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個人とチームの思考を深める、本の読み方とは? 編集工学研究所インタビュー

8月11日に発売された『探究型読書』の著者である「編集工学研究所」の安藤昭子さん、谷古宇浩司さん、橋本英人さんに今までにない、新しい読書法「探究型読書」についてお伺いました。

編集工学研究所 (へんしゅうこうがくけんきゅうじょ)
企業の人材組織開発、理念ビジョン策定、書棚空間のプロデュースなど、個と組織の課題解決や新たな価値創出を「編集工学」を用いて支援している。本を活用する共創型組織開発メソッド「Quest Link」、理化学研究所「科学道100冊プロジェクト」、近畿大学「ビブリオシアター」、良品計画「MUJI BOOKS」などを展開。所長・松岡正剛氏が情報編集の技法として提唱した「編集工学」は、オンライン・スクール「イシス編集学校」で、そのメソッドを学ぶことができる。「生命に学ぶ・歴史を展く・文化と遊ぶ」が、1987年創設以来の仕事の作法である。


このインタビューは、「編集工学研究所」にあるブックサロンスペース「本楼」でおこないました。

本でみなさんを「翻弄」したい

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ーまずは、この場所「本楼」の由来から教えてください

「本楼」というネーミングは所長の松岡正剛が命名しました。
「本の楼閣」をイメージしていますが、「本でみなさんを翻弄したい」という意味も込められています。

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ここには「日本」に関する本が並べられています。全体を「神仏エリア」「詩歌エリア」「現代文学エリア」などのテーマごとに分け、出版の古い本も新しい本も混ぜて、横置きや面陳もして、本を配架してます。
本の数は増えつづけていますが、約2万冊以上はあります。

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2012年にこちらに引っ越してきましたが、ここはワインを保管する倉庫として使われていたようで、天井高が4メートルにも及びます。
天井ぎりぎりまでスチール製の本棚が四面を取り囲む形で、本棚空間が設計されました。

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建物の入り口は「井寸房(せいすんぼう)」と呼ばれています。
ちょうど四畳半のスペースで、高い天井を見上げると、まるで井戸の中にいるような感覚になることから、そう名付けられました。
この空間は数寄屋建築士の方が設計されたのですが、四畳半ということで「茶室」になると発想をされ、本楼と井寸房の間の扉は「にじり口」になるように、木製の引き戸になっています。

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編集工学研究所では、さまざまなワークショップや講座を開催していますが、オフィス空間と似たようなセミナールームで行うと、普段の仕事における考え方や立ち振る舞いが引出されてしまいがちです。
あえて、本に囲まれ、本のタイトルや様子が、ふと目に入ってくるような異空間で講座を行うことで、いつもとは違う思考や行動が促されるのを期待しています

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編集工学では「もてなし・しつらい・ふるまい」を大事にしています。
空間の「しつらい」と、その場に関わる人の「もてなし」と「ふるまい」はお互いに影響し合うという考え方です。
思考や行動を変えようと思うなら、その場をどういう設えにするべきか、変えたり工夫したりすることを楽しもうということです。本楼はその考え方を体現した空間となっています。

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編集工学は、情報の可能性を引き出すメソッド

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ー「編集工学」とは、どのようなものですか?

「視点や見方を変えることで、情報のさまざまな意味や可能性を引き出すことができる」というのが「編集工学」のベースにある考え方です。
たとえば、編集工学研究所が運営する、ネット上で編集力を磨くイシス編集学校では、「コップの使い方をたくさん考えてください」というようなお題が出ます。
普段、私たちは「コップ」を「液体を入れるための容器」と捉えています。しかし、見方を変えると、デスクの上では「ペンを立てるケース」になったり、メダカを飼育する「小さな水槽」になったりしますよね。
編集工学とは、このように、固定化したものの見方を脱却して、情報が本来持っている可能性を引き出す「メソッド」とも言えます。

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ー「探究型読書」は、どのようにして生まれたのですか?

これまでは、誰か(主に組織のリーダー)が正解らしきものを持っていて、そこに向かって効率よく最適解にたどり着けばいいと考えられている時代でした。
ところが現代は、自分自身がお題を考えなくてはならない。現場自らが何を考えるべきかを考えなくてはいけない状況になっています。そのときに、個人の「探究力」「問い続ける力」が問われることになります。

では「探究力」「問い続ける力」とは何か?
それは、与えられた枠組みを超えて「思考するスキル」を持ち、「ものの見方」を時代変化とともに変更がかけられる力といえます。
これはビジネスパーソンに限った話ではありません。学校でも、まさに問われていて、「探究学習」といわれています。大人と子供が同じ問題に差し掛かっていたんですね。

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一方で、組織全体を見回してみると、世代間ギャップの肥大化や、リモートワークでノマド型社員が増えている中で、求心力をどこに持ったらいいかという大きな問題を抱えていました。そこで「場」が必要になります。
安心してお互いの価値観や問題意識を伝えられ、思い切った発言ができるという場です。
さらに、組織やチーム毎で、自分たちはどこに向かっているのかという「方向感」を、共感を伴って皆で共有している状態をつくることも大切です。
こうしたことを、新しい「関係性」「コミュニケーション」のあり方を構築しながら、組織文化として、組織の「共創力」として醸成していく必要性を感じていたんですね。

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単発の研修では、個人の「思考スキル」鍛えたり、組織の「方向感」を共有したりする時間を持つことはできていたのですが、同時に限界も感じていました。
そこで、「本」であれば、「本を活用した思考と対話」を行えば、個人の「探究力」と組織の「共創力」を同時に底上げできるのではないかと考えました。そして「本を活用した思考と対話」のプログラム「Quest Link」を新たなサービスとして展開し、「本を活用した思考」メソッドの部分を「探究型読書」として方法論を整理することになったのです。


自分の発想を深める新しい本の読み方

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ー「探究型読書」とは、どのようなものですか?

探究型読書は「本にある情報を抜き出して、それを活かして自分の思考を深める新しい読書法」です。

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一般的に読書というと、著者の言っていることを正しく理解したり、正解をつかんだりというイメージがあると思います。そうした読み方ももちろん大事ですが、あくまでも探究型読書は「読者の想像力や思考力」を磨くことに重点を置いた読書法になっています。

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ー「探究型読書」の特徴を教えてください

探究型読書には5つの心得があります。その1つが「モヤモヤ」と「スッキリ」を変わるがわるで起こしましょう、という考え方です。 
多くの方は本を読んでいると、どうしても本の内容を理解したいと思い、「スッキリ」する読書がしたくなります。しかし、本の内容を全て理解するには、どうしても時間がかかってしまいます。また、本の中身に没頭してしまうと、なかなか自分の考えを深める方に意識が向かえません。

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探究型読書は、短時間で本を読んで、同時に自分の発想を深めるものなので、あえて「モヤモヤ」を残す読み方を推奨しています。
「なんかよくわからないけど、ここが気になる」「こういうことが疑問だな」といった「モヤモヤ」こそが、今後考えたい「問い」として、自分の考えを深める取っ掛かりになり、本を読むためのエンジンになると考えています。


本の可能性をもっと広げていきたい

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ー本を作る上で、工夫したところはありますか?

読者にはとにかく探究型読書を体験をしてもらいたいです。
ただ本書を読むだけではなく、同時にアウトプットもしていただきたいので「探究型読書専用のノート」がQRコードからダウンロードできる仕組みになっています。

読書ノート

探究力や共創力に大事な要素として「アナロジー」が必要だと考えています。アナロジーとは「類推」のことです。
私たちは日常生活では、物事から連想したり、類推したりする力をよく発揮しています。しかし、本を読むときには多くの方が本の内容の世界に入り込んでしまい、「類推する力」が十分に使えていません。
たとえば、本を読みながら「自分の仕事にどう活かせそうか?」「職場では、この課題に使えそうかな?」といったふうに立ち止まり、本の内容と自分自身を類推してつなぐことで、本を自分の思考に活かすことができます。 
「専用のノート」は、読者の「類推する力」が自然と引き出されるように設計されています。

ー本を作る上で、難しかった点を教えてください

今までは探究型読書を研修の現場でワークショップを通して教えてきました。参加者には実際に体験を通して学んでいただく訳ですが、本ではそれができないので、読者がどうすれば「探究型読書」を実感できるかを考え、それを言葉で表現するのは大変でした。
また、本の中では「探究型読書」の意義を、今の時代の変化における問題点と照らしながら整理をして文章にする必要がありました。もちろん意義はありましたが、今まではそれをきちんとは言語化していませんでした。本という形にする上でも、今回あえてそこを定義するのには時間がかかりました。

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ー時代の変化で、制作中に「新型コロナ」がありましたが、それ受けて何か内容で変わったことはありますか?

「新型コロナ」によって大きくコミュニケーションの仕方が変わりました。
今までは対面によって「場の雰囲気」でなんとなく伝わるコミュニケーション方法も、それなりの力を持っていました。しかし、現在では、オンラインでスクリーン越しのコミュニケーションが当たり前となっています。今まで以上に自分の考えをきちんと言葉にして相手に伝える必要があります。
そこで、あらためて探究型読書の有効性について考えました。
探究型読書は、限られた時間の中で、本を媒介にしながら自分で物事を考えて、それを言葉にしていく読書法です。まさに今求められているコミュニケーションのあり方を個人や組織で実現する取っ掛かりになるのが、この探究型読書だと考えています。

ー読者の方にメッセージをお願いします。

読書というと、ひとりで静かにじっくり読むものというイメージがあるかもしれませんが、しかし、読書には、もっと色々な本の読み方や触れ方、扱い方など、多様性があって良いと思います。そして、編集工学研究所では、より本の価値や可能性を広げていきたいと考えています。

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探究型読書は厳密にいうと、ただの本を読むための方法ではありません。むしろ、本を使って、自分で物事を考えるための方法です。
本は、著者が長い時間をかけて色々なことを考え、それを言語化した物がパッケージされている「知恵の塊」です。
その「知恵の塊」を、ぜひ読者が世界や物事に対する疑問を深め、発展させていくときのジャンプ台にして欲しいと思います。
探究型読書では、そういった新しい本の使い方を提案しています。
<編集工学研究所メンバー>
安藤昭子
(あんどう・あきこ)
編集工学研究所 専務取締役。
企業の人材開発や組織理念開発、自治体/省庁のマスタープラン策定、大学図書館改変など、多領域にわたる事業を統括している。Hyper-Editing Platform [AIDA]プロデューサー。

谷古宇浩司(やこう・こうじ)
編集工学研究所 クリエイティブ・ディレクター。
数々のWebメディアの事業統括/編集長を歴任後、入社。デジタルマーケティングの戦略立案やメディアの立ち上げ/運営経験を活かして、事業開発や編集制作を指揮している。

橋本英人(はしもと・ひでと)
編集工学研究所 主任研究員。
企業や大学における編集力養成プログラムの開発やコーチング、イベント企画/運営、紙媒体/書籍/Webメディアの編集制作に従事している。Quest Linker養成講座トレーナー。

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