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連載小説|恋するシカク 第6話『部活対抗リレー』

作:元樹伸


本作の第1話はこちらです
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第6話 部活対抗リレー


 午後になって、部活対抗リレーのメンバーが校庭に集まった。一番手は手嶋さん、二番手は寺山、三番手は安西さん。僕はこの競技でもアンカーだけど、手嶋さんのサンドイッチを食べていたので、クラス対抗の時よりも元気になっていた。

「絶対に一位をゲットするぞぉ!」

 むこうで手嶋さんが拳を天高く掲げている。やる気は満々のようだ。

「みんな勘違いするなよ。競走よりも宣伝が第一だからな」

 寺山の言うとおり、この競技はポテンシャルを秘めた帰宅部の人たちを勧誘するための宣伝もかねている。だからどの部活も、別の意味で気合を入れて参加している。目立ってなんぼ。それが部活対抗の醍醐味だ。負けてはならないと思っているのは、一位になることが最大の宣伝となる陸上部だけだろう。

「そういえば林原は?」

 辺りを見回したけど姿が見えなかった。

「林原先輩は応援団で忙しいみたいです」

 安西さんが事務的な口調で答えた。

「あの……安西さん、さっきはごめんね」

 僕は午前中の失態を清算したくて彼女に謝った。でも安西さんはキョトンとして、「さっきって何ですか?」と首を傾げた。

「借り物競走の時に声をかけられなかった。本当はあの場で手を挙げるのが恥ずかしかったんだ」

 ダサいと思われても、正直に話すべきだと思って本当のことを言った。すると彼女は胸を撫で下ろして笑顔を見せた。

「よかった……てっきり私が部活に来ていないことを先輩が怒っていて、それで無視されちゃったのかなって思ってたんです」

「ま、まさか!」

 むしろ安西さんたちのおかげで部が存続できるのだから、後輩二人には感謝していた。

「安西さん、第二走者はスタンバってくださいって」

 手嶋さんが来て安西さんに伝えた。

「先輩、これからはちゃんと部活に出ますので、今後ともよろしくお願いします」

 安西さんはぺこりと頭を下げて、手嶋さんと入れ替わるようにして去って行った。

「トン先輩、そろそろ始まりますね」

 手嶋さんがストレッチ運動をしながら意気込んだ。

「よし、今日は陸上部を出し抜いて一位をとるぞ」

 クラス対抗リレーの汚名を挽回すべく、僕は鉢巻きを締め直して気合いを入れた。

「位置について、よーい……」

 パンッ。

 部活対抗リレーの幕が切って落とされた。お約束通り、第一走者はダラダラ走りながら応援席に手を振って、自分の部をアピールした。中でも体操部は走っている最中にバック転をしたり、柔道部は地面に転がって得意の受け身をとったりとサービス精神が旺盛だ。ただ陸上部だけは他の走者に出し抜かれないようにと、辺りを警戒している様子だった。

 こんな状態がしばらく続いて、最終走者だけは本気で走るのが部活対抗リレーのルール。つまり勝負の鍵はアンカーが握っていた。前にいた第二走者が全員走り出して、スタートラインに並ぶと隣に山本がいた。

「今からでも陸上部に入れよ」

 山本が前をむいたまま勧誘してきた。

「授業で僕に負けた奴がエースの陸上部には興味がないんだ」

 まんまとアンカーにされたので憎まれ口を叩いたら、「だったら今から実力の差を見せつけてやる」と山本がほざいた。

 間もなくして、第三走者の安西さんが走ってきた。

「はい、トン先輩!」

 一瞬耳を疑ったけど、安西さんはたしかにそう呼んでからバトンを渡したように思えた。無論、それを彼女に確認している暇などなく、僕は山本とほぼ同時にバトンを受け取って全力で走りだした。

「トン先輩、いけぇ!」

 手嶋さんの声援。勝利の女神に応援されているのだから、絶対に負けるわけにはいかないと思った。

 案の定、レースは山本との一騎打ちになった。クラス対抗リレーの時と同様、アンカーはトラックを一周しなければならない。前半戦はほぼ互角の勝負が続いたが、トラックを半周した辺りから余裕の笑顔だった山本の顔つきが変わった。とたんに彼は加速して僕を引き離し、大きな差をつけて一位のゴールテープを切ったのだった。

つづく

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