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医療と文化 その①~「インフォームド・コンセント」をホフステード6次元モデルでひも解く 

家族が大病を患い、しばらくブログから遠ざかっていました。

医療機関に足を運ぶのは年1回の健康診断と歯科治療に行くくらいで、入院経験は出産時のみ。医療と名の付くものにほぼ縁がない私。

今回患者の家族という立場で、医療という重要社会インフラについて様々なことを感じ、考える機会になりました。

そこで今回のブログでは、医療現場で実感した「インフォームド・コンセント(IC)」の潮流をホフステードの6次元モデルを使って分析します。


家族が緊急搬送!そして出会ったインフォームド・コンセント

この8月に家族が重篤な呼吸不全の状態になり、基幹病院に緊急搬送されました。(それまで入院していた地域の病院では原因菌が特定できておらず、効果のない抗生剤を投与している間に症状が進んでしまったことが後で判明・・・)

救急集中治療室に運びこまれる家族を心細い気持ちで見守った後、
私は主治医から延命処置に関する説明を聞き、治療方針に同意する大量の書類にサインすることになりました。

人工呼吸器、気管挿管、昇圧剤、心臓マッサージ、透析・・・
どれも医療ドラマでしか聞いたことのない、あまりに「恐ろしい」言葉です。
ドラマだと、ここで医師が短く冷たい「宣告」をし、絶望した家族が「先生!どうにかお父さんの命を救ってください!」と詰め寄るシーンが続きます。

しかし、私がこのあと経験した医師とのコミュニケーションは、イメージしていたものとはかなり違っていました。

情報提供が驚くほど丁寧で詳細。5週間の入院中、呼吸器内科と腎臓内科の担当医がことある毎に、電話でわかりやすく病状や今後の治療方針を説明してくれたのです。

「ざる」で血中の「ゴミ」を取り除く例を用いながら腎臓透析の説明をして、なぜ特定の処置や薬剤が必要なのか、時には20分以上かけて説明。私が納得して同意するための情報提供ををしてくれました。(その後、家族は奇跡的に危機を脱しました)

日本語が母語でない外国人に対して「やさしい日本語」を話すことが有効であるように、医療用語という専門言語を話さない人に「やさしい」コミュニケーションがICの基本だと感じました。

ICとホフステードの6次元モデル(権力格差と個人主義)

厚生労働省は「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日)を策定、「患者と医療従事者が診療情報を共有し、患者の自己決定権を重視するインフォームド・コンセントの理念に基づく医療を推進」するとともに、その中で患者の「知らないでいたい希望」の尊重することも盛り込んでいます。

インフォームド・コンセント: informed consent)とは、「医師と患者との十分な情報を得た(伝えられた)上での合意」を意味する概念[1]。 医師が説明をし、同意を得ること。 特に、医療行為(投薬・手術・検査など)や治験などの対象者(患者や被験者)が、治療や臨床試験・治験の内容についてよく説明を受け十分理解した上で: informed)、対象者が自らの自由意志に基づいて医療従事者と方針において合意する(同意する)(: consent)ことである

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)より

医療従事者による情報提供や患者の自己決定権の重視の背景には、ホフステードの2つの文化次元が関連していると考えられます。

その1つ、権力格差は「社会において権力の弱いもの(つまり患者)が権力の不平等を予期して受け入れている程度」と定義される文化次元です。
一般的に権力者は情報を「権力の源」として保持する傾向があります。ICによる情報提供は、その情報を関係性の中の弱者(患者)と共有し、意思決定に参加させることになります。つまり権力格差を低下させることを意味します。

権力格差と個人主義のグラフ(出典:ホフステードCWQ)
日本は世界的にみると2つの文化次元が世界の中間あたりであることが分かる 

2つ目の文化次元は個人主義です。個人主義が強い社会では、情報はより明文化され、個人がそれに基づいて自己決定する度合いが強くなります。

ICの今後

世界的にみると、グラフにあるように日本のスコアは権力格差、個人主義とも、おおよそ中間です。スコアは世界の中の相対的な位置関係を示しており、今後も安定していると考えられます。(つまり、日本がアメリカよりも個人主義的になったり、中国よりも権力格差が高くなることは考えにくいということです)

しかし大切なことは、世界全体の潮流は「権力格差はより低く、より個人主義になりつつある」ことをホフステード自身、そしてのちの調査によって明らかになっています。また、この2つの文化次元には相関関係があり、一般的に個人主義の文化は権力格差が低い傾向があります。

どうやら長く続いた「先生に診てもらう」お任せの医療の時代から、患者の自己決定権が尊重され、より意思決定に参加する時代になりつつあるようです。同時に病院側も「やさしい」医療用語を使って丁寧なICを提供できるかどうかで選別される時代になるかもしれません。

CQラボ理事 田代礼子

一般社団法人CQラボは、ホフステードCWQの日本オフィシャルパートナーとして、カルチャーに関してトータルな学びを提供しています。CQ®(Cultural Intelligence)とは…「様々な文化的背景の中で、効果的に協働し成果を出す力」のこと。CQは21世紀を生き抜く本質的なスキルです。Googleやスターバックス、コカコーラ、米軍、ハーバード大学、英国のNHS(​​​​国民保険サービス)など、世界のトップ企業や政府/教育機関がCQ研修を取り入れ、活用されています。

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