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風の記憶、時の雫

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note をはじめてみようと思う。 秋晴れの空を眺めていたら、風がやってきて、 そのときにふと思ったわけです。
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2018年11月の記事一覧

洋(うみ)に

私は何も言葉を  捜そうとはしない  拾おうとはしない 自分の身体が  波に浮くのを感じている 時おり風が  頬を切ったりするが それはやさしい  語りかけのようだ 私は何も言葉を  捜そうとはしない ただ一点を見つめている

夜の帷

溶けた記憶を ぐるぐるかき回して 少しずつ いや一気に 乾いたのどに流し込めば 窓の外はもう九時だ ガランとした精神には 沈黙の帷が降りている 壁の二つの針が 胸を突き刺すが 今は動けない人形だ 湿った夜気は ここまで沁みてくる 虚飾を取り去ったら 細い針金のような自分が それでも残っていた 僅かな安堵と自然解 それは美しいはずだった 微かな瞬時の想いは 急に 針に乗って ぐるぐる回り出す 微熱を ずっと 僕は 疑い続けてきた 薄目をすれば 景色は違って見える 両手

路上の落ち葉

背中に吹きつける風が 路上の幾枚かの落ち葉に吹き 落ち葉は 歩く僕を追い抜いていく そして風は 路のところどころで渦を巻き 落ち葉は何抵抗することなく 舞い上げられる 樹の枝を離れ 自由になったはずの落ち葉は 風に舞い上げられ 空へ飛ぶ が 風が止めば 空しく 舞い落ちて 人の波に押し流され もう もとの高い枝には帰れない 今また 予期せぬ雨が 落ち葉の上に降り注ぐ

遊ぶ鳥

地に伏して 地の叫びを聞く ここにあったものがない 私が生まれてからの友人が ここにはいない 幾重にも 折り重ねられた時への 残されたものからの怒りにも似ている 水に溶けきらない陽光が 反射して眼に入る ここにこんな世界があったなんて 何を思い出したのか 身体は妙に身震いし 空に遊ぶ鳥になる 一言の 慰めも     怒りも     叫びも まして 恋唄など ここでは不用のものとなる 悲愴と歓喜の空気の中に 遊ぶ鳥のこころは はかり知れないものがある

逆放射あるいは裸身

高くなった空は冷たい夜を連れてくる 短くなった陽は長い夜を連れてくる どこまでも接点のない空間だ 身体と精神の平衡状態は 奇妙なバランスで保たれていて 記憶の中の映像のようだ 懐かしい記憶は不連続点 秋という時間の交点が夜に現れる 視点を失った身体は軽く 深い時間にゆれながら 不自然な律動が身体に刻まれていく 接点のない空間で 身体と精神は ねじれたパースペクティブを描いた 白い闇から 逆放射される夜気は鎧を突き破り 最後のバランスを取り去った 主体離脱 裸身の

銀陽

冬を愛せし者よ 自己を愛せよ 身を貫き通すほどの冬風よ 我が身に吹きつけよ 見知らぬ広い氷の大地も 砂舞い上がる荒野にも おまえは旅を続ける 私は知っている おまえの身体は寒く冷たいが 心の中は熱いのを さあ立て  そして叫べ 自分の声の 届くところまで進むのだ 冬を愛せし者よ 私はおまえを愛する

贈り物

静寂の夜が訪れた いくつものイメージを ゆっくりと増幅させながら 息づいている個々の心拍が 語り部の深い声のように 閑寂の内に谺する 静かであればあるほど 夜は饒舌なのだった はかない雪のようなイメージは 何かを秘めた うつろな表情で流れて行く インスピレーションのような糸で 断片を縫い合わせてみても 悲しい物語ができあがるだけだろう こんな夜は 思考の術はないのがいい それが最高の優しさというものだ 重々しい時間が 低く身体をかかえて流れて行く いずれは訪れる朝

千年後の望月

昨夜は満月(正確には22日の深夜)でした。 満月は別名「望(もち)」といいます。 21日の京都新聞に興味深い記事が載っていました。 藤原道長の有名な歌 「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の  欠けたることも なしと思へば」 を詠んでから千年だというので。 この歌は「望月の歌」と呼ばれることもある ように時の権勢(実質的に朝廷の最高権力者)を 詠んだ歌として知られています。 https://www.kyoto-np.co.jp/top/article/2018112100

小雪の雨

今日11月22日は二十四節気の「小雪(しょうせつ)」。 立冬の次の二十四節気で、寒さもそれほどは厳しくなく 雪が降っても大したことはない頃という意味です。 とはいうものの、ニュースを見れば北海道はかなりの 初雪が降ったということ。 ここに来て冬らしい様相を見せはじめていますね。 小雪の今日は四国では雨。 細い雨が朝から断続的に降っています。 お昼頃に一旦は日も差してきたのですが、 あまり時間を置かずに雲に隠れてしまいました。 肌寒さが残ります。 ここのところ空気が乾燥してい

好きだまり

夜と昼はつづいている 別ではないひとつの顔だ 夜が恋しいときもある 昼に惚れるときもある 裏と表はつづかない 同じではないふたつの顔だ 裏は表にあこがれを抱いても 表は裏には気持ちを寄せない 時間がにじめば思いは前後する 時間が裂ければ思いは交わらない 感情はあいまいな境でしかなく 好きも嫌いもつづいている 君を憶う時間がにじむほど 時間はかすんで 穏やかにゆるいまま ほっこり こっくり 好きだまりをつつむ 夢も現も境をなくして 投影するものがない幻灯機 嫌いをオブラ

ちいさな祈り

ふかい 深い海から とおい 遠い空から いつも見まもられている 時の流れを 感じさせないような時間が 私を包み込む このわき出る力は だれもが感じる力だ だれもが知っている力だ ふかい 深い海へ とおい 遠い空へ 小さな祈りが集められる

いのち

意識したことはなかった それがあたりまえのように感じて かわいい表情としぐさが いつもぼくを癒してくれた いのちに出会える瞬間 それは かけがえのない時間 いのちに出会える瞬間 それは 弱い自分を感じる時間 生きていることを 素直に実感できる 弱さは敏感さと仲がいい 微妙に変化を感じとる いのちに出会える瞬間 それは かけがえのない時間 いのちに出会える瞬間 それは 強くなりたいと思える時間 あたりまえに思っていたことが あたりまえじゃないことに気づく 理屈を越え

ひだまりに咲く

目の前にぽっと現れた陽だまり まるい日差しが降りてきて 冬の花をつつむ さめた空なのに そこだけ温もりがたまっていて ひとり咲いた花はやわらかい 時にさからうことなく微笑んで わたしを見てうなずいて ココロが温もりをとり戻す わたしが失敗したことも わたしが後悔していることも わたしが行き場を失っていることも あなたは無言で微笑んでくれる 温もりがつつむ陽だまりの中で ひとり日差しと戯れながら あなたはきっと これからも何も言わない わたしの深いところに語りかける

それでも

明けない夜はない なんてよく言うけど ほんとうかな 明けない夜は あるかもしれない 夜が明けてもぼくが いないかもしれない そうだろう? ぼくが眠っている間に 地球が壊れてしまうかも しれないじゃないか 明日は今日よりずっといい なんてこと言うけど ほんとうかな 昨日と変わらない かもしれないじゃないか 今日より悪くなっている ことだってあるだろう 毎日毎日 こんな不安を抱えて 人間は生きている 地球も回っている それでも 生きていけるのは 惰性なんだろうか 宿