触れるということ。それは知りたい、ということ。
先日の記事に書いたのですが
わたし、盛大に大怪我したことがありまして。
その入院中、友達や生徒さんが
お見舞い来てくれた。
本当に嬉しかった。
お風呂にも入れていないし
身なりもパジャマ。車椅子。
この入院の前年も
脚を怪我して迷惑をかけたというのに、
またこんな情けなくて
みっともない姿を晒す…
それよりも何よりも
わざわざ自分なんかの為に
会いに来てくれたことが本当に嬉しかった。
そのひとり、○○ちゃん。
大学生。高校生の頃から通ってくれていた子。
彼女もお母さんと一緒にお見舞いに来てくれた。
怪しい、整体
その、○○ちゃんの通っている整体。
彼女からその凄さをチラリと聴いてはいた。
彼女は非常に躊躇しながら言うのだ。
なんか…怪しいから
あんまり言いたくないんですけど…
その先生が触ると治っちゃうんですよ…
嫌なんですけど、怪しいから
あんまり言いたくないんですけど!
わたし、そういうの信じてないんで!
なんか、気、とかそういうの
怪しいし、信じてないんです!
でも!その先生が触ると治っちゃうんです!
何で具合悪くなったかとか
言い当てられちゃうし…
先生が言った通りのことやると
本当に良くなっちゃうし………
よくわかんないんです!
でも、なんか、良くなっちゃうんです!
………
この感じ………
この感じ、めちゃめちゃ匂いません?
ん〜、匂う。匂いますぞ………。
すごいんじゃない、それ。
その先生すごいんじゃないのそれ。
めちゃくちゃ気になる…
行ってみたい………
とは思ってはいた。
けれど、なんせ遠い。
車があれば20分程度。
わたしは車ない。どペーパーだし。
となると電車を乗り継ぎ、
バスを乗り継ぎ1時間ちょい…。
んー、その熱量はない。
その整体についてをフンワリと
脳内の隅に置いて生活していた。
そしてだ。
わたしが大怪我をして退院後。
○○ちゃん母が
先生、是非例の整体へ行きませんか、と。
お連れしますよ!と…!
○○ちゃんだけでなく、やはり
○○ちゃん母も、その整体は
お墨付き、とのことで。
やはり、同じように口籠りながらも
その凄さを滲ませる語りぶりに
益々興味をそそられて
前のめりで「行きたいです!!」と
鼻息を荒らげたのでした。
その場所はもう…田舎。
見渡す限りの田舎です。
広ーーいお庭がある平屋の古民家。
○○整体、と書かれていたが
道場のような雰囲気を持つ木製の看板。
激渋い。
なんだか建物を包む厳かな空気感があって
訪れた3人で普通におしゃべりしながら
その古民家の玄関に入ると……
やっべ……………
やってもうた………………
背筋が凍った。
おしゃべりしてた声とか、
絶対この空間にとって異音、ノイズだったわ………
相応しくない。
場違い。間違えた。
そういう所ではない。ここは。
瞬時に思い知らされた。
ここ、もはやお寺じゃん。神社じゃん。と。
玄関に入るとすぐに
小さな台がチョンと置いてあり
帳簿と小さな箱が並んでいた。
帳簿に、名前を記入する。
整体の料金をその小箱に入れる。
そしてすぐ横の広間で施術を受ける、
というそんな仕組み。流れ。
いやいやいやいやいやいや
えっ、いいの?!
お金、玄関にいきなり小箱に
入れておいてね、なんて…
後々伺ったのだが、お金のやり取りをすることに
「気」を使いたくないのだそうで
施術に専念したいから
そのようなスタイルになった、とのことでした。
そして、その大広間へ
おそるおそる、そーっと足を踏み入れると
美しい……………………………
圧倒された。
なにが?
わからない。上手く言葉にできない。
空気。空間。
ふっつーーーーーの
田舎の古い家の和室を
間仕切り取っ払って広く使っている
普通ーーーーの部屋なのに。
素晴らしい書とか掛け軸とか無いのに。
ただ、静かに整体をする
作務衣を着た先生方ご夫婦おふたり。
ひとりずつ、並んで
同時に施術をしている。
やわらかく、かといって
グニャリとはしていない
身のこなしで何かをしている。
でも、なにやってんのかよくわからない。
なんか、茶道とか華道
剣道、柔道………
そういった、ナントカ道のような
静けさが空間を制していた。
施術のはじまりと終わりで
先生と施術される側が正座で向かい合い、
礼をしている。
そういったことにも胸を打たれていた。
見惚れていた。
静かにできる人だけです
その施術スペースの決まりとして
会話禁止。スマホ禁止。
施術の妨げになるような行動は禁止。
それができない人は
邪魔なので来ないでください、と。
その場、に足を踏み入れるところから
施術はもう始まっている、という
心構えで施術の待ち時間を過ごすのだとのこと。
確かに…
その場にいるだけで確かに何か感じた。
施術は○○ちゃん、○○ちゃん母
そして、わたしの順番。
わたしの名前が呼ばれる。
嬉し恥ずかし、緊張、で
先生と向き合う。
そして、今日はどうされたのですか、と
問診のような会話がはじまる。
先生は、独特な雰囲気を持っていて
何と言い表したら良いのだろう…
良い意味で、わたしを面白そうに見ている。
優しさと厳しさと、好奇心と恐れ知らずな勢いと…
明るさ、楽しさ、いろいろを感じる。
いざ、施術がはじまる。
うつ伏せになり、背骨に触れられる。
んーーーーーー……………………
あれ?
ツボとか押してくれないのかー………
正直物足らない。
んーーー…………………………
でも嫌な感じは決してしない。
でも、整体って、押す揉むほぐすとか
そういうのじゃないのかー…と
様子を伺っていた。
そんな調子で施術が進んでいく。
まさかの世界三大珍味発見
やがて、わたしは
施術のあれこれを考えてはいなかった。
ただ触れられる感覚を感じていた。
次の瞬間。
派手に複雑骨折をした右足首に
先生が手のひらを置いた。
置き続けている。
わたしは、訳の分からない
号泣状態に、瞬時に。
いや、待って、待ってくれ。
前述した通り
部屋は静けさに満ちていて
うちの生徒さん、彼女の母。
施術を待つ方達。
おそらくわたしを見ている。
いやいやいやいやいや
ポロリと泣く程度ならまだしも
嗚咽しそうなレベルで号泣とか
まじで勘弁してくれ、わたしの身体!!!
と。
そう、悲しい気持ちとか無いんですけど
身体が勝手に泣いちゃう、という感覚。
横隔膜が引き付けを起こすようにして。
泣きたくない。絶対に。
必死に抵抗するから余計に力んで
もうどうしようもない、誤魔化しようのない
号泣状態ヒートアップ。
ヒック、ヒック…………と
声を上げてしまう。勝手に出てきてしまう。
それを絶対に阻止したいから
息を止めるようにすると、逆効果になって
豚がトリュフを探しているような
荒々しい鼻息と謎の息の音…
フガッヒョホッ………ヘッ…………
ホハホハッ……………
ズズズッ………(鼻水)
クククッッッッ!!!!(こらえて逆効果)
スンッ!!!!
フヒフヒフハッ……………
ズヒョッ………(再・鼻水)
もう最悪!!なぜ!!
どうしてこんなことに!!
絶対に生徒さん達の方を見れなかった。
それまでの静けさ。美しい施術。
空間。
全部、己のトリュフ探しでぶち壊し。
もう、それも収集つかなくなってきて
ええい、ままよ、と施術を受け…
終わった。(いろいろと)
最後、先生と向き合って正座をする。
わたしの身体は、呼吸は
まだトリュフ探しをしている。
タオルで口を抑えて、先生の言葉を待つ。
なんだろう、なんて言われるんだろう…
先生、口を開いた。
「こういうのやると…泣いちゃうタイプ……?」
引いてるやん…………
でも、先生、ニッコニコ笑ってる。
面白そうに。
え、こういう時ってさ
「デトックスなので、泣いていいんですよ…」
とか
「本当は泣きたかったんです…あなた…」
とか、そういうのじゃないんだ?!
癒やし系、みたいな。
そういうのじゃなかった。
いや!いやいや!
全くそんなことはないです!
こんなことは初めてで!!!
と、言いたいけど
まだトリュフ探しから帰れず
上手く喋れない。
しかも、ここの記憶が途切れ途切れ。
思い出せない。
実際、この先生が引いていたのかというと
それは後々わかった。
先生は施術される側の
その人自身で把握している身体や
精神などの状態と、
実際のそれらの差を読み取って
身体に教えてくれるような施術をされる方で。
あまりにもその差に驚いていた、というか
良い意味で面白がっていたのではないかなと
思っています。
先生は、人を正すとか矯正するという事をせず
ただ気づかせる。
それがどれだけ容易ではないことなのか。
あの頃は知る由もなかった。
後から振り返って、この時の号泣については
自分なりに色々と思うところがあって
非常に考えさせられるものとなりました。
身体の声。大泣きしていた。
わたしは大怪我をしてから
この怪我について、身体に対して
かなり怒っていた。
なんでこんなに痛いんだよ
なんで骨折れてんだよ
なんでこんなに上手く動かないんだよ
なんでいつもこうなるんだよ
なんでいつも思い通りにならないんだよ
なんでこんな身体なんだよ
なんでこんな人生なんだよ
大っ嫌いだった。本当に。自分の身体が。
自分が。
そのことに気づかせてもらった
あの先生の手。
自分で、骨折した箇所に
優しく触れたことなんかなかった。
骨折した時点でめちゃくちゃな
痛みを負っているのに、そこに加えて
鉄の板、ボルトを打つ。
メスで皮肉を開く。糸で縫う手術。
全身麻酔。
痛む傷口に氷で冷やす。
麻痺するほど冷やす。
それでも痛むから痛み止めを飲む。
身体…めちゃくちゃ。
そのことにやっと気づかせてもらえた
そんな施術だった。
先生の手で、安心できた。ゆるんだ。
しかも、先生は多くを語らない。
ヒントだけを置いて
わたしにゴクリと飲み込みきれない
良い意味の違和感をもたらす。
どうして、あの出来事が起きたんだろう…
わたしは本当はどうしたかったんだろう…
わたしは本当は何を感じていたんだろう…
と。
そして、あなたはこのように動くことを
心掛けてみると良いですよ、という
身体の使い方の具体的なアドバイスを毎回くれる。
そんなこんなで
この整体に通うことになって
不思議な施術にどんどん惹かれていくのでした。
しかし、通うのに
往復およそ三時間というその距離などで
足が遠のいてしまった。
その代わりと言っちゃあなんだけど
月に一度届けられる先生のコラム冊子を
楽しみにしていた。
毎回毎回、欲しい言葉がドンピシャで。
メールが返ってきた
特に、感動した回があって
不躾ながらメールにて、感動した思いを
感想として送らせていただいたことがあった。
あまりにも感動したので
その想いを伝えたくなってしまって。
返事など期待していなかった。
むしろ、浮世離れした感じのする方なので
PCやメールなどはご自身で
触れることなどないのでは、とすら。
しかし、返信が、きた。
ま、じ、で、腰抜かした。
まさか、先生から返信が来るとは…と。
その返信内容には、震えて飛び上がった。
あまりにも嬉しいことが書いてあった。
わたしなんかが、
人様に音楽を教えるなどという仕事を
していいのだろうかと悩める部分に、
そっと手を置いてもらったような感覚だった。
嬉しくて、報われた、という気がした。
と言うのは、○○ちゃんのことだ。
彼女は何年もその整体に通っており
彼女の身体の状態の移り変わりを
先生はよく知っておられるそうで。
ある時、○○ちゃんが
こんなことを言っていた。
整体の先生が、音楽を習うようになってから
身体が変わったね。
あなたに合っているよ、と言われたのだと。
わたしは、嬉しかった。
かと言って、そこまで
取り立てて喜び舞う程ではなく。
まぁ、音楽ってすごいからね!
よかったね、くらいの。
だけど、○○ちゃんは
あなたという人間と音楽を通して関わることで
変化したんだよ、といったメールの内容。
先生からいただいたその言葉。
喜びに震えて、叫んだと思う。確か。
メールを読み終えたのちに…。
読みながらだったか…とにかく爆発した。
嬉しさが。
自分自身のレッスンについて悩んでおり
ちょうどこの整体に行った日なんて
○○ちゃんとこんな話をしたことを覚えている。
「わたしは、もう先生って呼んでもらうのやめようと思ってるんだー。」と。
すると、○○ちゃんは
「なんでですか!先生は先生なんだから良いじゃないですか!」と。
「でも、偉そうな感じがして嫌なんだよね」
「さくらちゃん、みたいな感じで行こうかなって」
なんて言うと
「先生は先生なんだから自信持ってください!」
なんて言ってくれた。まっすぐな子だった。
この子は後に社会人になっても
ずっとずっとずっと通い続けてくれた。
今年の初めまで。
だけど引っ越すことになり卒業していった。
店舗を構える事になったときも
一緒にペンキ塗りをしてくれた。
未だにお茶をしたり
彼女の家にあそびに行くこともあったり。
思い出に尽きない。
明るく、楽しく
話を整体の先生とのメールへと戻すと
わたしは、整体の先生の冊子に
感動したという感想と共にこんなことも送っていた。
それは、以前人と接すると
緊張してしまうことが悩みだと
相談したことがあって。
いただいたアドバイスを
活かさせていただいており
日々、楽になりましたという報告をした。
人と接するのが怖い、緊張する、
そういった悩みへのアドバイスは
こうだった。
「相手よりも、長く呼吸してごらん。」と。
これ、つまりは相手の呼吸を
理解しようとしなければできない。
そもそもこの整体は
施術される側の方に手を当てて
「氣」のようなものを通して
相手の呼吸と同調しつつ、
相手よりも長く吸う。長く吐く。
それが基本中の基本中なのだそうで。
わたしはそれを相手よりも
大きく、深く吸うことなのだと
捉え違いをしていたようで
そのことへのアドバイスも書いてあった。
そして、相手のことを理解しながら
明るく楽しく過ごせることが目標だとも。
確かに。
先生との向かい合わせになり
目を見た時にそう感じた。
わたしの辛さ、痛み、
苦しみを理解してくれている。
しかし、それを深刻に捉えずに
明るく楽しく感じている、と。
ここで、先生からのメールを
紹介させていただきたい。
受信した日付は2019年12月。
奇しくも流行り病の始まる頃。
そして、わたしが人生を変える
内観にどっぷりハマるきっかけとなった
とあるSNSに入り浸っていた頃と重なっていた。
名前を塗りつぶしてあるところは
わたしの生徒○○ちゃんの事が書いてある。