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強みを使うと「情熱・活力・集中力」は本当に高まるのか?を調べた論文

こんにちは。紀藤です。さて、今日も興味深い「強みの論文」のご紹介です。今日の論文は『強みの活用から仕事のパフォーマンスへ:調和のとれた情熱、主観的活力、集中力の役割』なるものです。

最初にお伝えすると、めっちゃ面白かったです…!

<本日ご紹介の論文>
『強みの活用から仕事のパフォーマンスへ:調和のとれた情熱、主観的活力、集中力の役割』
Dubreuil, Philippe, Jacques Forest, and François Courcy. (2014) “From Strengths Use to Work Performance: The Role of Harmonious Passion, Subjective Vitality, and Concentration.” The Journal of Positive Psychology 9 (4): 335–49.

「強み」の長く、短い歴史

「強みの活用」の歴史を紐解くと、長い歴史があるようです。
古代ギリシャ(!)では「私たちの中にある最良のものに従って生きるために、あらゆる神経を働かせよう」(アリストテレス)と言われました。アリストテレス先生も行っていたのですね…!
 そこから、だいぶ時を経て1947年。キャリア開発のバーナード・バルデインがハーバード・ビジネス・レビュー誌にて、「組織の文脈で強みの活用の重要性を指摘」しました。そして、ピーター・ドラッカーも「組織の目的は強みを生産的なものにするものだ」と述べました。組織と強みが繋がった時代です。
 次に、科学的な手法に結びついたのが、80-90年代の調査会社ギャラップ社の研究。ここで、強みの定義がなされ、そして強み特定のアセスメントの元相『ストレングス・ファインダー』の開発に繋がります。定量的な分析も含め、強みの研究が進んでいきます。
 その後、2000年に入ると、ポジティブ心理学が誕生します。セリグマン博士を始め「人間の強み」を分類する事が大事だ!ということで、歴史や文化の違いを超えて現れる”美徳”を特定する研究を行い、『VIA(Value in Action』の強み特定のアセスメントが生まれます。ポジティブ心理学という学問と繋がることで、さらに強みの研究は加速していきます。
 そして、2008年には応用ポジティブ心理学センター(CAPP)にて、『Strength Profile』なるの強みと弱み特定のアセスメントも開発されていき、強みやその裏返しの弱み、未開発の強みなどその視点も広がっていきました。

 これらの”科学的研究”の名のもとにわかってきたことは「強みの活用は様々な成果をもたらす」ということです。たとえば、幸福感(ウェルビーイング)、人生満足度、職場満足感、達成感、充実感、エンゲージメントなどなど。細かく上げると、他にもありますが、とにかく「いいことあるっぺよ」という感じでしょうか(雑)。

「これまでの研究で”強みの活用”が成果につながることがわかりました」という印籠のような表現で伝えると、俄然説得力が増します。さらに、ここ10年くらいでは、個人の幸福度だけではなく、学校教育(子育て)や、経営や組織行動の分野での研究論文も多く発表されています。

アリストテレスから始まった長い強み活用の話が、ごくごく最近の短い期間で勃興してまいりました。すごいぞ、強み活用!

でも「強み活用が、なぜパフォーマンスにつながるか」はよくわからない・・・?

強みの活用が、各種パフォーマンス(成果)に繋がることはわかりました。
しかし、思うわけです。「強み活用が、なぜパフォーマンスにつながるのか?」、、、と。先行研究を見てみると、こんな事が言われています。

  • 「強みの活用」の特徴は、『エネルギー』と『真正性』である。そのため、強みを発揮するとき、人はより多くのエネルギーが利用できるかのように感じる。(Linley, 2008)

  • 「強みを活用」している間に、人はフロー(Csikszentmihalyi, 1990)に似た深い『集中』状態を経験する。(バッキンガム, 2007)

  • 「強みと才能の賢明な展開」は、より多くの関与、没頭、フローにつながる(Duckworth, Steen, and Selig-man, 2005)

すなわち、「強みの活用」とは『エネルギー』『真正性』『集中』という3つの心理的プロセスを生み出し、これが成果に影響するのだ、と先行研究では述べているようです。

ん?でも、ほんと・・・?
本当に、「強み活用」が「3つの心理的プロセス(エネルギー・真性性・集中)」に影響を与えて、そして成果に繋がるの・・・?

たしかに、感覚としてはよくわかります。強みを使っていると、疲れないし、エネルギーも湧く気もするし、自分らしい感じ(真正性)も感じる。集中もできている(気もする)。

こうしたプロセスは働くといえるの?・・・というと、実はそうした研究はほとんどされていないことがわかりました。

じゃあ、そのような心理的プロセスが働いているのかを調べようじゃないか!というのが、本論文の中心テーマなのでした。

本研究で調べる仮説モデルです

研究のプロセスやいかに

本研究の目的は、「強みの活用とワークパフォーマンス」に関する、仮説モデルを検証することです。具体的な仮説として2点挙げました。

<仮説>
・仮説 1:強みの活用はワークパフォーマンスと正の関係を持つ
・仮説 2:強み活用とワークパフォーマンスとの関係では、「調和のとれた情熱」が第一の媒介変数となり、「主観的活力」と「集中力」の両方が第二の媒介変数となる

<参加者>
カナダのケベック州にある人事専門家境界のフランス語圏の会員430名(女性が75%)。その方々にオンラインアンケートを行い、調査しました。

<調査尺度>
・「強みの活用」尺度(Govin-dji and Linley, 2007)
・「調和のとれた情熱」(Vallerand and Houlfort  ,2003)
・「主観的活力」(Ryan and Frederick, 1997)
・「集中力」(Jackson and Marsh, 1996)
・「ワークパフォーマンス(仕事のパフォーマンス)」(Griffin, Neal, & Parker, 2007)

※相関は以下のとおりでした

各尺度の相関は以下の通りでした

結果わかったこと→「情熱・活力・集中力は超重要だった」

さて、研究の結果やいかに・・・?!
ですが、結論からお伝えすると、「仮説は支持された」です。
乱暴にいうと、「思った以上にそうだった」というイメージでしょうか。

具体的には、仮説1の「強みの活用は仕事のパフォーマンスと正の相関がある」ことがわかりました。これは、先行研究と一致しています。また、諸々の変数間の調整をした結果、仮説2については部分的に支持されました。

ただし興味深い内容としては、結果を見たときに、『「強みの活用」と「ワークパフォーマンス」の関係において、3つの心理的プロセス(「調和のとれた情熱」「主観的活力」「集中力」)が、完全な媒介を示している(=中心的な役割を果たしている)』とわかったことです。

つまり、ちょっと繋がりがあるというレベルではなく、3つの心理的プロセスは、強みの活用とワークパフォーマンスを説明する基本的な役割と言えるほどの強い繋がりがある、ということ。

言われていた、「強みの活用が情熱・活力・集中力と繋がっている」は本当だったようです。

最終モデル

※ちなみに論文の限界として、あくまでも上記結果は相関であること(因果は不明)、またあくまでも主観的なアンケート結果からであることなど挙げられています。

まとめ

「強みを活用すると、情熱や活力や集中力が湧いてくる」。
当たり前のものとして聞き流していた心理プロセスに、メスを入れた論文が本研究です。そうした前提にまで踏み込むことで、強み活用の研究の土台が、より強固になるようにも感じられるインパクトがある研究だと感じました。

こうした研究のおかげで、「強み活用の介入が、情熱・活力・集中力に影響を与えたのか?」など、より介入における細かい目標設定を可能にしてくれるのでしょう。とても勉強になる論文でございました。

<本日の名言>
革命は、些細なことではない。しかし、些細なことから起こるのである。
(アリストテレス)


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