見出し画像

『 ざくろちゃん、はじめまして 』 特装版 箔押し3色押し

コスモテックの青木です。少し前のお話です。

大人気バンド 「 SEKAI NO OWARI 」 の “Saori” こと、藤崎彩織(ふじさき・さおり)さまによる書籍(エッセイ) 『 ざくろちゃん、はじめまして 』( 出版社は水鈴社 ) その特装版の表紙の箔押し加工をコスモテックでお手伝いさせていただきました。

製作・加工の真っ只中、藤崎彩織さまからインスタグラムにて励みになるお言葉をいただき、背筋が伸びる思いがしました。

「 ざくろちゃん、はじめまして 」 の特装版の発送が、少し遅れそうです。

宝ものを作ろう!!というコンセプトで始まったこの企画。
色んな会社から難色を示されましたが、コスモテックさんという会社の方が「 難しいの、燃えます 」 と言って、素敵な箔を押してくれました。


サインを少しずつ書いていますが、想定よりもはるかに多くの方から特装版のオーダーを頂いたので、時間がかかっています。

お待たせしてしまうけれど、でも、大切に丁寧に作っているので待って頂けたら嬉しいです。

藤崎彩織さま インスタグラムより

藤崎彩織(ふじさき・さおり)
1986年大阪府生まれ。2010年、突如音楽シーンに現れ、圧倒的なポップセンスとキャッチーな存在感で 「 セカオワ現象 」 と呼ばれるほどの認知を得た4人組バンド 「 SEKAI NO OWARI 」 では “Saori” としてピアノ演奏とライブ演出、作詞、作曲などを担当。研ぎ澄まされた感性を最大限に生かした演奏はデビュー以来絶大な支持を得ている。文筆活動でも注目を集め、2017年に発売された初小説 『 ふたご 』 は直木賞の候補となるなど、大きな話題となった。他の著書に 『 読書間奏文 』『 ねじねじ録 』 がある。

水鈴社ホームページ内より


「 難しい箔押し加工のため、受けてくださる加工会社が見つからないのです 」 とコスモテックへお声がけくださったのは大正14年創業の老舗印刷会社 萩原印刷さまです。

さらに 『 ざくろちゃん、はじめまして 』 のデザインは、コスモテックと長きにわたり交流のあるブックデザイナー 名久井直子さまが手がけているということもあり、普通は尻込みしてしまいそうな箔押し加工ですが、今回の挑戦に際し、名久井さまにもトン!と背中を押していただいたような感覚もありました。

萩原印刷さま、ブックデザイナーの名久井さま、出版社である水鈴社さま、そして 著者 藤崎彩織さまの熱い思いを汲んで、大変難しい仕様の箔押し加工のお仕事ではありましたが、「 難しいの、燃えます 」 という言葉とともに気持ちを前へ、前へと持っていきました。

それでは今回の箔押し加工について、コスモテックの現場リーダー 前田瑠璃がご紹介します。


◉ 難易度の高い箔押し、そのわけは?

こんにちは、現場の前田です。

今回の加工は箔色3色の見当合わせ( 位置合わせ )にくわえ、表紙貼りされた布クロスへの箔押し加工ということで、加工で使用する金属製の版の材質や箔の接着材の種類などよく吟味して選択しました。

・ 箔押し加工で使用する金属製の版について 

箔押し加工で使用する版は、図案や箔押しする素材、表現の難易度に合わせて、金属版の腐食具合の深度や金属の材質を変えて加工しています。

さらには、製版会社さま( 金属版をつくってくださる会社 )によっても金属版のつくりが異なるため、コスモテックにご依頼いただく仕事ごと、デザインごとに合わせて、金属の材質はもちろん、製版会社さまも厳選して版づくりをお願いしております。

今回の箔押し加工に使用する金属製の版は3つ
この3つの版を組み合わせて使用
1つの箔押し版でなかなか大きなサイズ!
そして、ずっしり重い


金属版のエッジが甘く、腐食の深度が浅い場合、いざ箔押しすると、箔を押したデザインの輪郭やフチの部分の箔がゴワゴワ・じゅわじゅわすることがあります。これは箔を押す素材によっても千差万別です。

今回のように表紙貼りされた布クロスは特に箔のコントロールが難しい素材であるという過去の経験から、ゴワゴワ・じゅわじゅわを可能な限り抑えることを第一に考えて金属版を製作しました。また、表紙貼りされた布クロスへの加工、さらには豪華3色の箔押し表現ということで、金属版の耐久性や厚みもよく考えた版選びを心がけました。

・ 加工で使用する箔の材料について

さて、 『 ざくろちゃん、はじめまして 』 特装版の表紙で使用する箔は合計3種類です( ①顔料箔のピンク、②顔料箔の白、③マット調の金箔の3種類 )

箔押し加工する時はデザインに合わせた幅でロール状の箔材をカットし、箔押し機に適寸の幅でカットしたロール状の箔材をセットして、箔押し加工にあたります。下の写真はすでに適寸の幅でカットした状態の箔ロールです。

ロール状になっている 加工に使用する箔材
手前から金・白・ピンクの合計3色を一つの表紙の中で箔押し


そしてなんと、今回使用した3種の箔はそれぞれ箔メーカーが異なり、国内外3社の箔( 海外の箔はドイツ製 )を使用しています。

通常、一つの本を生み出すお仕事ではメーカーは一社にしぼって箔の仕入れを行うことが多いのですが、布クロスの表紙と箔の接着剤の相性を考え、 「 細やかな箔のエッジや定着具合・再現性を考える 」 「 顔料箔の色の表現性 」 などを校正( テスト加工 )の段階からよく検証し、結果3つの箔メーカーから箔材を仕入れることになりました。

顔料箔やメタリック箔( 今回の場合、金箔 )も、箔の接着剤など各箔メーカーによって特性に差異があるので、それぞれの箔に合わせて、箔押し機の加圧・加熱具合の調整をしっかり行い、3メーカーの箔が均等に綺麗に表現できるベストなコンディションづくりをすることに時間をかけました。

この3図案・3メーカー・3種箔のバランスづくりが非常に難しかったです。

・ 顔料箔の性質を加味する

1工程目のピンクと2工程目の白は顔料箔という箔材を使用しています。
顔料箔はパキッとしたペンキのようなマット調の色味が特徴の箔です。また、とてもデリケートな箔でもあります。なんと、顔料箔を押した表紙を平積みに積み上げると、加重と摩擦で箔がこすれて剥がれやすい性質があるのです。

今回、箔のこすれを考慮に入れて、顔料の箔押し部分が表紙を重ねた時に摩擦でこすれないように、気持ち強めの圧をかけて押すことで箔部分を凹ませ、箔の接触と摩擦を防止するなど、表紙を積み上げた際の状態にも配慮し、準備・加工にあたりました。

◉ 全ての工程に手仕事が詰まっている

加工はやわらかなグリーンの布クロスの表紙にぺたっとペンキのような顔料箔2色( ピンクと白 )、金箔1色の合計3色の箔を表紙の全面に加工するというものです。

3色の箔の見当合わせ( 位置合わせ )がとてもシビアなデザインのため、「 これは果たしてどうやって加工しようか……!? 」 と箔押しの現場を悩ませるほど、今回は難易度の高いお仕事でした。そもそも布貼りの表紙の全面に3色もの箔押し加工を施すことなど、なかなか通常の本づくりのお仕事の中ではお目にかかりません。

今までの仕事で得た経験や知識などを総動員しつつ、「 まずは押してみます! 」 という気持ちを大切に加工にあたりました。


箔押し加工の3色は一回の加工で3色の箔を同時に押しているわけではありません。

1色目( ピンク )を押し終えた後に2色目( 白 )を。
2色目を終えた後に3色目( 金 )を…… 1色1色重ねていきます。

箔色を変えるのと同時に加工で使用した金属版を箔押し機から取り外し、次の箔色を加工するための金属版に交換し、その後布クロスの表紙に均等に箔がしっかり定着することができるように調整に調整を重ねながら箔押し加工していきました。

難易度が高いお仕事ほど加工に取りかかる前の準備段階( したごしらえの時間 )には特に時間がかかります。

積み上げられた箔押し加工待ちの表紙
すさまじい量


『 ざくろちゃん、はじめまして 』 特装版の1冊分の表紙の加工にはこうして3倍の手間暇をかけて加工しているのです。

山積みの表紙から1枚1枚の表紙を手に取り、手作業で箔押し加工しては、終えたものをまた積み上げる…… 3回と山をくずしてはまた積み上げることを繰り返していると腕の筋肉や肩が加工開始の時より張っていくのが顕著にわかるものです。また、強い緊張感もあります。

ただ、本が完成した時やその状態を想像したり、本を手にしたお客さまが喜んでくださる様子を思い描いたりしながら、根気強く、ひたすらゴールを目指し、箔押し加工に集中するのです。

◉ 3色目の箔、金箔押しを施す

箔押し加工、その最後を飾る工程はマット調の金箔押しです。


最後の工程が一番加工の位置合わせが難しく、顔料箔のピンク、白の箔押し位置と金箔の位置がぴったり合うように、また、細い線や文字の部分がシャープに表現できるように、箔の定着具合いにも特に注意しながら加工にあたりました。

デザイン上、ピンクと白の箔の上に金箔をかぶせて押す部分もあれば、布クロスに直接押す部分もあります。このように、押す箇所のコンディションが混在している場合( 箔の上に箔 ・ 素材の地の上に箔 )は、加工を開始する前の調整段階から箔の定着具合を均一に保つことを探る、 『 ほどよい加減を探す 』 ことに非常に時間や手間を要します。

写真は箔の抜け殻
金の箔を押し終えた瞬間


この 『 ほどよい加減 』 に着地させることの裏側にある 「 もう少し圧を強めよう 」 「 いや、ここから気持ち弱めよう 」 などのちょっとした工夫や熱・圧のさじ加減一つとってみても、実はここに加工現場の箔押しの醍醐味と技術が集約されているといっても過言ではないのです。

このような試行錯誤を経て、やわらかいピンクと白の顔料箔に落ち着いたマット調の金箔の輝きが加わり、それぞれ異なる箔の表情が淡いグリーンの布クロスの表紙によく映えているのが見てとれた瞬間、「 ああ、よかった…! 」 と胸をなでおろしたのでした。

◉ 地味! でも、とっても大事なひと手間を

そして、箔押し加工は箔を押したら終わりではありません!


今回、3色の箔押し加工後に箔の 「 バリ取り 」 という仕上げ作業を行なっています( 上の動画をご覧ください )

「 バリ 」 とは箔押しのデザインと箔材の特性、そして箔を押す素材( 紙や布など )の相性によって、箔押しするべき部分からはみ出してしまった箔のことを指します。

機械の圧力や温度などの調整、さらには箔押しするテクニック、技術では補えず、どうしても 「 バリ 」 が発生する際、箔押し後の最終の仕上げの工程で 「 バリ取り 」 をします。 「 バリ取り 」 をすると箔の輪郭がすっきりシャープに見えるようになり、垢抜けた印象に仕上がるのです。

竹串を片手に白箔部分の輪郭をささっと
やさしくなぞっていく


今回の場合、白箔を押した部分の輪郭がふと気になり、白箔の図案の輪郭線に沿って、竹串を用いて、そっと軽くなぞることではみ出した余分な箔を削ったり、さらには特殊なネットでやさしくささっとなでるなどして、1枚1枚手作業で丁寧に 「 バリ取り 」 を行なっています。

箔押しの後処理で、非常に裏方的な地味過ぎる作業のため、取り上げられることがほとんどない 「 バリ取り 」。 押し終えた箔をより美しく見せるため、ワンランク上の品質に向けて、さらには手にとっていただくお客さまに喜んで欲しいという一心で、根気強く地道に作業にあたりました。

◉ うれしかった出来事

著者である藤崎彩織さまがインスタグラムにて、ちらっとコスモテックのことや、さらには加工の様子を投稿してくださったことは、加工に向き合う現場の者として大きな励みになりました。

藤崎さまの投稿に寄せられた多くのファンの皆さまのコメントを拝見させていただくと、「 箔押しってこういう風に加工しているの!? 」 「 本当に手作業なのですね!? 」 と驚いている方も多く、箔押し加工のことや私たちの仕事を多くの皆さまにも知っていただくきっかけへと繋がっており、私はとてもうれしく、元気をいただきました。


『 ざくろちゃん、はじめまして 』 の箔押し加工は箔押し表現するうえで、明らかに難易度が高いことはデザインを見た瞬間から現場の経験上伝わってきました。

最初にこのお仕事のお話をいただいた際は 「 こわいなぁ 」 「 うまく表現できなかったら… 」 という尻込みする感覚はもちろんありました。しかし、 「 やってみよう! 」 という前向きな気持ちで一歩踏み出せたのは、頼ってくださった萩原印刷のご担当者さま、その先の出版社 水鈴社さま、ブックデザイナーの名久井直子さま、さらには著者の藤崎彩織さまの 『 本を完成させたい思い・本づくりにかける熱い思い 』 を感じることができたからなのでした。

また、今までコスモテックを頼ってくださった たくさんのお客さまから培ったもの・得たもの… 経験や知識、そして挑戦する気持ちが一歩前へと踏み出せる自信と原動力になっているのは明らかです。

今後もこの気持ちを大切に邁進していきたいと思います。
箔押し加工をお手伝いさせていただき、本当にありがとうございました!

『 ざくろちゃん、はじめまして 』 特装版
著者     : 藤崎彩織(ふじさき・さおり)さま
出版社    : 水鈴社
ブックデザイン: 名久井直子 さま
印刷・製本  : 萩原印刷


【 箔押し加工 】

有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?