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【ショートショート】彼女が涙を流す意味

彼女の涙は右目を流れる。
春の桜が舞ったとき
夏の海が青く煌めいたとき
秋の枯葉をブーツで踏みしめたとき
冬の雪が手のひらに触れたとき
決まって彼女は涙を右目に浮かべた。

そんな彼女の横顔があまりに綺麗で
それを眺められる右隣の特等席を
誰にも譲りたくないと僕は思った。

「ねぇ、知ってた?
涙の種類は流れる目によって
意味が違うんだって」
「そうなの?知らなかった」
「右目が嬉しい涙、左目は悲しい涙」
「君はいつも右目で泣くよね」
「あなたがいつも右隣に居てくれるからだよ」

3度目の冬を迎えたとき、
僕たちは海辺に二人並んで
荒れた灰色の水面を眺めていた。
左に座る彼女がぼそりと呟いた。
「私たち、終わりにしよっか」

泣き虫の彼女は涙一つ流さずに
まっすぐ前を見つめ僕にそう告げた。


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