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【バイト奮闘記④】私が全部悪いんでしょうか

初めてのバイトでしていいことなんて分からない。

金曜日、B店初日のバイトが始まった。
4限分授業があった体でそのままバイト先に着いたのは、7時だった。
今日のスタッフは、3人。
以前からここで働いていてキッチンを専門にやっているMさん
新人で前日の木曜日が初日だった男子高校生Rくん。
そして、私だ。

Mさんが大体の指示をしてくれ、それを私とR君がこなしていく。
いずれ、私たちだけで回せるようにするために色々と教えてくれる。
この方が本当に優しいのだ。
よく笑うしいっぱい話してくれるし、教え方も優しい。ありがたい。

お店に着いた時、Rくんは大量のひき肉を前にしていた。
ハンバーグを作るらしい。今日出すからではなく、仕込みだと。
私はエプロンをつけてキッチンに行くと、大量の玉ねぎを炒める仕事を担う。

人生で初めてこんなに玉ねぎを炒めた。

聞くところによると2キロ分らしい。
ひぇ、怖い。そんなに大量に作ることは家庭ではない。だから面白い経験だ。
玉ねぎを飴色になるまで炒める。
もはや煮つめる。

これ以上は時間がかかるし、大丈夫だろう、とのことで、少し冷まして肉に投入する。
Rくんがそれを揉む。
卵を入れ、パン粉を少しだけ焼いたものを投入し、牛乳を入れ、また混ぜる。
混ぜて混ぜて、大きいのを10個、小さいのを10個、
それを整形していた時だった。

お客様が来た。3人グループのおじさん方。
コロナの自粛が少し開けた金曜日は仕事帰りに飲みに来る人も多いのだろう。
たくさんの注文があり、それらに対応する。
飲み物の作り方も全てノートがあり、初めてでも対応ができた。
とはいえ、どのコップを使うかどこにあるのかなんて分からない。少し探してなければ、声をかけてどこにあるかを聞かなければならない。
だが、Mさんはほとんど1人でご飯を作っている。声をかけるのも申し訳なくなるぐらいバタバタと頑張ってくださっている。

私は声を何度かけていいだろう。

そんなこと気にせず早く聞いて対応してもらった方がいいに決まっている。
だけどちょっと罪悪感が募る。

聞いたら嫌な顔なんてせずに直ぐに教えてくれる。

会計は簡単。
オーダーをとった時点で既に打ち込んであり、それがレジのタブレットにもデータが飛んでいて、ピッと押すだけでいい。
計算の必要も無い、ただ、押すだけでいい。

分割払いの方法は覚えていた。だけど、表示に対応ができていない。あれ?レシートってどうやって出すんだっけ……。
頑張ればなんとかなる。やっぱりIT化って素晴らしい、ありがたい。

さて、高校生のRくんは10時には終わらなければならない。となると、閉店の11時までは私とMさんの2人だけでしなければいけないのだが、9時半頃に4人グループのお客様が来た。

このおじさん達が「とりあえず全部で」と言うような豪快な方たちだった。
飲み物も生ビールではなく、難しいもの……。

ありがたいけど困る。
なんて言うのは良くない。

対応してなんぼです。
そう思っていたが、閉店の時間15分前になってもなお楽しんでいた。

ちょっと待てよ、23時までと思っていたのはラストオーダーであり、閉店時間はまた別で、閉店作業も含めたらもっと時間かかるのか?

そういえば聞いていなかった。

最後のお客様が会計だという。

「2人で割ってくれる?」

……?
一瞬わからなくなる。
合計は11200円だった。
これはただ、半分に割ればいいだけだ。
5600円ずつだとお伝えすればいい。

「領収書ふたつくれる?」

……?
領収書を作る方法は知っているはずだったが、2つを作るとなるとどう対応したらいいのだろう。
Mさんはいつもキッチンを担当しているからレジのことは詳しくないそうだ。

領収書をふたつ作る。
それは、5600円の領収書をふたつ作ればいいということだ。

レジを見る。
領収証の画面、値段のところに11200円と書かれている。その横に電卓のような表示。
なるほど、ここに5600円と打ち込めばいいのか。
そうするともう1枚作ることも可能なのか。

私はその結論を導く。
初めてにしてはよくやった。
Mさんも「よくわかったね?!私だったらできませんって言っちゃうわぁ、凄い」と褒めてくれた。

私はよくやったのではないか?
いや、慣れている人には当たり前かもしれない。だけど、私は初日であって、一度説明を受けただけだ。しかも少し変化球のお願い。
自分の思考の速さ、対応力に少しだけすごいって思えた。
達成感を得る。
ここでなら頑張れそうだと思えた。

閉店作業が始まる。
私はその作業について何も知らず、全部の説明を受けながら進めていく。
私たちがやらなければならないことは、
*レジ締め(点検とレシート出して記しておく)
*レジの残高点検
*ビールサーバーを締める
*テーブルを拭く
*皿を洗う
etc……。

やることが本当に多いのだ。それをいちいち指示を貰ってからじゃないと動けない。

レジが合わない。
ひぇ……、間違ってないはず。
計算を間違えたのだろう、数えて、やり直して、合わない。
そこに時間を割いてしまった。
私の計算間違いだ、ただの。
だけど、少し焦って疲れた。
よかった、不安になった。

他のことをして、電話がかかってきた。
24時手前。
この時間の電話は、間違い電話かなんかだろう、と出ないという選択をMさんがした。
私も予約とかじゃないだろうし出なくていいと思った。だけど、ちらっと見た電話番号が母の電話番号に似ていた気がしたんだ。

もしかして、家族が心配して電話をしてきたのではないか?

私はスマホを着替えの時に置き場において持っていなかった。だって、新人がスマホなんていじってたらダメだろうって思ったから。
休む時間もなかったから連絡することも出来なかった。

確かに、23時までだと伝えていた。
だから、心配しているのだろう。

「もしかしたら母が心配して電話してるのかもしれません」
そう伝えると、「スマホ持ってても良かったのに」と言われた。え、そうなんだ。そういうものなのか。

直ぐにスマホを取りに行った。
大量の通知。不在電話。
母と兄から何件も来ている。

何してんの
連絡ぐらいしろよ
意味わからんけどな

めっちゃ怒られる。
ごめんって何回言っても、ダメだった。

確かに迷惑をかけている。
12時を超えていた。申し訳ないと思う。
本当に私が悪いと思う。連絡をすることが出来なかった私が悪い。

だけど、バイトで時間がかかることをあるじゃないか。
初日でどうすればいいか分からないことだってある。
そこまで私を責めなくてもいいじゃないか。
こんなに頑張ったのに。

なんて思ってしまう。
何もかも情けない気持ちになって、泣いてしまう。そこまで私は自由を奪われなきゃいけないのだろう。女体を持っていると言うだけで、危険が増える。から、ダメだと言われる。
悲しくなる。
誰も私に連絡なんてしてくれない。
予定より遅くなったとて誰も連絡なんてしてくれない。
兄なら許されることが私は許されない。
私が母に許していることを私は許されない。
そういうものだ。

なんて思春期みたいなことを思ってしまう。やっぱり思ってしまう。私が悪いし、私がダメなのも知っている。だけどどうしても情けなくなってくるんだ。

心配をしてくれてるのだとわかってる。
愛ゆえだとわかっている。
それでも尚、モヤモヤとした20歳になってもかという悲しみが襲う。頑張っているのに、頑張っていっぱい働いたのに、何故と。
ただ、頑張っていただけなのに。

本当に自分のダメさを感じる。
私は良くない人間だ。
ちゃんと自主的に声をかけれなかった私が悪い。
それは確かだが、だが……。

私のバイト代は全部、猫のために使うつもりだ。欲しいものは何も無い。ナギが幸せに暮らすためのお金を貯めるんだ。
もう1匹増やしたい。保護猫で里親を探している方から引き取るつもりだ。その子を飼うためにもお金を貯めるんだ。ずっとそう言っている。
バイトをするということで家庭から距離を置く、自立する、自由になる、そのためにバイトをしている。お金は別に渇望してない。ただ、ナギが幸せに暮らせるために。

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