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心のスイッチの潤滑湯

清明|鴻雁北
令和6年4月12日

仕事量にはタフな方だが、仕事の種類が増えると途端に心が窮屈になる。新しいことが好きで、すぐにいろんなことに手を出してしまう性格ゆえ、自分からしんどさの渦中に飛び込んでいる。忙殺され、心を失いかけたときにはいつも、箱根の天山湯治郷に行くようにしている。先日も朝早く家を出て電車を乗り継いで、天山湯治郷の「一休」という湯に入った。一休は山の中に湯があるだけの日帰り温泉施設で、洗い場もなければサウナもない。耳を澄ますと川の流れる音が聞こえてくる。湯に浸かるうちにだんだん川の音は聞こえなくなっていき、心がギシギシと切り替わろうとする音が聞こえてくる。

「心のスイッチ」と言うほど簡単に心は切り替わらない。押したり引いたり、力づくで揺さぶったりして、やっとベクトルが少し曲がる程度。いうなれば物凄いスピードで走っている新幹線のようで、急激にブレーキを踏んだら吹っ飛んでしまうし、無理に曲がろうとするなら脱線する。季節の曲率と同じくらいの速度でじんわりと運動を開始し、ある時に「カチッ」とまるでスイッチを押したかのように心が切り替わるのだが、そのスイッチを入れるまでにどれだけの努力が必要なことか。

湯から出て、日記に思いのたけをひたすら書き記し、頭の中の澱みや渦巻きをリセットする。すでに心は新しい方向へと疼き出している。また新しい渦中を探している。こんなことの繰り返しなんだ人生は。

-T.N.

鴻雁北

コウガンカエル
清明・次候

天山湯治郷は前にもコヨムで紹介しました。自分の人生の重要なタイミングに立ち会う湯。先日は桜が満開で、風が吹くと花びらが舞って湯に入る。桜の桃源郷でした。

参考文献

なし


カバー写真:
2024年4月7日 今回も心が軽くなりました


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心のスイッチの潤滑湯
https://coyomu-style.studio.site/letter/kougan-kaeru-2024


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