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『ヨーロッパ学入門』 Ⅷヨーロッパの思想(清水 誠)

今回は『ヨーロッパ学入門』の2回目「Ⅷヨーロッパの思想」を読んでいく。ヨーロッパ世界において古代ギリシアに始まり、現代のEU世界を形づくる上での思想の底流を知るという意味で、哲学と宗教の関係性がわかりやすく整理されていた。個人的にはかなり苦手分野に入る哲学であったが、中身の理解度合いは置いておいて、整理はかなり進んだ(と思いたい)。

【摘要】
古代におけるヘレニズムとヘブライズムとの遭遇による「思想」の誕生
哲学を含むギリシア思潮は「ヘレニズム」、ユダヤ教・キリスト教思潮は「ヘブライズム」と呼ばれ、その2本がヨーロッパの思想を読み解いていくキーワードとして挙げられる。
紀元前6世紀頃からはじまった宇宙の原理を考える哲学は、自然現象、数字、論理、そしてプラトンによる個々の事物の本性を強調した観念(イデア)とアリストテレスが個々の事物の現実存在性を強調した形相(エイドス)へと発展し、その後の哲学での対立構造となり、ヨーロッパの思想に心理の探求すなわち合理性、科学を付与していった。
そこにユダヤ教から生まれたキリスト教が直線的に進行する歴史的時間の流れの意味を捉える歴史哲学を付与していった。

中世におけるヘレニズムとヘブライズムの綜合
中世ヨーロッパは東西両側からイスラム教によって押し込められており、その中でラテン語という共通学問用語を用いたキリスト教徒同士すなわち宗教も道徳も共通の者同士での議論が1000年に渡って行われたことで、今に通じるヨーロッパという共同体意識が育まれた。
その議論の中心が普遍的な概念であり、個々の事物よりも先に存在する真実在と主張する実念論者(レアリスト)と、実在するのは個々の事物と主張する唯名論者(ノミナリズム)の対立だった。
そこにトマス・アクィナスが『神学大全』により、ヘレニズムの上にヘブライズムを置くという上下関係を構築し、中世においてはこの思想が広く受け入れられていった。

近世以降のヘレニズムとヘブライズムの分裂
もともと対立する概念だったこの2者の綜合の無理が出てきたことによって生まれたのがイタリアで古代ギリシア・ローマの文化が再発見され、古代の天真爛漫さ・感覚的欲望の満足を求める生き方を肯定し、カトリックが中心となって現世的な諸芸術、そして科学技術の発展が現出したルネサンスすなわちヘレニズムと、それに反発してドイツ中心に原始キリスト教に戻ろうとした宗教改革すなわちヘブライズムとが対立していった部分もあるように見える。一方で、科学技術が様々な事実を明らかにしていく中で底流に神の存在を正当化しようとする思索があり、それがデカルトやカントの思想すなわち人間は感覚的に経験可能で主観的な現象界に限られるという認識論すなわち感性的経験が理論的推理に先行する考えにいたり、ヘブライズムからヘレニズムを分離する動きへと繋がっていった。
そうして科学が進歩していく中で、アインシュタインが確立した観察によらない相対性理論は、時間の観念の導入すなわち理性的推理が感性的経験に先行することになったため、認識論を土台から転覆させた。

【わかったこと】
わかった、というほど理解が深まったとは到底言い難いほど、まだ自分の理解は浅いということがわかった。
ただ、その中でもヨーロッパにおいて底流に流れるヘレニズムとヘブライズムの議論の応酬つまりは互いの理論の正当化のし合いが現実の社会における正統性の対立と結びついていったのではないだろうか。日本で言えば「錦の御旗」をどっちにつけるか、という存在がヨーロッパでは中世においてはキリスト教の権威すなわちヘブライズムだったわけだが、もともとがあとから出てきた思想であり、底流にあるヘレニズムと対立的な概念であったため、その矛盾をなんとか正当化するための議論が延々と時代環境の変化の中で形を変えて行われ続けているのではないか、ということを感じた。
これを経済や政治的なパワーの変遷と重ね合わせていくと、その駆け引きの中で正統性を奪い合うための思想対立であったと言えるのではないかと思った。20世紀にはその規模がヨーロッパから拡大し、共産主義と資本主義との対立などのイデオロギー闘争にも通底する対立とも言えるのかもしれない。そう考えると、ソ連が中国に変わっただけで今もこのイデオロギー闘争は続いているわけであり、現実社会の対立は軍事力や経済力で続いている。ただ、これまでと異なるのはこの対立の先には地球社会の破滅があるということを多くの人間が認識できていることだ。そういう意味では新たに正統性を与える思想がいよいよ新たに生まれてくるのかもしれない。(あるいは生まないと破滅するのかもしれない、とも言える)

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