さんだと思ったり、逆に奥さんは旦那を『私の』旦那と思ったりする。

でも、それは幻想。あくまでも、二人はそれぞれ独立した存在なのに、それをまるで所有しているように誤解しているだけ。そして、所有していると思っている状態は、精神的に相手に縛られてしまっているということなんだ。つまり精神的な自由を失っている状態。


「なるほど、なるほど」

インド人
「そうではなく、ものごとの本質を見失わず、その精神的な拘泥から自由になることが大切。だから僕は、急いで走ったりはしない。なぜなら僕は、時間というものに縛られてしまって、自分の精神の自由を失いたくないから」


「フムフム、なるほど」

インド人
「で、例えば僕がドイツ人の美女とお茶を飲みに行ったとしよう。でも、うちの奥さんはそれに嫉妬しない。なぜなら、あくまで僕は独立した存在であって、その美女のものになったわけではない、ということをよく理解しているから。たまたまその時にその人とお茶を飲みたいと思ったから、そうしただけのこと。

うちの奥さんは、そういうものごとの本質をよく分かっている人だから、嫉妬をしない。つまり彼女は『人生の真実』を理解している。だから結婚したんだ」


「なるほど、素晴らしい奥さんと結婚したね!」

僕はこのインド人の素晴らしい論理展開にすっかり感じ入って、家に帰ってからこの話を家族に話して聞かせた。

すると、うちの奥さんは、

うちの奥さん
「要は、結婚しても他の女の人と遊びたい、それを許してもらいたい、というだけのシンプルな話を、よくもまあ、それだけアレコレと理屈をくっつけて、もっともらしい話に仕立てたことで」

と一刀両断。

あぶないあぶない。またいつものように、このクセ強めのインド人にすっかり丸め込まれるところだった。

とはいうものの

でもまあ現実には、彼がドイツ人の美女とエンジョイしているところなんて全く見たこともない。

それよりも彼は、自由に考え、自由に喋ることを何よりも大事にしている。そうやって自由に生きることができれば、彼にとってはいい人生だったと思えるはず。

そんな彼らしい生き方を理解して、受け入れてくれる奥さん。そんな彼女のことを、彼は「ジンセイのシンジツを理解している」と表現しているのかな。

お好み焼き屋さんで、長い長い彼の話を聞きながら屈託なく笑う奥さんを見ていて、そんなことを考えていた。

by 世界の人に聞いてみた

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