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こころの旅

春分|雷乃発声
令和6年4月1日

3月初頭。日本橋のコレド室町を訪れた際、地下に「タロー書房」なる本屋があったので、寄ってみた。本のラインナップはなかなか興味をついてくるものばかりで、思わず1時間以上は滞在してしまった。

その中で出会った「こころの旅」(神谷美恵子 著)という本が自分にとってかなり刺さる本だったので、紹介したい。

人が生まれてから死ぬまでの精神世界の成長・変化を旅になぞらえ、10章に分けて論じている。

<第1章 人生への出発>
はじめに/人生への出発/出会いのはじまり/適応ということ/人生の諸段階
<第2章 人間らしさの獲得>
人間らしさの発達図式/運動と感覚/あそび/ことば/社会性/感情生活
<第3章 三つ子の魂>
反抗と自律/自我の分化/前学齢期の発達図式/性の分化/社会化の問題
<第4章 ホモ・ディスケンス>
学ということ/日本の学童/あそびとあそび友だち/学齢期における家庭の役割/学齢期の発達図式/小児期の問題行動について
<第5章 人間性の開花>
「青年学」について/自己との対面/自意識の発達/こころの飛躍/こころの友を求めて/反抗と憎悪/アイデンティティの問題/価値と世界観の探求
<第6章 人生本番への関所>
職業の選択/アルバイトについて/恋するこころ/配偶者の選択/青年と親の関係
<第7章 はたらきざかり>
壮年期の長さについて/生み出すこと/子どもと家庭/しごとについて/人生の旅路なかばに
<第8章 人生の秋>
老年学について/老いの自覚/隠退について/統合と知恵/「エポケー」の必要/新しい生きかたの工夫/老いと時間/第三のコペルニクス的転回
<第9章 病について>
苦痛というもの/医学における苦痛の問題/苦痛と苦悩/苦痛と自我/病とこころ/病に伴う不安について
<第10章 旅の終り>
老年について/老いのこころ/恍惚恐怖について/死に行く人への「精神療法」/死について/旅をかえりみて

著者は精神科医でもあり母でもあったので、客観的な立場で論理的な分析をしつつも、実体験に根差しているからであろう温かで納得感のある言葉に満ちていた。そのバランスが素晴らしかった。

本を読んでいく中で、前半は自身の幼少期を振り返ったり子供が出来たらどのように接するべきかといった観点で読み進めた。壮年期に係る章では、まさに自分が今と少し先の未来を生きるうえで支えにしたい言葉がいくつかちりばめられていた。

人生の秋、病についてという章にも、非常に考えさせられた。自身の成長や発展を前提に物事を考えている溌剌とした時代から、できぬことが大半を占めるようになる老年へどのように移行するのか。心づもりの早いに越したことはないだろう。

一気に読んでしまったせいでディティールの理解・記憶は追いついていないので、気になる章を時折パラパラと開いて何度も読み込んでいきたい。

ちなみに、平置きにされていたので比較的新しい書かと思っていたが、読んでいるうちにいくつか違和感があり巻末に飛んでみたところ、なんと1970年代に書かれた本だった。

なるほど確かに旧世代的な価値観は随所に見られたが、むしろ70年代の書き物にしてはあまりに革新的だなと感じた。

こころの旅、おすすめの一冊です。

-S.O.

春分・末候

雷乃発声

カミナリスナワチコエヲハッス

こころの旅を読んで心理学系の関心が刺激されたので、家の本棚にあった「嫌われる勇気」を再び開いてみた。

開くまでは内容のほどんどを忘れてしまっていたが、読み返してみると自身の思考の癖や物事の捉え方にかなり影響を与えていたんだなと再認識した。

本を読んでも人に説明できるほど理解と記憶が進んでいないことがあるけれど、残渣のようなものは確実に残り、読者に影響を与えるのだな、と思った。


参考文献

なし

カバー写真:
2024年4月1日 こころの旅より 武者小路実篤の詩。ここで"仕事"は、自身の時間と体力を注いで取り組むなにか、と私は解釈した。

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こころの旅
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