ショートショート38 「リモート会議」
とあるCG制作会社の面々は、それぞれの自宅にてパソコンの電源を入れる。
通勤がないと言っても、朝一の会議は億劫だ。
一人、また一人と、見知ったメンバーがパソコンに映し出されるたびに、画面は格子状に分割されて、網目が細かくなっていく。
「おはよう。」
「おはようございます。」
画面越しに挨拶が交わされる中、マネージャーが焦れたように
「時間になったが、藤間は、まだか? 今日はあいつの制作した映像チェックの会議だというのに。」
と呟く。
噂をすれば…とは、よく言ったもので、瞬間、当の社員がリモート会議に参加してきた。
「やっときたか」
「やっと、って2分しか遅れてませんよ〜。」
「遅刻は、遅刻だろう。」
「はーい、すんません。」
悪びれる様子もなく、生返事で謝罪をする。マネージャー相手でも、慇懃無礼な態度を取る問題社員、だが、それは逆にこの社員の腕の良さを物語っていた。
「ちゃんといいもの作りましたので。ご勘弁を。」
軽口を叩きながら、画面共有の準備を進めていく。
「では、来年公開のSF映画のワンシーン。エイリアンによる地球脅迫のシーンの社内レビューを始めよう。」
「はーい、それじゃあ、一回画面をもらいまーす。」
一瞬、パソコン画面にノイズが走り、映像が流れる。
画面には、緑色の肌をして頭に一本の触覚が生えた宇宙人たちが映し出される。
「地球の諸君。我々は、この星が気に入った。大人しく出ていってくれるならば、手荒な真似はしないと約束しよう。ただし、抵抗するならば、我々は武力行使を厭わない。抗っても無駄だということをお見せする。刮目せよ。」
宇宙を漂う小惑星に場面が切り替わる。
宇宙船から発射されたとみられるオレンジ色の光線が、一瞬のうちに小惑星を破壊した。
展開は古風だが、ものすごく詳細に作り込まれた映像だった。
画面越しに拍手が起こる。
「すごーい!」
「なんて映像だ!!」
口々に称賛の声が上がった。
(クソ、こんだけのものを作ってくるから、あまり咎められないんだよな。嫌味なヤツだ。)
と内心マネージャーは思いつつ、
「全体的に良くできてる。けど…この宇宙人のデザイン古すぎるな。」
一同が笑い声を上げた。
その声に反応したように、画面の中の宇宙人が顔を見合わせたところで、画面共有は終了し、通常の会議画面に戻った。
「いや、でも素晴らしい出来だ。このまま進めてくれ。」
一同の賞賛を受けつつ、当の社員は、自分が作ったのと全く違う映像が流れたことに呆然としていたが、褒められて悪い気分じゃなかったので「いやぁ、それほどでも」と適当に話を合わせた。
❇︎
成層圏のはるか彼方、宇宙空間に浮かぶ宇宙船の中で、宇宙人たちは顔を見合わせたままでいた。
「我々のメッセージを割り込ませることができた回線に侵入してみたものの、奴ら、余裕しゃくしゃくで笑っていたぞ。小惑星を破壊した時も、まるで子どものお遊戯を褒めるかのような態度だった。」
「艦長、もしかして、地球の技術力は、あの程度朝飯前と言うことなのでは。。。」
「くそっ。辺境の惑星と侮りすぎたか。こうしている間にも、こちらが迎撃されてしまうかもしれない。急いでこんな恐ろしい星から離れるんだ。」
地球の誰にも、それと知られることなく、
一条の光を残し、宇宙船は銀河の彼方へ飛び去っていった。
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