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対談インタビュー 『住まコト』 Vol.1 藤田雄介さん

リノベーション住宅で「多様性」を。“オリジナリティ”と“普及化”をプランに落とし込んだ二人の考えるリノベの未来。

Cuestudio×Campdesign コラボパッケージリノベーション始動 特別対談

Vol.01 藤田雄介さん Camp Design inc.代表

今回対談するのはCuestudio澤田と、注目若手建築家の一人であり、建築デザイン事務所Campdesignを主催する藤田雄介さんのお二人。コラボ企画としてパッケージリノベーションのサービスを8月にローンチしたことにくわえ、昨年両者が設計・施工を行ったマンション住宅が雑誌「新建築」に取り上げられ掲載されるなどを踏まえ、プライベートでも親交の深いというお二人に、リノベーションのこと、未来の住宅事情のこと、ケンチク業界のこと、さまざまなテーマで語っていただきました。(2017/11/10)


1 コラボリノベーションのきっかけは?

―今回のコラボパッケージリノベーションに先駆ける形で、まず戸建て新築住宅と、それからマンションリノベーションの2つをCuestudio・Campdesign共同で行っています。そこに至った経緯から教えてください。

藤田さん:まず去年に横浜で注文住宅のプロジェクトのお話があって、それが比較的凝った内容というか、建売住宅に見られるような“ふつうの一軒家”とはちがうものだったので、そういったものをしっかり施工できる会社はないか探していました。
もちろん今までもさまざまなパートナーと建ててきてはいましたけれど、おさまりもそうですし、こちらの設計した意図を汲んでくれるパートナー探しは常に考えていたんです。
そんなときに、共通の知人から、大悟くんの話を聞いて、Cuestudioはリノベも注文住宅もやってるよと。これはという風に思いました。

澤田:うちには大ベテランの施工管理がいるよっていう話をして。藤田くん特有の設計プランを、現場の大工さんにしっかり伝えていけるっていうところも含めて。

藤田さん:僕らの考えるデザインのポイントみたいなものが、図面だけでは上手く意思疎通し切れなくてヤキモキすることってときどきあるんですよ。戸建てをやって、とても手応えがあったので、三軒茶屋のマンションリノベーションでもじゃあ一緒にやろうかという風になりました。自然な流れでしたね。

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―なるほど。それが「新建築」に取り上げられた事例ですね。

藤田さん:はい。今回のコラボパッケージリノベーションの雛形にもなっています。

澤田:おさまりがわかっているかいないかで、大分変わるからね。その人の癖というか。

藤田さん:うん。それは僕だけの話じゃなくて、建築家それぞれに個性があって、理想とする家のイメージもちがうから。例えば、僕の場合建具を設計の重要な要素にして、さらに「戸戸」という建具専門のネットストアをしていることは、家をつくる上でひとつの特徴になっているのかな。

―「戸戸」は横浜の注文戸建て、三軒茶屋のマンションリノベ、どちらでも取り入れていますよね。引き戸やドアノブなど、オリジナリティに溢れ、洗練されたフォルムなんですが、どこか昔懐かしい「日本の木造建築」というようなあったかさを感じます。

藤田さん:ええ。僕たちがデザインしている建具は木製建具が多いですが、実際にはコストや加工のしやすさから木を使っています。ただ、あまりノスタルジックなものにしたくないので、一般的な木製建具ではないような細く端正なデザインを心がけています。それによって和風すぎない、工業製品のような雰囲気も持った建具になっています。

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▲ 三軒茶屋マンションリノベーション 竣工間もない完成見学会の様子。建築家やリノベーション会社などたくさんの関係者が訪れた。


2 昨今のリノベーションが注目されている時勢に対してどう思っているのでしょうか? また今後どうなっていくでしょうか?

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藤田さん:リノベーションはどちらかというと、大手住宅メーカーが入り込みにくい世界。間取りもひとつひとつ違うし、同じ形式でつくれないから、考えていかなきゃならない。これまでの住宅産業の路線とは違うものを作り出せる可能性はあると思っています。実際に大手だと、無印など家具を扱っているメーカーの方が積極的に参入しています。大手住宅メーカーのような箱として住宅を生産するやり方だと難しく、家具や建具のようにすでにある箱にフィットさせるものからアプローチする方が、リノベーションには適している。

澤田:少子化・人口減少といった理由で住戸がどんどん余り出しているよね。僕がなんとなく予想しているのは、都心と郊外のデュアルライフというか、二つの家を行き来する生活っていうのが、もう少し当たり前になってくるような気がする。まあ自分がアウトドアやサーフィンが趣味だから、今の目黒にある家とは別に、奥さんや娘と休日に過ごせるような場所をリノベーションでつくれたらいいなという願望もあるけど。でも他にもそう思っている人けっこういるんじゃないかな。

―家が余る時代なら、1世帯が複数持つというのは現実味がありますね。

澤田:そういうライフスタイルがもっと普及したらいいなと思うよね。それに、住宅だけじゃないよ。最近気になるのはオフィスビル。東京では今、オフィスビルの建設がものすごい勢いで進んでいるんだよね。まあ東京オリンピックの2020年に合わせた再開発なんだけど、本当に大丈夫なのかなっていう気はする。ここもやっぱり少子化で働き手が減ることを考えれば、オフィス需要の大きな伸びというのは難しいんじゃないかな。そうすると、別の使い方ができる用途へコンバージョンという話になってくるし、そういうところも今後やっていきたいと思ってる。

藤田さん:それってオフィスを住宅にするっていうこと?

澤田:それもそうだし。ホテルにするとか、保育施設や介護施設に改修するとか、文化的な公共スペースでもいい。いろいろ可能性はあると思う。

藤田さん:それなら用途変更が一番問題になってくるよね。澤田くんが言っているような、既存ストックを活かした新しいライフスタイルを実現するためには、制度の問題が障壁になっている。

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澤田:そうだね。例えば消防法ひとつとってみても、設備が変わるし避難経路も変わる。もともとオフィスビルはオフィスのためにつくられているわけだからね。空いている部屋を何かまったく別の用途に変更しようとしても、階段を増やさないといけないとか、じゃあ開口を設けるために躯体はハツっていいのかとか、そういう問題にぶつからざるを得ない。(※ハツる=斫る。コンクリート構造躯体を削り形を変えること。)

藤田さん:友人の建築家の佐久間悠さんという方は、用途変更などリノベーションで障壁となる法的な部分の整理に詳しく、そういう事例をアーカイブ化して、みんなで共有しようと考えています。

澤田:住宅はもちろん、オフィスにしても貸店舗にしても、好い立地の場所は心配ないだろうけれど、そうじゃない建物はどんどんニーズがなくなって、価値が下がっていってしまう。そこにリノベーションの可能性というのはあるよね。

藤田さん:オフィスを住宅化して、めちゃくちゃ天井の高い家とか、そういうのが増えていったら面白そう。


3 ご自身のリノベーション(デザイン・テイスト・こだわり)の特徴を挙げるとしたら?

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▲ 建具「戸戸(コト)」の「木のドアノブ」。

―リノベーションは大手住宅メーカーの参入しづらい世界というお話がありました。ただ今回のパッケージ化はある意味、大手が得意とする「型にはめる」ことでもあると思うのですが。

藤田さん:最近のリノベーション会社がやる間取りの流行で、大きなワンルームにリビング・ダイニングをつくって、アイランドキッチンみたいなのが多く見られると思うんですけれど、みんながみんな、こういう開放的な住宅を求めてるの? と疑問に感じる部分があるんです。と同時に、リノベーションが、スタイル化しているんじゃないかと感じるんです。

―たしかに。リノベーションって自由なハズなのに「お決まり化してない?」という問いに近いものでしょうか?

藤田さん:そうですね。そうなると結局建売住宅と同じようなものになり、リノベーション自体も一過性のブームになってしまう危険性があります。そのような状況に対して、建具を用いて空間を緩やかに分節したリノベーションを提案しています。

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▲ 基本は、藤田さんが過去に使用した信頼のおける素材から選んでゆき、迷った場合はサンプルで比較検討するというプロセスで決めていった。

―ただ広い空間があるより、仕切りのあるほうが場所に多様性が生まれるということですか?

藤田さん:そうですね、やはりだだっ広いワンルームは、誰でも上手く使いこなせる訳ではないと思います。また、仕切ることで中間的な場が多くなることも重要です。

例えばマンションだとサッシは共用部なので、勝手に交換するのは難しい場合が多い。そのためサッシはそのままで、サンルームなど内と外の中間領域を設けることで、そこが断熱層となり室内の暖房不可を低減することができます。今回のパッケージでも、建具を用いた中間領域をつくるアイデアを沢山用意しています。

―建具っていろいろな使い方ができますものね。それこそ仕切りになったり、インテリアでもあったり。そういう理念が「戸戸」の商品開発化のきっかけになっているのでしょうか?

藤田さん:いや、最初はとくに商品化などは考えていませんでした。初めは、設計していく中で、その住まいに合った建具を考えて、造作していただけだったんです。それがだんだんと増えていって、自然と形づくられていったものをふと振り返ってみたときに、「今までの建具をまとめて、名前をつけたらどうだろう?」ということに気づいて、TOOL BOXさんなどの協力も得ながら、現在の形にまでなっています。

―とても自然なところから生み出されたものなんですね。建具の持っている可能性を引き出しながら、新しいリノベーションの本質に近づくという両義性が「建具」に象徴されていますよね。

藤田さん:うん。やはりマンションリノベーションだととくに効いてくるんですよね。限られた空間をいかに仕切るかが重要になってくるので。ただ壁をつくると狭くなるし、自由度が下がってしまう。

澤田:うちはデザイン的な特徴はこれといってないかもしれないけれど、お客様の要望を全力で叶えるというところは一番大事にしている。Cuestudioはもともと始まりは賃貸物件が大多数のリノベーションブランドだったので、築ウン十年の賃貸物件をなるべくコストを抑えて再生するというのが優先事項だった。
個人のお宅のリノベーションをお任せいただくようになった現在でも、お施主様のご要望そのままをでき得る限り応えていくというところの姿勢は変えずにやっていくつもり。藤田くんのような建築家と違う点は、ワンストップリノベーションのように、自社仲介、自社設計、自社施工という風に、不動産流通から一貫して関わることができるというところが特徴なのかな。

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▲ Campdesignのオフィスにて打合せを行う。

―オリジナリティが重要である建築家と、普遍化のCuestudio。本来は相容れない関係ということなのでしょうか?

藤田さん:それもちがいます。戦後の住宅の歴史を見ても、昔のプレハブ住宅とかは建築家がやっていたしね。団地などの大型住居を任されるのが花形だった時代もあるので。

澤田:そうなんだ。言われてみればそうか。

藤田さん:団地の黎明期を支えていたのはいまでは巨匠と言われている建築家だったんだよね。初期の団地にはけっこう名作がある。前川さん(前川國男氏/建築家)とか坂倉さん(坂倉準三氏/建築家)とか。

戦後日本の人口が劇的に増えて、住宅供給を急ピッチで進めていく必要に迫られて。いわば団地が「最先端」だったわけだよね。と同時に、日本人の家族形態の変化や生活のレベルに合わせて、間取りも様相も変わってきた。その中で“モデルプランの雛形”をつくった先人たちの力や、それがマスに広がっていく力は、やっぱりすごいこと。当たり前だけど、そこに暮らす人が暮らしやすいと感じることが一番大事なことだと思う。

僕もさまざまな設計をしてきているけれど、人生であと何戸の住宅を手がけられるかみたいなところもあって。「せいぜい……」という数では、世の中の住環境は変わらないから。ふつうだったら建具を流通させたり今回のような企画はやらないのかもしれないけれど、直接関われない住宅にも少しでも関わっていける部分があるなら、僕の理念みたいなのはそこで十分感じてもらうことはできるんじゃないかと思っています。

そういう意味では、自分の理念をどう広げていくかということはやっぱり常に考えていますよ。かつての宮脇さん(宮脇檀/建築家・エッセイスト)とか中村さん(中村 好文/建築家)のように、「キッチンとはこうあるべし!」みたいに、住宅の在り方や考え方を広く伝えていくっていう方法もある。

でも以前と現在で大きく違うのは、インターネット上で簡単に多くの人へ広げられるようになったこと。建築家がプロジェクトでつくったものを、そのまま売ることができる。それが別のプロジェクトで使われたりとか、普及の仕方がちがってきている。

だからCuestudioがやっているリノベーションの中に、自分の家づくりのテーマが伝わって、少しでも普及してくれるなら本望ですね。さっきの「団地黎明期の名作」みたいに。

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4 定額制コラボリノベパッケージにどんなメリットがあるかアピールポイントを

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―大分話が広がってきましたので、ここで本題のコラボレーションリノベーションのお話に戻していきたいと思います。

澤田:中身について触れると、基本的には、戸戸の木製引き戸や無垢フローリング、造作キッチン、モーガルソケット照明、土間モルタルの玄関など、三軒茶屋のリノベでやったことがモデルとなっています。間取りはそれこそ十人十色だから、建物の制約以外ではとくに縛りはありません。100%自由設計という形。
素材だけじゃなく、畳の小上がりや、サンルーム、シナランバーの造作収納棚とか、つくる部分も用意しています。でもこれは人それぞれ好みに寄るだろうから、パッケージには含めず、オプションにしています。

―「畳の小上がり」や「サンルーム」という響きが藤田さんらしいですね。これも過去にやったものをモデリングしているのですか?

藤田さん:そうです。土間の床を多く取るとか、ガラス引戸のサンルームとか、その部屋に合う景色としてかつて考案したものを土台にしています。外のようで中、中のようで外、という空間があるのって、特別なことだと思うんです。町屋の通り庭とか縁側とか、そういう景色は生活が豊かになると考えています。

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▲ Photo by Kenta hasegawa


澤田:なるべくコストを抑えて、好きなデザインのリノベーションがしたいというのがお客様の要望だと思うんだけど。建築家の前で言うのもあれだけど、建築家に頼むっていう人は、よっぽど予算があるか、デザインに求めるレベルが高い人だと思うんだよね。
みんなやりたくても、まず予算が合わない。さっきの広げるという観点からいえば、かなり小規模になってしまう。

だから藤田くんに監修してもらって、藤田くんの理念やテイストを一般的におススメできる今回のかたちは、いいんじゃないかな。

藤田さん:よく写真や雑誌を見て、「こういうのがしたいんですけど」、と設計事務所やハウスメーカーに実際に持っていくケースってあると思うんだけど。でも予算が合わない。それでもしたい。といって、じゃあ今度はもう少し手頃にやってくれるところに持っていって、写真どおりにやってもらうというのは世間的に少なからずあることだと思うんです。

澤田:でも……。

藤田さん:でも、意外とできないんだよね、これが(笑)。微妙なものになってしまうのはよくあることで。

澤田:うんうん。空間性もあると思うんだけど、実は設計士さんたちがこだわっているのって、ディテールだったりすると思うんだよね。

藤田さん:あとはマテリアル。

澤田:他の人にやらせても、意外とそうならないんだよね。そういう意味じゃ、空間もマテリアルも、藤田くんは両方兼ね備えているんじゃないかな。

藤田さん:マテリアルの使い方はまだまだ幅を広げていきたいとは思っているよ。でもやっぱり建築の人間だから間取りのこだわりのほうがあるかな。

澤田:そういうところ含めて、僕は藤田くんのオリジナリティをCuestudioのリノベーションに取り入れたいと思っているよ。デザインとしてという意味もあるけれど、こういう住まいのつくりかたをうちの若い社員に知って勉強してほしいという狙いもあるかな。そこは企業目線というか、立場としてあるよ(笑)。

藤田さん:(笑)

澤田:あとはこういう形がもっと上手くいけば、他の建築家さんをフューチャリングしてあげることもできるよね。持ちつ持たれつというかね。共存していきたいな。大手住宅メーカーにはできないようなことをもっと一緒にやっていきたいよね。

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―3年後、5年後どうなっていると思いますか?

澤田:なんでもかんでもリノベーションというわけにもいかないから。新築だってあるし。オリンピックまでは建設ラッシュがつづくと思うけど、ただそこから既存のものが流通し始める。で、そこでコンバージョンの話になるけれど、それに合わせて法律も厳しくなってくる。とすると、ある程度ちゃんとした会社でないと生き残れない。ふるいにかけられる時代になると予想しています。

藤田さん:あと建物の内装だけじゃなく、パブリックスペース含めての刷新というのもひとつのキーポイントになってくると思う。団地のリノベーションは僕もやったことあるけれど、エントランスや棟間の平地とか、その敷地全体をリノベーションしていくことで不動産価値が上がるという部分もやっていけたらいいと思っています。


5 リノベーション検討中の皆様にひとこと

―最後に、これを読んで下さっている皆様へ今回の定額リノベーションパッケージをおススメしてください。

澤田:モニタリングでやってくれた最初のお客様には10%OFFにします!

―えっ、いきなり。今決めちゃうんですか。(笑)

藤田さん:10%ってけっこうな額だよ。(笑)

澤田:すごいでしょ。うんやっぱり3組様にしよう!

藤田さん:じゃあその3組には僕から木のツマミを……。

一同:(笑)

藤田さん:あとはパッケージは随時更新していかなきゃだね。

澤田:そう育てていく必要はあるね。テイストの違うバリエーションパッケージもつくっていきたい。

藤田さん:流行り廃りもあるし、固定化するとリノベーションの意味がつまらなくなってしまうので、発展性のあるものとしてやっていけたらいいね。


インタビュー/撮影:高崎亮太
撮影協力:ファクトリー&ラボ 神乃珈琲


PROFILE
藤田雄介

1981 兵庫県生まれ
2005 日本大学生産工学部建築工学科卒業
2007 東京都市大学(旧:武蔵工業大学)大学院工学研究科修了
2008-09 ㈱手塚建築研究所勤務
2010- Camp Design inc. 主宰
2013-16 ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師
2015- 明治大学 兼任講師
2017- 東京電機大学 非常勤講師
受賞歴
2012 UR団地再生デザインコンペ 最優秀賞(花畑団地27号棟プロジェクト)
2014 アジアデザイン賞 銅賞(花畑団地27号棟プロジェクト)
2015 住まいの環境デザイン・アワード 優秀賞(花畑団地27号棟プロジェクト)
グッドデザイン賞(花畑団地27号棟プロジェクト)


特設サイト「Campdesign×Cuestudio コラボパッケージリノベーション」



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