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「箔押し印刷加工会社 営業 アオキマサノリより」

コスモテックの青木です。
今回は少し、私自身のことを絡めて note の記事を綴らせていただきます。

私がコスモテックという箔押し印刷加工会社の門をたたき早20年以上の月日が流れました。入社して数年後( 2005年 )に立ち上げた箔押し印刷ブログ 『 ようこそ!行列のできる箔押し印刷工房へ 』 はまもなく開設から20周年を迎えようとしており、改めて感慨深いものがあります。

20周年… 人間の年齢で言うと二十歳( はたち )です。20年近くも箔押しブログを更新し続けていると、うれしい場面に何度も遭遇する機会がありました。

「 コスモテックさんのブログは私が高校生の時にはじめて発見しました。それからというもの、今も時間をつくっては読んでいます。 」
「 私の娘、息子と一緒にコスモテックさんを応援しています。 」 など…

たくさんのありがたいお声をいただく機会に恵まれたことは私にとって大きな励みであり、コスモテックという会社にとっても大きな財産といえます。そしてなんと、ファンレター(!)まで頂戴することも実はあるのです。

「 本当にびっくり! うれしいです。 」

写真 後藤洋平さんによるもの


いち加工所、いち小さな加工現場であるコスモテックが、これほどまでに皆さんの身近な存在として感じていただけていることに私は驚きを隠せません。ブログを頑張ってきてよかったと感じる瞬間です。

お客さまに感動を与えたいと励んでいる私たちコスモテックですが、逆にお客さまからたくさんの励ましや元気をいただいている…。 ブログ開設20周年目前と迫る中、沸々と私の中に感謝と感激がわいてくるのを感じました。

◉ 履歴書に書いた 『 箔押しの伝道師 』

私が就職活動でコスモテックという箔押し印刷工房( 印刷加工会社というよりも印刷工房と呼んだ方が雰囲気にぴったりだった頃 )に提出した履歴書に書いた言葉で今もはっきりと覚えているのは、

『 箔押しの伝道師 』 になりたい。

そんな大それた言葉を使ったこと
を、時折、昨日のことのように思い出すことがあります。

大口をどん! と履歴書に書き記しつつも、実は私は全くの業界未経験者のぺーぺーであり、箔押しがどのような加工でなんたるものなのかを、お恥ずかしいながらほとんど分かっていませんでした。その頃は箔押しや印刷加工に対しての知識も経験も無く、大きな志や強い思い入れがあったわけではありませんでした。

しかし、面接の場で私が一番気になったのは、私の目の前にいる職人。
私に にこにこした顔を向け、目尻のシワさえどこか美しく感じる、そして私よりもずっとずっと年上の箔押しの匠 佐藤勇の屈託のない笑顔でした。匠と話しているうちに、 「 願わくば、ご一緒させていただきたい。ここで一緒に仕事させていただきたい。 」 と箔押しは一切関係なしでそう感じたのでした。 

あの日 運よく箔押しの匠 佐藤勇の目に留まりコスモテックで働き始めた私ですが、入社してから今日に至るまで自分自身が履歴書に書いた 『 箔押しの伝道師 』 という言葉によって長きにわたって苦しむことになろうとは、当時の未熟者の私には予想できませんでした。

私を苦しめたものの正体は 『 有言実行 』 『 初志貫徹 』 の難しさです。
「 書いてしまった、言ってしまったからには実行あるのみ。 」
言葉にすれば単純なことですが、モチベーションを保ち、実行し続けることは非常に難しいことでした。

コスモテックに入社してから数年間は毎日必死に右も左も分からない状態で箔押しの匠 佐藤の言葉を拾い、背中を眺めて勉強する日々でした。佐藤の手となり足となり、あちこちの別の加工所に飛び回る時期もありました。

そして数年後、ある程度身に着いた知識と経験をもとに、自分の勉強とモチベーションアップの手段も兼ねて箔押しブログ 『 ようこそ!行列のできる箔押し印刷工房へ 』 を立ち上げることをふと思いついたのでした。

入社以降、私の頭の片隅にはいつも 『 箔押しの伝道師 』 という言葉が引っかかっており、なんとかその道筋や方法を見つけたいと必死な思いで考え続けていました。 今だからこそ感じるのは、ふと思いついたブログ開設を実行する際に、私の背中をトン! と後押ししてくれた言葉でもあるという確信があるのです。

◉ 小説家 野梨原花南 先生の言葉、音楽家 東郷清丸さんの言葉

小説家 野梨原花南 先生、2015年6月の投稿より
音楽家 東郷清丸さん、2018年6月の投稿より

箔押しブログを開設後、じわりじわりとコスモテックの箔押しの口コミが広がっていき、おかげさまでブログを通してさまざまなお客さまと出会う機会、そしてお仕事をお手伝いさせていただく機会に恵まれました。

約20年の歳月の中で、私の気持ちをがっつり掴んで離さない言葉が、上にあげた 小説家 野梨原花南(のりはら かなん)先生、そして音楽家 東郷清丸(とうごう きよまる)さんからいただいた言葉( X の投稿 )です。

2015年・2018年、今から数年前にお二人によりそれぞれいただいた言葉で、私の中で今もよく思い出す大切な指針のようなものです。 『 このような自分で在りたいな 』 と。

野梨原先生や東郷清丸さんが私という人間をしっかり見てくださっているという喜びはもちろんなのですが、箔押し加工に関してではなく、私と仕事・お客さまに対しての在り方について、まるで一種の助言やヒントのようにも聞こえて、とても感激させられました。

お二人からいただいた言葉は、ごくありふれた普通の日に彩を与え、私の心に深く刻まれ今も強く残っているのです。がむしゃらに仕事と向き合う何気ない日常でふと触れたやさしさ・あたたかさに、「 野梨原先生、東郷清丸さん、どうもありがとうございます。 」 と感じたことが、私にとって大切な一瞬だったのでした。

野梨原花南(のりはら かなん) さん
小説家。少女小説やライトノベル、ティーンズラブ小説、ライト文芸で主に執筆している作家。

東郷清丸(とうごう きよまる) さん
ミュージシャン、シンガーソングライター。 ミュージシャンとしての活動のほか、大田区にある 活版印刷工房 Allright Printing にて印刷職人としても活動していた。

Wikipedia より

◉ 技術はみんなでつくるもの

さて、コスモテックは 『 デザインのひきだし 』( グラフィック社編集部 )の表紙加工をのべ10回もお手伝いさせていただきました( 2011年 - 2024年 )

積み上げてきた技術と経験
コスモテックで挑ませていただいた表紙加工全10回


今まで発売された 『 デザインのひきだし 』( 2024年現在 51号まで )の五分の一もの 難易度の高い表紙加工にコスモテックが挑ませていただく機会を設けていただけたことは本当に夢のようです。

13年間( 2011年 - 2024年 )かけて10冊の表紙加工を成し遂げることができ、確固たる技術力と仕事を貫徹させる前向きな気持ちをコスモテックの箔押しの現場に集積できたことはコスモテックという箔押し印刷会社にとって大きな自信と励み、仕事の芯のようなものになったということに私自身、充分な手ごたえを肌で感じています。

また、『 デザインのひきだし 』 の46号目( 2022年 )、コスモテックで表紙加工をさせていただいた9回目( 1000パターンの箔押し表紙を生み出すというもの )を完遂した時、これは過去 note の記事にも書いたことですが、私はコスモテックに入社してはじめて 「 私は箔押し加工が本当に好きなのだ! 」 という実感を得ることができました。

箔押しを通じて、お客さまの製品・作品づくりのお手伝いをさせていただき、そして、『 箔押しの伝道師 』 という言葉を意識して、技術や知識を積み上げてくること、約20年余り。

私はやっと 「 箔押しが大好きな自分 」 と出会うことができたのでした。 

2014年11月~12月に開催した 『 謝恩会 』 という名の展示会


さて今現在の 「 コスモテックの技術はどこから来たのか? 」
箔押しの匠 佐藤が箔押し印刷工房 コスモテックを牽引し、仕事でとことん踏ん張って箔を押し続けてくれた事とその功労はとても大きく私の中で今も生き続けています。コスモテックが佐藤( 箔押しの匠 )から技術や箔押しへの思いというバトンを今へと確実に繋いでいることはきっと誰しもが感じているに違いありません。

それと並行して、ブログ開設後から今日に至るまで、多種多様な箔押しのお仕事をコスモテックにお任せくださるお客さまによって、コスモテックの現場に経験や技術力向上がもたらされました。

お客さまからお任せいただき、一つ一つの箔押しのお仕事と向き合い、一つずつ丁寧に形作っていくことで、技術や信頼関係が形成されていくものだと強く感じます。 私が「 箔押し大好き 」 と気づかせていただくまでにかなりの年月を要したように、技術をみんな( お客さま )とともに育てていく作業もまた容易ではなく、加工の現場で技術を熟成させていくにはかなりの時間と多くの案件数が必要不可欠なのです。

一挙手一投足の労を惜しまず、毎日の積み重ねが大切であると感じます。

◉ 世界観から学ぶ、世界を掘る

20年以上前は大手印刷会社の完全な下請けだったコスモテック。
20年後の今はさまざまな企業をはじめとし、デザイナーさん、イラストレーターさん、同人作家さん( 下記のまとめ参照 )など、コスモテックに箔押しをご依頼くださるお客さまは本当に多岐にわたります。

箔押しブログ 『 ようこそ!行列のできる箔押し印刷工房へ 』 を2005年に開設し、まさかこれほどまでにコスモテックを取り巻く環境が激変するとは、当時の私には知る由もありませんでした。

「 ブログを続けてきて本当に良かった! 」
「  『 箔押しの伝道師 』 という勝手に自分で作り出した言葉から逃げなくて良かった! 」 
と今だからこそ笑って答えられる気がします。 

私が 「 お客さまに恵まれている 」 と感じることの多くは、お客さまの制作物や作品づくりの中でお客さまの思いに触れ、さらにはその世界観をご教授いただいた瞬間です。

私やコスモテックが知らない世界の扉が一気に開き
「 こんな表現方法があるのか! 」 「 この考え方は私にはまるでない考え方! なんでこんな風に思えるのだろうか? 」 など…

そこには驚きや発見はもちろんですが、己の無知さも同時に気づかされるような感覚もあります。 箔押しに挑む前の段階で、お客さまとのやりとりの中で生まれるさまざまな気持ちや感覚に気づくことが、たまらない瞬間でもあるのです。

月刊 MdN 2016年1月号( 2015年12月4日発売 ) の巻頭インタビュー
人と人( クリエーター2人のテーマトーク )
ブックデザイナーの吉岡秀典さんとともに


「 箔を綺麗に押すのではなく、味わいが出るように擦れさせてヴィンテージ感が出るようにしてほしい 」 「 箔を押す時に意識しないで、適当なランダム感を出して押してほしい 」 など、お客さまからコスモテックに寄せられる・求められる表現もさまざまです。

一人一人のお客さまの声やご要望に耳を傾け、お客さまと一緒になって答え探しをし、着地点を見つけ出す試みから生まれる高揚感と連帯感には心地よさもあります。そのような時に思い出されるのが、佐藤( 箔押しの匠 )の言っていた言葉です。

「 自分が話すのではなく、ちゃんとしっかり相手( お客さま )の話を聞いて理解するのが大事なんだな。 」「 青木、しっかり聞いているか? 」

 「 聞くことで学ぶ。そうすることでお客さまとともにより世界( 思い・製品・作品など含まれる )を掘り進めることができるのでは? 」 と、私は箔押しの匠の言葉を解釈しております。

寄り添い、歩み寄りなくして、お客さまにご満足いただけるものづくりは実現が難しいと私は感じるのです。

◉ 紡がれる意志、次の時代へ

上の note の記事内の一番下に書かせていただいた
『 いつか匠にかけられた「 青木、外見て仕事しろ。ほれ、お前を慕ってくれる仲間たちがいっぱいいるじゃないか。 」 という言葉 』 を私はお守り代わりにし、ブログ開設20周年という一つの節目に向けて、今も日々奮闘中です。

「 『 箔押しの伝道師 』 には少しは近づくことができたかな? 」
「 いやいや、まだまだ遠いな。 」
「 それにしても 『 箔押しの伝道師 』 って… 何か他の言い方は思いつかなかったのだろうか? 」 と少し照れくさく感じたりもします。

装丁家 鈴木成一さん( 鈴木成一デザイン室 )より
イメージの闘技場( コロッセウム ) の上に 「 青木頑張れ! 」 のサイン

「 コスモテックという箔押し印刷工房がここにあるよ! 」
と世の中に知らせるために開設したブログ。 何もなかった私にたくさんの武器を与えてくれたのは箔押しの匠 佐藤、そしてコスモテックの箔押しへ 「 この指止まれ! 」 で一人また一人と集まってくださったお客さまや今も共に働く社内外の仲間たちに他なりません。

今までお客さまと一緒になって作ってきたコスモテックの箔押し技術を、そして匠が愛した箔押しの現場を、次なる世代や時代へさらに繋いでいく時が近いと私は感じます。

現場に新しいメンバーを迎え入れたり、安全性の高い箔押し機を新たに導入したり、次なる新しい時代を想像しながら、昔も今も相変わらず小さなコスモテックという小舟は大海原の航海真っ只中です。

私やコスモテックが長い間たくさんの人たちから授けていただいた技術や経験・知識を今まで以上に活かして、いただいたご恩をきっちりお返しできるよう、益々精進していきます。

箔押しがどのような加工で、なんたるものなのか、何も分からず箔押し印刷工房に私が飛び込んで、私の中に今ある熱狂は関わり合ったたくさんの方々につくっていただいたものだと感じています。

皆さま、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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