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6.あり方【カイケイシタイヨウ第1章起業編】


:前回までのあらすじ:


10年ぶりに再開した高校時代の先輩タイヨウと僕(大谷)。
起業についての話を一通り聞いた僕は、さらにタイヨウから直球の質問をされる。今度は、ちょっと変わった質問だった。

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(ここからつづき)



「大谷は独立して、
どんな想いを実現していきたいのかな?」

モヤモヤ感を思い出した。
一緒ではないけどまた似たような質問。
タイヨウさんしつこいな。
なんで何度も聞いてくるんだろう。
僕はちょっとイライラしていた。


「いや・・・、その、
まだそのあたりはさっきの質問と同じで、
まだ漠然としているというか、
うまく応えられないんです。」


「うん、そうか。
何度も似たような質問をしてしまって
ごめんね。
ただ、
大切なことだから気を悪くしないでね。」


タイヨウは少し悲しそうな表情をした
ように見えた。

やばい。
一瞬イラッとした気持ちが
表情にでてしまったのか。
タイヨウは話を続けた。



「今はすぐ応えられなくてもいい
とは思うけど、
こういうことは起業する前に
じっくり考えると、
成功するスピードが加速すると思うんだ。
あらためて何を『する』かも大切だけど、
もっと大事なのは、
これから
『どんな自分で、どうありたいか』
だと思うよ。
「あり方」とも言うね。
おれは独立する前にそういうことを
あまり考えずに独立してしまって、
しばらく道に迷ってしまい、
とても苦労したからね。」


・・・そうか。
タイヨウは同じ苦労をさせまいと
話してくれていたのか。
一瞬でもイラッとしてしまった
自分を恥じる気持ちが湧いてきた。
タイヨウの気持ちが少しわかり、
こころが落ち着いてきた。
それにしてもちょっと抽象的で
どこか話が浮いた感じがする。


「あり方、ですか。
お恥ずかしながらあまり考えたことなくて。
それってどういうことですか?」


「うーん、そうだな。
たしかに「あり方」と言われても抽象的だし、
会社員として働いていると日常が忙しくて、
そんなこと考える機会はほとんどないよね。
じゃあさ、大谷は、
これからどんな自分で生きていきたい?
そして、
どんな世界を創り出していきたいのかな?」


「・・・。あの、壮大すぎて、
正直考えたこともありませんでした。
いや、考えたことあったかも。
ただ、そういうことを考えてみても、
なんだかぼやっとしてしまい、
考えるのを諦めてしまってた気がします。」


「うん、よくわかるよ。
おれもそうだった。
それに、今も考え続けている。
ある意味、永遠のテーマかもね。」

むむむ、そうなのか。

「確かに、僕はどんな人生を歩みたくて、
独立しようと思ったのか、きちんと言葉で
表現したことなかったかもしれません。
なんとなく、今の状況を変えたくて、
今が退屈で、そこから抜け出したいという
想いがあるような気がするんですけど。」



「うん、
まずは自分の想いに気づいているんだね。
気づきはとても大切だよ、
気づきがなければ変化は始まらないからね。
今日、脳にフラグが立ったね。
まだ起業する日を決めるのはこれから
なんでしょ?
よかったら考えてみてよ。」


「はい、わかりました。
ありがとうございます。
それって、その、
具体的にどう考えたらいいとか
参考になるものってあるんですか?」


「そうだなぁ、
今は自己啓発本なんかもたくさん出ているし、
起業したい人向けのセミナー
なんかもいろいろあるから、
そういうのに参加してみるのもいいと思うよ。
それにコーチングなんかで引き出してもらう
のも効果的だよ。
よかったら今度あらためて紹介するよ。」


「ありがとうございます。
うわぁ、それにしても、やることたくさん
で、けっこう気が重いですね・・・。
なんだか、不安になってきたなぁ。」


「そうだよね、ごめんごめん。
今日は盛りだくさんの情報をお伝えして
しまったからね。
そうそう、そしてそんな大谷をさらに
混乱させるようなことを言うね。笑」


少しいたずらっ子な表情で楽しそうに
話すタイヨウを見て、
なんだか少し悪いやつに見えてきた。



「さっきと少し言っていることが
矛盾するように聞こえるかもしれないけど、
行動することを優先するといいと思うよ。
考えすぎて行動できないと、
成功に近づくスピードも遅くなる。」


行動か。
なんだか成功している人がよく言っている
あれか。


「確かに混乱しそうですけど、
その、
しっかりあり方を考えるのも大事だけど、
そこが明確にならないからといって
行動を止めるべきではない、
ということかなと理解しました。」


「さすがだね。
もちろんこれは僕の今までの失敗や
いろんな経験を踏まえての意見だから、
正解かどうかはわからない。
でもさ、
本当のところ何が正解かは誰もわからない
と思うんだよね。
だから、大谷が聞いてなるほどそうかと
腑に落ちたら、
僕の意見を取り入れてみてくれたら
それでいいよ。」


「はい!ありがとうございます!
そう言っていただけると嬉しい反面、
なんだか責任感が湧いてきますね。
自分のことは自分で考えて決める、
ということですね。」


「そうだね。
会社員と違って、
上司がいるわけではないからね。
そのあたりは、
少しずつマインドチェンジしていく
必要があるかな。」



タイヨウはそう言うと、
ふと時計を見て、
そろそろ人と会う約束があるから、
と笑顔で席を立った。


誰に会うんですか?
と突っ込んで聞いてみると、
どうやらデートらしい。
少し照れくさそうにしているタイヨウが
少しかわいらしく見えた。


僕は、
タイヨウに直立して深々と頭を下げ
お礼を伝えると、
タイヨウは照れくさそうに笑いながら、
「またね!」
とその場を去っていった。



ふう。

すっかり冷めてぬるくなった
コーヒーを口にする。
なんだかとても濃くて、
怒涛の時間だったな。


それにしても、
タイヨウはよくいろんなことを知っている。


起業の話は会計士と税理士として
働いているから関係ありそうだけど、
あの脳科学やら心理学っぽい問いかけは
なんだったんだろう。


いったい普段は何をしているのだろう?
なんだか聞かれた質問が頭から離れない。

今度会ったら聞いてみるか。

そんなことを思いながらコーヒーを啜った。

それから今日のメモを見て、
これからやることをまとめてみた。


開業までの主な作業

・開業する日を決める
・自分のビジネス、商品を決める
・退職する日を決める
(引き継ぎなどに必要な期間をしっかり取ること)
・開業に必要な経費の領収書をまとめておく
・健康保険の任意継続があるか確認する。
 任意継続しないなら国民健康保険の手続きをする。
・クレジットカードを作っておく
・事業用に使う銀行口座を作る
・開業届を作成する
・青色申告承認申請書を作成する
・上の2つの書類を提出する
・国民年金の手続きを役所でする
・あり方
(どんな自分で生きていきたい?
どんな世界を創り出していきたいのかなど)
を考える

大事にすること:
行動することを優先する!



こんな感じかな。
さらに具体的にやることを分解して
タスクレベルにして、
期限を決めれば完成だ。

タスク管理の仕方は、
慢性的に期限に追われていた会社員の仕事
で身につけたスキル。
あの頃は苦しかったけど、
今ではとても役に立つ。

未来にワクワクと、
ちょびっとだけ不安を残しながら、
ノートを閉じた。

コーヒーを飲み干し、
すっかり客席の人がまばらになった
カフェを後にした。

タイヨウとの長い付き合いの
始まりであった。

その時はまだ、
想像もしない苦労と喜びの
ビックウエーブが訪れることなどまだ知らない。

(第1章おわり)

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