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強みをどのようにキャリア教育に活かすのか?「強みとキャリアを育む力」の繋がりを考察した論文の紹介

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しいただき、ありがとうございます!
さて、本日の記事は「強みとキャリアを育む力」についての論文紹介です。

日本人の研究者2名による”キャリア教育における4つの能力と、代表的な強みアセスメントの内容の関連を検討してみた”という内容で、興味深い内容でございました。ということで、早速みてまいりましょう!

<ご紹介の論文>
高橋誠、森本哲介(2019)『基礎的・汎用的能力と性格特性的強みの関連における一考察: 強みを活かしたキャリア教育の可能性』


10秒でわかる論文のポイント

  • 本研究の目的は、性格特性的強みがキャリア教育で育成すべき能力と、どのように関連があるのかを検討した。

  • その結果、基礎的・汎用的能力の4つの能力定義に当てはめると、性格特性的強みは「人間関係形成・社会形成能力」に関連する強みが圧倒的に多いという結果となった。

キャリア教育の4つの能力

近年、「キャリア」という言葉を聞く機会が増えててきました。
義務教育の小中学生からキャリア教育は始まっているようです。
ちなみに、「キャリア教育」とは、

”一人ひとりの社会的・職業的自立に向け
必要な基盤となる能力や態度を育てることを通してキャリア発達を促す教育”
(中央教育審議会,2011)

とされ、キャリア教育で育成すべき力として、以下の4つが挙げられています。

<キャリア教育で育成すべき「基礎的・汎用的能力」>
1)「人間関係形成・社会形成能力」
2)「自己理解・自己管理能力」
3)「課題対応能力」
4)「キャリアプランニング能力」

P132

研究の概要

さて、本論文ではそんな「キャリア教育の基本的・汎用的能力」を心理学的アプローチに代表される能力指標(=「性格的強み」)との共通性を見出す探索を行うというテーマで研究が進められました。

定量的なアプローチではなく、2名の心理学者(研究者)による探索的な検討です。以下簡単にポイントを整理してみます。

本研究の目的

・ポジティブ心理学の領域で開発されてきた「性格特性的強み」が、キャリア教育の「基礎的・汎用的能力」とどのように関連が見られるかについて探索的に検討を行う。
・そして、今後のキャリア教育で育成すべき能力を育てる上で「性格特性的強み」をどのように活用しうるかについて考察する。

論文の背景

・キャリア教育は小学校の義務教育から育成されるべきものと定義された。そして、キャリア教育の「基礎的・汎用的能力」を4つのカテゴリと具体的要素を示された。
・しかし、それらを見ると各能力に多様な要素が内包されている。また、それらをどう測定し、促進するかも、詳細に検討されていない。よって、キャリア教育の現場での使用に於いて混乱することが予想される。
・よって、心理学的アプローチに代表されるようなある一定の科学的根拠に裏付けられた能力概念、構成要素が求められると指摘されている(中川,2016)
・その心理学的アプローチの1つとして、「性格特性的強み」との関連を探索してみたい。

性格特性的強みと、キャリア教育の基礎的・汎用的能力の関連

・内容を見ると、性格特性的強みと基礎的・汎用的能力には共通する部分が多いと見られる。よって、性格特性的強み尺度から(VIA-IS、クリフトンストレングスファインダー、Realize2)強みを表す118のキーワードを抽出する。
・そして心理学者2名によって、関連性を検討した。

仮説

・『VIA-IS』は、倫理・道徳的価値観が反映されている強みが多い。一方、『クリフトンストレングスファインダー』『Realize2』は職業・競争的価値観が反映された強みが多い。
・よって、上記の傾向に対応する基礎的・汎用的能力がより多く示されると予測された。

結果

118の強みのキーワードと基礎的・汎用的能力の関連を検討すると以下のようになった。

1)人間関係形成・社会形成能力・・・49個
2)自己理解・自己管理能力・・・29個
3)課題対応能力・・・27個
4)キャリアプランニング能力・・・9個
 ※その他、18個

基礎的・汎用的能力とVIA-IS(左),ストレングス・ファインダー(右)との関連性
基礎的・汎用的能力とRelise2(現Strength Profile)との関連性

考察

・『クリフトンストレングスファインダー』『Realize2』は 職業的な成功を収めた人々の性格特性的強みを網羅している中でも人間関係形成・社会形成能力と関連する強みが多く占めている事実から社会的成功には人間関係や社会を形成する力が必要とされる可能性が示唆された。

・一方、論文の限界としては、今回は探索的検討であり、尺度を使用した相関分析は行っていない。また他の強み尺度は数多く存在していることもある。

キャリア教育の研究や実践にそのまま使用することは困難であるため、新たな性格特性的強み尺度の開発も求められるだろう。

まとめ

「キャリア能力の開発に、ストレングス・ファインダーって使えるの?」
こうした素朴な疑問が湧くことはあっても、深くそのことを追求することはあまりなさそうです(よほど探求心が深くなければ)。

しかし、今回の論文では、日本で言われているキャリア教育の定義と能力に照準を絞った上で、それらとストレングス・ファインダー等の強みのアセスメント結果との関連性を検討されている点が、興味深い点でした。

もちろん、論文の考察でも言及されている通り、あくまでも研究者の検討であり主観の域を超えない、あるいはキャリア教育の基礎的・汎用的能力も、その定義に対する批判もあるなど、様々な限界があります。

とはいえ、、キャリア教育の能力が言葉にされ、提唱されているのであれば、それらをどのように育めばよいのかを検討する上で『クリフトンストレングス』『VIAーIS』などを活用する、一つの指針を検討された論文であるとも感じました。

こういう研究もありなんだな、と興味深く拝読した論文でした。

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