Sam is Ohmインタビュー「寿司漫画みたいな感じでやっている」
新潟出身で東京を拠点に活動するプロデューサー、Sam is Ohmが先日ソロEP「Chaos engineering」をリリースしました。
これまでベースミュージックやハウス文脈のスタイルを積極的に取り入れてきたSam is Ohmですが、今回のEPではそれらの要素はやや控えめ。さらにトレンドというよりも、古くからある普遍的なスタイルに現代のフィルターを通して挑んだような曲が目立ちます。
冒頭を飾るのは、ヒップホップ名曲のフレーズを弾き直したファンキーな「愛じゃないから」。Aile The Shotaのクールな歌とも見事なコンビネーションを聴かせてくれます。続く「Hearth」は、ディスコ系の暖かい路線。Sagiri Sólのソウルフルでパンチのある歌とYonYonの歯切れ良い歌が光る良曲です。FLEURとWez Atlasを迎えた「Sleep On Me」は、2011~2014年頃のSoundCloudで流行したハウスとトラップを行き来するタイプの曲。二人の相性の良さも素晴らしく、完璧な人選です。おかもとえみが歌う「アネモネ」は、一聴するとポップな仕上がりながらドラムなどはしっかりとヒップホップ。EPにはよりその側面を強化したリミックスも収録されており、シングルで聴く時とはまた違って聞こえます。
そんなEPを作り上げたSam is Ohmに、Spincoasterでインタビューしました。
Sam is Ohmは1990年生まれで、1991年の私とほぼ同世代。同じ新潟出身で共通の知り合いも多く、見てきた景色や通ってきた経験もかなり近いです。SpincoasterでのインタビューではそのルーツやEPについてなどを聞いていますが、そこでは収まりきらないほどの多くの話を聞けました。そこで今回は、新潟のシーンとの関わりなど、よりパーソナルな部分を中心にしたインタビューの続編を掲載します。Spincoasterの記事とあわせて是非。
続・「史上最高のビートメイカー」話
アボかど:「史上最高のビートメイカー」としてDr. Dre、Metro Boomin、Flume、Max Martin、Nujabesを挙げていただきましたが、僕はDiploとか入ってくるのかなと思っていました。
Sam is Ohm:Diploはめちゃくちゃ検討したんですけど、まだ入らないかなと。Skrillexとかに憧れていた時期もありました。
アボかど:Skrillexの今年出たアルバムはちょっとOhmさんみありますよね。
Sam is Ohm:超好きです。DJでもめっちゃかけていますね。でも、「史上最高」となるとこの5人です。
アボかど:選んだ5人についてもうちょっと詳しく聞かせてください。まずはDr. Dreから。
Sam is Ohm:もちろん全員実績が凄いんですけど、Dr. Dreはアーティストとしてだけじゃなくて「Beats By Dre」で売れた衝撃があって。Jay-ZやDiddyも凄いけど、Dr. Dreは成功者として凄すぎる。あと、ウェストコーストヒップホップのイメージがあるけど、元々エレクトロも作っていたじゃないですか。でもどこかしらDr. Dreの風味がある。変なことをやってもそれが出ていると思うんですよね。あとサンプリングを使うプロデューサーでもあるじゃないですか。俺はBlackstreetの「No Diggity」にめちゃくちゃ影響を受けていて、人の曲でもああなるんだと思いました。
Pete RockとかDJ Premierとかも好きなんですけど、そういう初期衝動と実績を合わせるとやっぱりDr. Dreかなと。
それぞれのプロデューサーの凄さ
アボかど:Metro Boominはどうですか?
Sam is Ohm:色んな若いプロデューサーがいますけど、ちょっと次元が違うと思うんですよね。最初は六畳一間の自宅スタジオみたいなので作っていたのに、今ではスパイダーマンのサントラを作ったりとかしていて。
一番行っちゃっていると思います。Spotifyの再生回数もえげつない。こんな行くと思っていなかったです。
アボかど:出てきた頃には今の活躍は想像できなかったですよね。
Sam is Ohm:ひたすら燻し銀で作っていましたよね。埋もれてはいないけど、頭一つ出ていないというか。出てきた時はZaytovenとかの方が華あったし。それが今やっている規模感が凄い。トラックメイカーでこれだけやっている人っていないと思うんですよ。「Coachella」もヤバかったじゃないですか。
アボかど:いるだけで異常に格好良かったですよね。
Sam is Ohm:そうそう。DJってわけじゃなくて、いるだけで格好良い。歴史的にもこれだけ売れていてトラックだけ作っている人はいないと思います。
アボかど:新潟のビートメイカーのWooRockと一緒にMetro Boominについて話した記事を今年出したんですけど、その時WooRockは「ラップしないプロデューサーでここまで行ったのは凄い」って言っていました。
Sam is Ohm:確かに。Pharrellも歌うしKanyeもラップするし。Metro Boominが超正統派でここまで行けているのは凄いですよね。
アボかど:これからも伸びそうですし、確実に歴史に残る人ですよね。Flumeは?
Sam is Ohm:Flumeが一番変な音楽を作っていると思うんですよ。自分もベースミュージックとか色んな音楽を作っていて、James Blakeとかはどうやって作っているかなんとなくわかるんですよね。でも、Flumeはマジでわからない。ぶっ飛びすぎているのに、キャッチーで人気がある。ちょっと次元が違うと思います。Daft Punkとかもそうなんですけど、Flumeの方が変だと思うんですよね。Aphex Twinと悩んだんですけど、Flumeかなと。
アボかど:Max Martinは少し毛色が違う人ですよね。
Sam is Ohm:彼はプロデューサーとしての評価ですね。出てきてから30~40年以上ヒット曲を作りまくっている人なんていないじゃないですか。しかも、Dr. Dreだと「Dr. Dreだからみんな聴く」って感じだけど、「Max Martinだから聴く」という感じじゃない。The Weekndの「Blinding Lights」とかも最初Max Martinって知らないで聴いていました。
アボかど:Nujabesは?
Sam is Ohm: USだとJ Dillaの揺れるビートとかは凄い発見って言われていますが、あのメロウなピアノのサンプリングの仕方ってNujabesが最初なんじゃないかと思っているんですよ。綺麗なものをローファイな形で出すっていう。あれは凄いと思います。
アボかど:なるほど。より深くOhmさんのプロデューサー観が知れたように思います!
サンレコの重要性と新潟のシーンからの影響
アボかど:そういえば、ダンスの音編集がビートメイクを始めたきっかけになったという人、自分が今まで取材してきた中では二人目です。Ballheadという福井のビートメイカーにインタビューした時にも同じことを言っていたんですよね。
Sam is Ohm:同じ人いるんですね!初めて聞きました。最初はオーディオ編集の流れでサンプリングだけをやっていたんですけど、その後FL Studioを買って本格的になりましたね。
アボかど:ビートを作り始めた最初の頃って、周りにビートメイクをやっている人はいましたか?
Sam is Ohm:大学の頃は一応いましたけど、ほぼいないに等しかったですね。ずっと一人。独学でやっていました。
アボかど:そんな中、どうやってビートメイクを学びましたか?
Sam is Ohm:ひたすらサンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)を買っていました。あとは普通に「FL Studioの使い方」みたいなマニュアル本ですね。もちろん使い倒して色々触ってみるのが一番手っ取り早いんですけど、パソコンを触れない時間にもインプットをしたかったので。大学の授業中とかにも本を教科書みたいに読んでいました。
アボかど:サンレコをそれだけ熱心に読んでいたOhmさんが、サンレコで連載を持っていたのは熱いですね。
Sam is Ohm:そうなんですよ!お話をいただいた時にもめっちゃそれ言いました。「ありがとうございます!ずっと読んでいたっす」みたいな。今はYouTubeとかにも「How to」系動画がいっぱいありますけど、当時はまだそういうのもなかったんですよね。だからサンレコはありがたかったです。
アボかど:Ohmさんは新潟のシーンでやっていた時期もありますよね。
Sam is Ohm:20歳の時には上京しちゃっていましたが、シーンにいたという認識ではありますね。ダンスをやっていた時にはPRAHA(現在は閉店した新潟のクラブ)がまだあったんですよ。そこに出ていたりしていました。「SWAMPさんかっけ~」とか思っていたな。
アボかど:PRAHAはヒップホップだけじゃなくてハウスのイベントとかもやっていましたよね。その辺にも遊びに行ったりはしていましたか?
Sam is Ohm:行っていました。エレクトロ、ハウスのパーティも行くし、ヒップホップのパーティも行くし。本当に全部行っていたっすね。
アボかど:今はそうでもない印象ですけど、新潟って昔はエレクトロとヒップホップが近かったですよね。
Sam is Ohm:そうですよね。マジで俺もどっちも行っていたし。それで俺のごちゃ混ぜな感覚が形成された感じもありますね。10代の時に既にそういう環境にいたから、今も隔たりなく色々やっているのかなって思います。
EPはMyspace感覚で作った
アボかど:僕が初めて遊びに行ったクラブイベントがオールジャンルパーティの「HELLOS」だったんですけど、あそこで知り合ったテクノDJの人とかと後日ヒップホップのイベントで会うみたいなことも結構あったんですよね。その流れで「ドレミファンク(新潟のハウスやエレクトロ系のパーティ)」にも遊びに行って、そこでOhmさんのDJを初めて観ました。その時は結構バキバキのトラップ系だったので、自分の中ではOhmさんといえばああいうイメージでした。だからKick a Show以降のメロウな感じは「おお、こういうのもやるんだ」と思ったんですよね。
Sam is Ohm:ZEN-LA-ROCKさんと最初にやった時もバキバキ系のトラップでしたしね。トラップを作っていたら同じようなことばかりやっていて、自分の中で頭打ちになっちゃったんですよ。時期によって色々なことをやっていて、トラップやダブステップを作る前はハウスも作っていましたし。今もハードディスクには入っていますよ。
アボかど:今回のEPはそういうクラブ由来のサウンドももちろんありますけど、家で聴くのにも合いそうな感じですよね。
Sam is Ohm:そうなんですよね。もっとパーティっぽい音が出せるのであれば作っていたんですけど、やっぱり今回は自分でミックスをやったので無理でした。変な話、規模がもっと大きかったら、もっと色々やっていたと思います。2ステップやハウス、あと生音のファンクとかもやってみたかったです。
アボかど:そのDIYな感じはある意味SoundCloud的ですよね。
Sam is Ohm:そうなんですよ。マジでSoundCloudの延長線みたいな感じです(笑)。でも、SoundCloudって新しいものをチェックするみたいな場所じゃないですか。今回のEPは新しいものっていうよりは普遍的なものを目指したので、またちょっとニュアンスが違うかもしれないです。Myspaceみたいな感じかな。あれって自分のデモを上げまくっていたじゃないですか。あの感覚です。
アボかど:でも、僕は「Sleep On Me」にはSoundCloudを感じました。ヴァースがハウスでフックでトラップになるって作り、2010年代前半くらいのSoundCloudでよくあったと思うんですよ。
Sam is Ohm:あれはめちゃくちゃSoundCloudですよね。狙っていなかったんですけど、出ちゃったっすね(笑)。
アボかど:やっぱりそうですよね。そういえばMyspaceといえば、僕今年Twitterが不調だった時に久々にログインしたんですよ。でもデータが全部消えたことあったじゃないですか。だからプロフィール画像とかも何もなくなっていて(笑)。
Sam is Ohm:ありましたね。俺がMyspaceと疎遠になっていたのもそれでした。今回のEPは懐かしのMyspace感覚で作ったので、それが制作をオーセンティックな方向性に連れて行ったのかもしれないですね。
Sam is Ohmの中のDr. Dre
アボかど:今回はレコーディングも全曲Ohmさんがやっていますよね。
Sam is Ohm:そうですね。自分の曲を作っているスタジオでレコーディングをやりました。俺がやっているっていうか、俺のスタジオで全てが完結しているみたいな感じですね。今回はレーベルを通したリリースですけど、言ってしまえば宅レコなんですよ。
アボかど:一緒にスタジオに入って印象に残っているエピソードはありますか?
Sam is Ohm:みんなそれぞれありますね。「Hearth」に関しては、やっぱりSagiriちゃんはいざ録ったら「上手すぎる!」みたいな。「Sleep On Me」の時も「Wezラップ上手いな」「FLEUR君歌上手いな」みたいな感じでした(笑)。おかもとえみさんはお菓子をいっぱい買ってきてくれた。Aile The Shota君は何回もスタジオに来てくれました。オートチューンの設定でスピードとかあるんですけど、Aile The Shota君は「このヴォーカルのここのピッチだけちょっと変えてもらってもいいですか?」って自分からリクエストしてくれて。1ずつ数値をいじって調整しました。凄いちゃんと向き合ってくれましたね。
アボかど:超クリエイティヴですね。
Sam is Ohm:そうなんですよ。向き合い方がめちゃくちゃクリエイティヴで、本当に細かく自分の良いところを探し出してくれました。と言うと、おかもとえみさんがクリエイティヴじゃないみたいになっちゃうけど(笑)。おかもとえみさんは経験値が全然違いましたね。めちゃくちゃレコーディングも早くて、チョイスも早い。30テイク録っていなかったと思います。2時間くらいで終わりました。
アボかど:皆さんどのくらいレコーディングに時間がかかりましたか?
Sam is Ohm:コミュニケーションを取っている時間は長かったですけど、Aile The Shota君もレコーディングは早かったですね。Wez、FLUERも早かったな。でもYonYonさんとSagiri Sólちゃんだけはちょっと時間がかかりました。
アボかど:何か苦戦したことがあったのでしょうか?
Sam is Ohm:YonYonさんのリリックで「暖め」って言っている部分があるんですけど、そこがどうしても「あたたたたたかめ」みたいに「た」がめっちゃ多く聞こえたんです。それがあったので、録り直すのに福岡からまた来てもらったりしていました。「あたた」だけで半年かかったっすね。その一言を録りますってだけで半年リリースを伸ばしました。
アボかど:Dr. DreがToo $hortに単語一言だけで4時間録らせたみたいなエピソードですね。
Sam is Ohm:そうそう(笑)。まさにそれやっていたっす。「あたた」だけで。ぶっちゃけ、わかんないっすよ。「そんな変わんなくね?」って思うんだけど、なんか気になったらダメだと思ったんですよね。しかも一発目の大事な曲だし、妥協しちゃいけないと思ったんです。なのでYonYonさんがDJで東京に来るスケジュールを聞いて常に帳尻合わせていました。めっちゃ大変でしたね。そんなエピソードががそれぞれの曲であります。
アボかど:「史上最高のビートメイカー」でDr. Dreを挙げていましたが、Ohmさんの中のDr. Dreを感じました(笑)。
Sam is Ohm:自分のことながら、「俺みたいな規模でもそういうことが起こるんだな」って感心しながらやっていましたね(笑)。
寿司漫画みたいな感覚で音楽をやる
アボかど:そういえば、Ohmさんはヒップホップがルーツにあるわけですけど、今回のEPではラッパーの客演はWez Atlasだけですよね。
Sam is Ohm:ラッパーさんにも色々と声は掛けていたんですけど、たまたま今回タイミングが合ったのがWez君だったって感じですね。EPの次に出すアルバムには入ってきますよ。誰かはお楽しみの方がいいかなって気がするので、今回は伏せておきます。
アボかど:Ohmさんは色々な人と曲を作っていますが、「自分の好みはこういう人だ」って一つ共通するものを見出せたりはしていますか?
Sam is Ohm:超当たり前のことなんですけど、やる気っすね。やる気がある人とやりたいです。「適当にやっといて」みたいな感じになると、モチベーション的にキツいんですよ。それ以外ならバッチ来いって感じですね。
アボかど:なるほど。最近誰か気になるアーティストやプロデューサーはいますか?
Sam is Ohm:uin君とは同じ新潟出身だし、今は会う機会も増えたので「一緒に頑張りましょう」 って気持ちですね。逆に聞きたいんですけど、WooRockさんとか最近の新潟のビートメイカーやラッパーでいい人いますか?
アボかど:ラッパーだとFoolsdayboyとsagwon、あとChild Plate Peopsっていうグループがいいですね。ビートメイカーだとninomiya tatsukiっていうビートメイカーが最近ローファイビーツ系のプレイリストにいっぱい入って好調みたいです。
Sam is Ohm:そんな人いるんですね。やっぱり自分も新潟出身ではあるので、なんか貢献出来たらいいなとは思っています。「若い人に影響を与えられたらな」「なんかちょっとでもきっかけがあれば」と思ってやっている部分もあるんですよね。なので、「こういうのやったらどうすか?」とか「こういう人あるんで」とかあれば言っていただきたいなと思います。
アボかど:いい人を見つけ次第報告します!今後やってみたいこととかってありますか?
Sam is Ohm:俺には作りたい曲があって、実は今回のEPもアルバムもそれに向かっているものなんです。今出している曲が良いとか悪いとかじゃなくて、自分の「こういう曲を作りたい」を実現するためにソロ活動を始めたんですよ。なので、そういう音楽を作るためにもっと頑張っていこうって感じですね。
アボかど:なんかあれですね、寿司漫画みたいですね。「江戸前の旬」の大吾が「一生一品の寿司」を追い求めるみたいな。
Sam is Ohm:そうそう。寿司漫画みたいな感じでやっているんですよ。自分が作りたい音楽を目指す。それに尽きますね。
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