コヨムのnote|暦で読むニュースレター

コヨムは、メンバー3人でレターを紡いでいます。 七十二候ごとに、メンバーがそのとき感じ…

コヨムのnote|暦で読むニュースレター

コヨムは、メンバー3人でレターを紡いでいます。 七十二候ごとに、メンバーがそのとき感じたことを、それぞれのトーンで書いています。 不定期にやってくる “雑節” には、ゲストの方を招いて、レターを書いてもらいます。 https://coyomu-style.studio.site/

最近の記事

酒のカン世界

穀雨|霜止出苗 令和6年4月27日 日本酒と一口に言っても、冷酒と燗では全く違う世界が広がっている。いま若者のトレンドである日本酒とは基本的に冷酒のことを指すが、燗も一部では熱狂的に愛されている。そもそも「日本酒」と呼ぶのは主に冷酒の世界であって、燗の世界では単に「酒」と言うことが多いように感じる。スタンディングの日本酒バーは「十四代」や「新政」の冷酒が似合うコンクリート打ちっぱなし、一方でカウンターに大皿が並ぶ小料理屋は「十旭日」や「玉櫻」や「剣菱」の燗が映える立派な一枚

    • 終わらない改修,代謝する建築

      穀雨|葭始生 令和6年4月20日 「お施主さま」と呼ばないでで書いたように古民家の改修が進んでいる。当初は年度内での完成を目指していたが,そういった時間の目標は立てないことにした。あるいはそんな締切は無意味なことだと気づき始めた。 建築という圧倒的な実在は時間と空間の制約を受ける。リモートで勤務していた頃とは全く違う感覚だ。漆喰は下塗りをしてから仕上げるまでに,一日空けなければならないし,現場に足を運ばなければ,左官をすることさえ叶わない。壁が仕上がるという生々しさは,P

      • 心のスイッチの潤滑湯

        清明|鴻雁北 令和6年4月12日 仕事量にはタフな方だが、仕事の種類が増えると途端に心が窮屈になる。新しいことが好きで、すぐにいろんなことに手を出してしまう性格ゆえ、自分からしんどさの渦中に飛び込んでいる。忙殺され、心を失いかけたときにはいつも、箱根の天山湯治郷に行くようにしている。先日も朝早く家を出て電車を乗り継いで、天山湯治郷の「一休」という湯に入った。一休は山の中に湯があるだけの日帰り温泉施設で、洗い場もなければサウナもない。耳を澄ますと川の流れる音が聞こえてくる。湯

        • こころの旅

          春分|雷乃発声 令和6年4月1日 3月初頭。日本橋のコレド室町を訪れた際、地下に「タロー書房」なる本屋があったので、寄ってみた。本のラインナップはなかなか興味をついてくるものばかりで、思わず1時間以上は滞在してしまった。 その中で出会った「こころの旅」(神谷美恵子 著)という本が自分にとってかなり刺さる本だったので、紹介したい。 人が生まれてから死ぬまでの精神世界の成長・変化を旅になぞらえ、10章に分けて論じている。 著者は精神科医でもあり母でもあったので、客観的な立

          あるクモの話

          春分|桜始開 令和6年3月29日 部屋で飼っていたクモが亡くなった。飼っていたと言ってもエサをやったりしていたわけではなく、けっこう前から部屋に生息していたクモである。部屋に入るときに足元をウロウロしていて、踏んじゃいそうになったことが何度もあり、その度にどこか安全なところに巣でも作ってほしいものだと思っていたら、そのクモが自ら定住の場所として定めたのが、部屋のインテリアとして飾っていたワンカップ瓶の中だった。いつの間にか姿が見えなくなってどこかへしまったと思っていたのが、

          いつだって青く見える

          雑節|春ノ社日 令和6年3月25日 東京に憧れていた。最寄り駅から歩いて50分もかかってしまう私の実家は,どこにでも行けて,なんでも見られて,なんでも体験できる東京とは明らかに違って見えていた。観光地がないことで有名な私の出身地にはなんにもない。そう思っていた。 高校を卒業してから,東京に出てきた。東京にはなんでもあった。日本中どころか世界中の食事も,娯楽も,文化も,出会いも,別れも,楽しさも,退屈も。 そんな東京に少しでも染まろうとしていた。標準語とそれほど遠くない方

          暦のないコヨム

          春分|雀始巣 令和6年3月20日 春分になった。ちょうど3年前の「春分」にコヨムが始まったので,今回の節気にはどこか特別な思いがある。 まもなく迎える雑節「春の社日」には高校からの友人にレターを依頼した。細かいことは省略するが,今年の「春の社日」は3月15日と3月25日が候補となる日だ。レターのリリース日をどちらにするか決めるためにいろいろと調べていると,地球の赤道の延長面を太陽がまたぐ瞬間が重要なようだ。今年の春分の瞬間は12時6分。午後にあたるから後者の3月25日を取

          暑さ寒さも彼岸まで

          雑節|春ノ彼岸 令和6年3月17日 お彼岸といえば死後の世界のことを比喩的に言った言葉と認識されている。 「三途の川の向こう岸」というわけだ。これには異説も多いようだが、とにかく現代的解釈のお彼岸は春分と秋分の日の前後に死者の国、そしてご先祖様のことをおもう期間と捉えてよかろうと思う。 「ご先祖様のことをおもう」と言って、皆様はご自身のご先祖様についてどれほどご存知だろうか。 私はどれくらい知っているだろうか。皆様も思い出したり、年上の家族に聞いてみたりしてほしい。

          日記:末っ子の卒業と愛猫の法要

          啓蟄|菜虫化蝶 令和6年3月16日 今日は朝から天気も良く、絶好のお出かけ日和 末っ子の大学の卒業を祝って、家族でご飯を食べに行きました。 自分にとってはまだ中学生くらいの感覚で止まっている末っ子が 社会に出て働き始めるなんて驚きです。 これからつらいことも楽しいこともいっぱいあるだろうけれど 精一杯人生を満喫してくれたらな、なんて思います。 午前中は愛猫の彼岸の法要でした。 両国で生まれ、捨てられていたのを私の友人が拾ったことで我が家にやってきた猫。 動物を飼う予定なん

          日記:末っ子の卒業と愛猫の法要

          書を持って旅に出よう

          啓蟄|桃始笑 令和6年3月13日 旅行に携える本に悩む時間が好きだ。カバンのスペース上、持ち運びやすい文庫や新書に限定されるが、それでもジャンルや文体や時代はどうしようか、あるいは積読を消化するか、最近買ったアレにするか。悩む要素はいくらでもある。こういう時に電子書籍だと楽だろうと思うのだが、あれは質量を持たない情報である。旅には物性を備えた本が必要だし、何より出発前の悩む楽しみが奪われてしまう。 東京・青梅市の小澤酒蔵へ行った際は、うららかな春の中央線の車内でこくりこく

          「お施主さま」と呼ばないで

          啓蟄|蟄虫啓戸 令和6年3月9日 古民家を受け継いだ。築70年ほどになるその建物は,もともとは日用品を扱う住宅兼商店だった。10年ほど空き家になっていた建物は,山梨県の旧甲州街道沿いに位置し,八ヶ岳,南アルプス,富士山を望むのどかな里山のなかにある。 その建物を地域の大工さんに依頼して改修工事を進めることとなった。そこではじめて,建築業界には家造りを依頼する人のことを「お施主さま」と呼ぶ慣習があることを知った。本来「施主」というと寺や僧侶に物を施す人を指す言葉だが、それが

          春眠不覺曉

          雨水|草木萠動 令和6年3月4日 天気のいい午後、電車を待つホームの上で 「なんだか今日は眠いなあ」 「春眠暁を覚えず、だね」 そんな何気ない会話をしてから、「春眠暁を覚えず...」の続きが気になっていた。 春暁という漢詩の冒頭であることは知っていたが、どんな詩だったろうか。 高校の授業で学んだ気もするが。 今回のレターの題材をどうしようか考えていてふと思い出したので、調べてみた。 孟浩然という詩人が書いたらしい。 ----- 春眠不覺曉 處處聞啼鳥 しゅんみ

          春霖は銭湯とともに

          雨水|霞始靆 令和6年2月25日 お風呂に入ると、ペトロールズの「雨」を聴きたくなる。原宿かどこかの路上で長岡亮介さんが一人で弾き語りしているやつ。そして、新卒一年目の多忙で焦燥感に駆られていた頃が蘇る。仕事終わり、お風呂にスマホを持ち込んで、あのなんとも言い難い新築マンション独特のお風呂の匂いをかぎながら、この曲を聴いていた。毎日慣れないスーツを着て営業活動に出ていたあの頃、唯一と言っていいほどの心の癒しだった。今でも当時のお風呂の匂いはありありと思い出せるが、やっぱりな

          雨の味わい

          雨水|土脉潤起 令和6年2月20日 雪が雨へと変わることから雨水。その暦どおりの雨。天気予報によるとしばらくは雨が続くらしい。「雨の日は机上の旅に出る」ではレターの筆者は時刻表を開き机上の旅に出かけていたことを思い出す。自分にとって雨の思い出はなんだろう,と思い返していると,そういえばコヨムに綴っていた。約3年前の「この『香り』あの『記憶』」のレターを読み返した。そうそう,まだこの記憶が呼び起こされる。幾多の雨の日を過ごしてきたはずなのに,更新されない記憶が不思議だ。 雨

          久方振りに

          立春|魚上氷 令和6年2月18日 一昨日、親しい友人2人と久方振りに会い、飲みに行った。 それまでは3人で毎月のように会って飲みに行っていたのが、偶然仕事や遠出が重なったりして、約半年ぶりの再会となった。 1軒目ではそれまでの半年を埋める会話を。2件目は将来やこれからの話を。それから笑いながら街をぶらぶらとし、3軒目ではぼうっとしていて何を話していたかあまり覚えていない。 前候のレターで、「大切なものほど、次々に無くなってしまう」というひと文があった。本当にそうだなあ

          非本来性でいいじゃない

          立春|黄鶯睍睆 令和6年2月11日 立春朝搾りは、立春の日になった瞬間に上槽される日本酒である。神宮館の暦の冊子のような、いかにも縁起の良さそうなラベルが貼られて、当日中に消費者のもとへと届けられる。なんとも粋なイベントで、風流な伝統行事のように思っていたが、実はまだ30年も経っていないと知って驚いた。1997年に、日本名門酒会が日本酒の予約受注を増やすための企画として始められたものだった。 日本酒は「寒造り」と言って、冬の寒い時期に仕込まれるものとされている。厳寒の中、