見出し画像

「読者と一緒に豊かになりたい」 Webサービスを使いこなす作家が語る、クリエイターエコノミーとWeb3への期待

こんにちは、「クリエイターエコノミー」をテーマに、クリエイターのためのお金やキャリア、テクノロジーの事例を紹介する媒体・クリエイターエコノミーラボです。

今回インタビューしたのは、商業出版から離れ、さまざまなWebサービスを使いこなし、個人のクリエイターとしての仕事で生計を立てている漫画家・根田啓史さんです。

代表作は、オリジナル作品の『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』、人気作品のスピンオフ『僕のヒーローアカデミア すまっしゅ‼︎』など。Twitterで抱えるフォロワー数は20万人以上です。

『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』は、タイトル通り、会社員のマコトが異世界に転生してしまい、その世界では2年前に失踪した妹のミサキが魔王として君臨していたというストーリー。

クリエイターエコノミーの発展によって、クリエイターが作品でお金を得る方法の選択肢は大きく広がっています。

「商業出版の仕組みは自分に合わなかった」と、早い時期からさまざまなWebサービスを使いこなし、今では「新しい稼ぎ方」を実践する根田さんに、詳しく話を伺いました。

前後編でお届けする記事、前編では、クリエイターエコノミーやWeb3(編注:ブロックチェーンを基盤とした新しいインターネット)への期待について語られました。

目指すは作品を中心としたエコシステム

ーー根田先生はいろいろなWebサービスを積極的に活用されていますよね。オンラインコワーキングスペース「00:00 Studio」(本媒体を運営するアル社のWebサービス)も、初期からご利用いただいています。

根田:変化が好きなんです。なんというか、仕事づくりそのものに関われたほうが楽しいし、得にもなると思っていて。

一人で何でもかんでもやるのは大変だから、元気な人に手伝ってもらったほうがいいじゃないですか。

それで、周りを見渡してみると、僕たちの仕事を手伝ってくれるエージェント企業や、僕のような仕事をする人にとって役に立つサービスを作っているベンチャー企業ってたくさんあって。

そういう人たちが何かを作りたいとき、自分で使ってみて要望を伝えるだけでも、Win-Winの関係を築けるんです。

例えば00:00 Studioとかも、「こんなふうに変わったらいいのに」と言ったら素早く機能を作ってくれたりして。

そういうふうに自分の声が届くのは嬉しいし、ユーザーインタビューを受けたりしながら、サービスの変化を追いかけていくのが楽しいんですよ。

新しいサービスだけに、うまくいかなかったらなくなっちゃったりもするんですけど、そういうところも含めて楽しんでいます。

そういった声を届けるのって、新しいサービスを運営している、まだ小さい会社じゃないと難しいというか、すでに大きなサービスに感想を送っても、何も変わらないことが多いんですよね。

ーー始まりたてのサービスは、初期から熱心に使ってくれるユーザーの声を重視しますからね。そんな根田先生に、今日はクリエイターエコノミーの話を伺っていくわけですが。

根田:クリエイターエコノミー、ですね。

最近は、「僕たちのようなクリエイターが作品を出すことで、ファンも儲かるような仕組みを作れないか」みたいなことを、よく考えているんですが……。

ーーどういうことでしょう?

根田:僕がやりたいことって、究極的には、作品をすごくヒットさせたいとかよりも、作品を中心にしたエコシステムができるような状態なんですよ。

というのも、漫画を買ってくれる読者の方たちの資金源って、基本的には他の業界で働いて、稼いできたお金じゃないですか。

つまり、その人たちは、クリエイターと同じエコシステムの“中の人”になっているわけではないですよね。

読者が外の業界からお金を持ってきてクリエイターに渡すだけだと、クリエイターが外でお金を使っちゃったら、市場は縮小してしまいます。

けれど、ユーザーの人たちも、クリエイターと同じエコシステムのなかで、作品を通じてお金を稼いで、業界の中でお金が回っていくとより豊かになっていくんじゃないかと思っていて……。

二次創作とか、それに近いですよね。作品を読んだ人が、それをネタにした新たな作品をつくって売ることで、一次創作を中心としたエコシステムの一員になる。

そのように、自分もその作品に関わることで、生活が豊かになるような仕組みができるといいなと思うんですが、現状では、二次創作は作品の権利者の収入につながらないので、ある意味ではグレーゾーンのような市場になっています。

しかし、ブロックチェーンを活用すれば、取り引きが行われるたびに権利者にお金が入る、健全な仕組みを作れるかもしれない。そんな期待があったりします。

「読者が作品づくりに参加できないか」 Web3への期待

ーー消費者がただ作品を消費するだけでなく、その作品に関わる生産をする側として参加できることに、ブロックチェーンの可能性を感じているんですね。

根田:もし成立するなら、そっちのほうが良いじゃないですか。

好きな漫画を読むだけでなく、それに関わることができて、しかもそれで生活していけるとしたら、素敵ですよね。

今あるものだと、Amazonアソシエイトなどは画期的な仕組みで、本の紹介をするとアフィリエイトでお金が入ってきたりするわけじゃないですか。

その点、ブロックチェーンという技術があれば、作品という単位で、読者がそういった形で参加していける可能性がある。

そこら辺の二次流通などの仕組みを、作家側が作っていけるとしたら、どんな世界になるだろうと注目しているところです。

ーー確かに今の時代は、個人のクリエイターが中心になって、そういった仕組みを作っていけるだけの基盤が整いつつあるように思います。

根田:僕はただ作品をつくるだけではなく、そういった新しい技術を活動の中に組み込んでいかなければいけないと考えています。

一方で、現状の多くのNFTのように、「作品を転売すれば儲かる」みたいなことをモチベーションとして買ってもらうことが果たしてどうなのか、とも思っています。

それって、「この漫画はいずれ価値が上がりそうだから買っておく」みたいなことだと思うんですけど、なんか違うじゃないですか。

作品を消費するって、そういうことじゃないし、豊かさとは言えない気がします。

これから先の時代は、こういった方向性で活動していかないと、読者へ作品を届けにくくなるんじゃないかと考えているんですが、まだ答えが見えなくて、悩んでいるところです。

ーーそういう意味では、これからはその作品に関わるコミュニティの人たちがワクワクできるような世界観を作れるかどうかが重要になってくるのではないかと思います。

根田:まさに、僕もそう思います。コミュニティとしての強さが大事になっていくというか。

去年、『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』という作品の1巻をまるまるNFTにする取り組みをしたんですけど、やっぱりコミュニティをしっかり作らないといけないなと実感しました。

今って、いろんなパターンの絵を作れるフォーマットのNFT(編注:「ジェネラティブNFT」と呼ばれる)が盛り上がっていますよね。

それでいて一目で「この人の作品だ」って分かるようなコンセプトがあって。

ただ、そういったやり方は今のトレンドですが、結構すぐに変わるんじゃないかなとも思います。

ちゃんとコミュニティを持っている人がやって、ユーザー同士でやり取りが発生することに意味があると思うんですよね。

「消費者が足りない」時代

ーー個人のクリエイターとして、さまざまなWebサービスを積極的に利用している根田先生が、現時点でどのように考えているのかが分かり、とても参考になります。

根田:国として、ベーシックインカムとかが導入されれば、完全な消費者がいてもいいと思うんですけどね。

仕事をしたくない人に、あまり意味のない仕事を無理やりさせることで、みんながエンタメの消費に充てる可処分時間が減り、むしろ国としての生産性が下がっている面もあるんじゃないかなと。

それなら、最初からお金を配っちゃうというのも選択肢の一つじゃないですか。

ーーおもしろい視点ですね。

根田:発展した国では、多くの人が第三次産業に従事するしかなくなっていきますよね。

国民みんなが農業をやったらご飯しかない国になってしまって、消費が追いつかなくなってしまうわけですけど、同じように、エンタメも作っている人が増えすぎて、むしろ消費者が足りなくなってきているような感覚があって。

そうすると、みんなお金がないから、それを見たいという強いインセンティブを与える作品じゃないと売れにくくなっていく。

けれど、めちゃくちゃ珍しくてすごいことをやっているけど、誰もそれを必要としてない、みたいなことが結構あると思うんですよ。

意味の分からないことに、ものすごい時間をかけてやっているようなことって、見る人が見ればおもしろいと思うんですけど、でもそれって売りたくてやっているわけじゃないから、すごく売れる形にはなりにくい。

ベーシックインカムによってお金と時間の余裕が生まれれば、そういったくだらないことにもお金を使いたいと思う人が増えるんじゃないかと考えています。

というわけで、前編はここまでです。根田さんのご活動について伺っていく上での、前段のような内容になりました。

続く後編では、本人も「漫画家としてはかなり変」と語る、5つ以上の収入源がある根田さんの収入事情について、かなり踏み込んだところまでお話しいただきました。

記事は明日、公開いたしますので、ぜひTwitterとnoteでフォローの上、更新をお待ちいただけると嬉しいです!

さいごに

▼最近公開した記事

コロナ禍の煽りを大きく受け、存続の危機にさらされた世界最大級の同人誌即売会「コミティア」。

「続けコミティア」と題したクラウドファンディングから2年が経った今、
実施当時の不安やコロナ禍前後での変化について、コミティア実行委員会会長・中村公彦さんに話を伺いました。

今年3月よりAmazonで無料の絵日記漫画の自費出版を始め、現在は170万回以上DLされており、ネットで大きく注目を集めている漫画家・ぬこー様ちゃんさんのインタビュー。

どういう狙いでAmazonでの配信を始め、収入面でどういった変化があったのかなどを、「そんなことまで言っていいのか」というくらい詳細に語っていただきました。ボリューム十分の前後編の記事になっています。

話を聞いた人

根田啓史(ねだ ひろふみ) 漫画家。2014年、少年ジャンプ+にて『僕のヒーローアカデミア すまっしゅ!!』で連載デビュー。同作の連載終了後は、Twitterを中心としたWeb上で作品を発表する活動をしている。その他の代表作として、『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』、『怪しい壺買ったら、中から美少女が出てきた話。』など。

根田啓史さんの作品一覧

異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。

怪しい壺買ったら、中から美少女が出てきた話。

あのとき助けたカラスがドジすぎて困る

僕のヒーローアカデミア すまっしゅ!!


運営:アル株式会社

この記事が参加している募集

スキしてみて

企業のnote

with note pro

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?