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バスの中に咲いたサクラ

今日、地元にある一般社団法人の
とある協会の理事会に出席するため、
高松に行ったのだが、そこでの出来事。

高松まではJRで行き、そこからはバスを使う。
朝早かったとはいえ、バスはかなり混んでいた。
大半が若い学生たちだ。
バスのルートを考えると、K大学の前を通る。
K大学の工学部は市郊外にキャンパスがあるから、
そこの学生だと思った。

それにしてはまだ若いような気がしていた。
そのわけは、大学前に停車したときに理解した。

運転手さんが降りる学生に、
「はい、頑張って。最後まで諦めないで。
 このバスに乗った受験生はみんな合格。」
と声をかけていく。
そうだ。彼ら彼女らは受験生だったのだ。

今日から国立大学入試の後期日程。
僕はそのことをすっかり忘れていた。
受験生だから大半が現役の高校生というわけで、
道理で大学生にしては若く見えた。

そういえば、駅から40分ほどのバスの中でも、
みんな静かに本を読んだり何かに没頭していた。
それもその時まで、コロナ禍だから、
混んでいるバスの中でのマナーを守っているのだ
と思い、静かなことに然して気にも留めなかった。
おそらく読んでいたのは参考書の類い。
そんなバスの中は、今日の天気のように
どこかどんよりと空気が重く感じた。

それが、運転手さんの一言で一瞬にして変わった。
それまで無表情の顔をした受験生が、
パッと顔色を変え、降りて行った。
朝のこの時間にバスに乗り合わせたその出逢いが
奇跡的だと思った。
きっとこのバスに乗り合わせた受験生は、
不安な空気を一掃した言葉に力をもらったろう。

頑張って、という言葉は、ときに安っぽい
自己満足な言葉で終わるけれど、遣い方によっては、
かけられた相手の大きな力になっていく。

この時の運転手さんの「頑張って」という
掛け声は全員まとめてではなく、
大勢の中の一人ひとりにかけたものだった。
このバスの受験生はきっと、最後まで諦めずに、
蓄えた力を発揮することができただろう。

「このバスに乗った受験生はみんな合格」

添えられた一言で、
バスの中には一足早いサクラが咲.いた。


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