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スタートアップに必要なインハウスエディター(社内編集者)の可能性について考える

どうも、ころくです。今回のnoteは、編集者のキャリアについて書いてみます。

僕は2016年末にナンバーナインという漫画の会社を友人と共同創業しました。今は取締役CXOとして社内外のコミュニケーション全般を引き受けているわけですが、自分のキャリアの源泉をたどると編集者です。

僕が編集者としてのキャリアをスタートさせたのは2011年で、「エンジニアtype」というWebメディアの編集者をしていました。まだオウンドメディアという言葉がなかったころに誕生した媒体で、エンジニアやデジタルをフィールドに活躍するクリエイターへの取材を行って記事を書いたり、特集を企画したりしていました。

2011年頃の東京は、CAMPFIREやメルカリ、MoneyForward、フリークアウト、ラクスルといった今でいうメガベンチャーが誕生した時期で、起業がまさにブームとなっていた時期でもありました。エンジニアtypeでも、そんな起業家やエンジニアたちの取材を通じて毎日のように刺激のシャワーを浴び、僕の人生に大きく影響を与えたことは言うまでもありません。

あれから10年以上が経ち、当時編集者として共にしのぎを削った同世代の友人たちは、今では地方で編集者をやったり、フリーのライターをしたり、メディアを立ち上げたり、編集プロダクションを作ったり、YouTuberになったり、作家になったりと、多様な生き方を実践しています。とても励みになります。

他方で、僕のようにベンチャー企業を立ち上げ、スタートアップ経営者の道を歩む人は多くありませんでした。僕の場合は、起業家たちの未来を見つめる眼差しに強く影響を受けた結果として自ら起業することになったので、特殊といえば特殊です。ですが、起業して6年目を迎え、編集者として培ってきた経験が生きていると感じる瞬間が増えてきたように感じます。

そこで、今回のnoteでは、僕自身のキャリアを振り返りながら、スタートアップの共同創業者として僕がどんな役割を担ってきたのか、どこに編集者としての強みを活かすことができるのかなどについてお話ししてみたいと思っています。

平たく言うと「編集者がベンチャー企業の共同創業者として起業した結果、とても良かった」という話なのですが、それだけだとあくまで個人的な話になってしまうので、「スタートアップにとって社内に編集者(インハウスエディター)を雇うといいことはあるのか」ということについても考えてみたいと思います。

そもそも編集者の仕事ってどんな仕事?

編集者というものは、読んで字の如く「情報を編んで集める」ことを生業としています。

すごく雑に分けると、「おもしろいヒトやモノやコトを見つけ、多くの人に伝える」ことと「ターゲットが求める情報を、適切な形にし、届ける」ことに分けられるのかなと思います。

起業家を殺す10の迷信」というビジネス書を作るのも、『一線こせないカテキョと生徒』という漫画を作るのも、動画コンテンツを作るのも、漫画家向けのイベントを企画するのも、好きな漫画のレビューを書くことも、対象に情報を届けるという意味では「編集」の仕事だと捉えています。

文章、漫画、映像、洋服、器、食べ物と、編集者が生み出すコンテンツはみなさんが思っている以上に多岐にわたります。基本的には、より多くの人に価値のあるコンテンツ(または自分がいいと思ったヒト・モノ・コト)を届けられれば何でもあり、と思ってください。

このシンプルな目的を遂行するために、編集者は企画やコンセプトを設計し、主観と客観両方の視点で物事を見つめ、冷静と情熱のはざまを行き来しながら、魅力あるコンテンツに落とし込む。それが、編集者の仕事です。

元編集者がスタートアップで担っている具体的な役割

ナンバーナインを創業しておよそ5年半。その間色々な変化があり、組織面では代表の小林さんとCOOの荒井くんと僕の3人でスタートした会社が、今では50名近くのメンバーを抱える会社に成長しました。

事業面での大きな変化は、マンガトリガーという漫画アプリの会社から、漫画家さんの持つ作品を電子書籍ストアに配信するデジタル配信サービスを軸とした漫画家のクリエイターエコノミー事業を手掛ける企業としてピボットしました。今年に入ってからは、新規事業としてWEBTOON制作にも挑戦しています。

経営面では、数回にわたって資金調達を行い、昨年末にはINCLUSIVEの資本傘下に入りました。資本傘下に入ったタイミングで新たに約1億円の資金調達を行い、「すべての漫画を、すべての人に。」というMission実現に向け更にドライブを掛けていこうか、という状況です。

そんな中で、これまでやってきた僕の役割を大別すると、①社外に向けた会社のブランディング・PR、②社内向けの組織人事、③編集者としてのコンテンツメイキングの3つに分けられます。

①社外に向けた会社のブランディング・PR

会社が公式的に発信する情報は、すべてCXOである僕が統括しています。

最初に行ったのは、Mission/Vision/Valueの策定でした。そこからプレスリリースを書いたり会社HPのディレクションを行ったり、会社概要資料など、あらゆる情報発信については、僕の責任下で行われています。

最初は特にすべて僕が書いていたのですが、さすがに規模が膨れ上がるとSNS管理やサービスごとのクオリティ管理にまで目を行き届かせることが難しくなります。ボールを持ちすぎて僕自身がボトルネックになってしまうことは避けたいので、最近は少しずつ権限移譲を進めている状況です。

②社内向けの組織人事

この分野では、採用、オンボーディング、人事評価、東京・日南の全メンバーとの1on1などを担当しています。スタートアップは予算が潤沢にあるわけではないので、初期の採用は基本的に会社と社員のSNSをメインにお金を掛けずに頑張っていました。最近は媒体も活用させていただきながら活発に行なっていますが、原理原則としてSNSで積極的に発信していくことをベースにしています。

すごくシンプルに言うと、ずっと「人と向き合う」ようなお仕事になります。

③編集者としてのコンテンツメイキング

比率的には僕の脳内リソースの1-2割程度とかなり低いですが、編集者としての仕事もやってきました。印象に残っている仕事を5つ挙げるとしたら、以下になります。

・ビジネス書「The San Francisco Fallacy -起業家を殺す10の迷信-」出版(担当編集)
・漫画のレビューサイト「東京マンガレビュアーズ」の運営(編集長)
・漫画『一線こせないカテキョと生徒』(地球のお魚ぽんちゃん)をTwitter上で連載(担当編集)
・漫画家向けのオンライントークイベント「漫画家ミライ会議」主催(プロデューサー)
・池田ルイによるエド・シーラン「Bad Habits」日本版MV制作(イラストレーション・プロデューサー)

こうして振り返ってみると、編集者としていろいろ刺激的な仕事をやらせてもらっていますね。

どの仕事も社内においては編集経験がある僕しかできない仕事ではありますが、正直経営者というよりもいちプレーヤーとしての役割が大きいです。「編集者として現場仕事も続けたい」という僕のわがままを許容してくれる経営陣の懐の深さに感謝しています。

いい会社には、「会社を編集する人間」がいる

偉そうに言っていますが、創業当時、僕の役割は曖昧なものだったように記憶しています。CXOという、自分にとってもいまいちピンとこない肩書きに悩んだりもしました(今も悩んでます)。

代表の小林さんもCOOの荒井くんも、「こいつどうしたらええんや」と思っていたに違いありません。何なら、つい最近小林さんの口から「正直初期は小禄さんが機能しているか分からなかった」的なことを直接言われたばかりです。

まぁ、創業したてのスタートアップなんて、役割はあってないようなものです。Mission/Vision/Valueの策定もやるしプレスリリースも書くし営業もするしデータの入稿もするしオフィスのフロアマットを敷いたりもします。

Mission/Vision/Valueの重要性はあらゆる起業家たちが唱えているし異論は一切ありませんが、効果が現れるのはメンバーが増えてからだったりするので初期に価値を見出しづらい。「言語化」は編集者にとって欠かせない技術なのに、即効性がないから困ったものです。

さらに大変なことに、僕は数字はあまり得意ではありません。実際、事業計画をベースとした議論や経営的な目線でものを語れるようになるまでわりと苦労しました。

じゃあ、編集者(僕)はいらないのかと言われると、そうではありません。編集者の経験を活かせると実感したのは、特に②の業務、社内向けコミュニケーション領域に対してです。

CXOの役割として大切なのは、会社が軌道に乗り事業が拡大してきてから。社外へのブランディングがうまくいっても、新しいメンバーが入り事業も複数展開が始まると社内の組織体制にほころびが生じ、様々な人間関係トラブルが各所で勃発してしまいます。

ナンバーナインにおいてそれが比較的少なく抑えられているのは、早期に「言語化のプロ」としての編集者がいたことが関係しているのではないかと考えています。

新しいメンバーには、ナンバーナインが掲げるVision/Mision/Valueがいつどういう背景で生まれ、変遷し、いまに至るのか。それを、事業、人事、経済、業界それぞれの側面から、当時の出来事に感情を載せて物語として語り継ぐ。

既存メンバーには、対話を繰り返して意思疎通を図る。人数が増えて頻繁にできなくなったとしても、意思疎通を図る姿勢は忘れない。代表や会社の目指す目標と個々人のモチベーションにズレがないか。ズレている場合はなぜなのか。意図が伝わっていなければ伝わるまで説明し、目標が誤っていれば素直に受け止め調整を行う。

この二つをCXOである僕が担うことで、小林さんは僕に殿を任せて先頭を突っ走れるし、荒井くんは事業計画実現のブループリントを設計することができる。非常にいいバランスの経営体制を構築できていたのではないかなと思います。

こうして考えた時に、僕はこれまでナンバーナインという会社の担当編集者だったんだなという結論に至りました。

働くメンバー一人ひとりがナンバーナインという作品を育てていくための担い手であり、クリエイターである。そう考えれば、クリエイターをモチベートして質の高いアウトプットを続けられるような環境を提供するのが編集者の役割です。

言語化とか、広報とか、ブランディングとか、コンテンツ制作とか、いろんな関わり方はあるけども、それら一つ一つが集積されて会社という作品に仕上げる仕事は、とてもダイナミズムを感じられるおもしろい仕事ですね。

だからこそ、「会社を編集する」という意識を持って取り組める編集者が増えると嬉しいなぁと、今では思います。

起業は登山にも似ている

起業というのは登山に似ています。起業して3年か4年が経ったころに、ふと思いました。

登頂すべき山を決定し、ルートを定め、ゴールを目指す。高い山を目指すのは誰でもできるけど、実力がなければ途中下山を余儀なくされる。高ければ高いほど山頂への道は険しくなるし、正常な判断力がなければ絶対に登れない。

どれだけ実力があっても、天候という運ゲー的な要素が加わることで登頂の難易度が急激に上がることもある。そして、一つの山をようやく登ったと思ったら、次から次に高い山が見え、また登りたくなるーー。

しかもおもしろいことに、普通に生きていれば別に山を登る必要はないんです。でも、登っちゃうし、登り終えたら次の山を目指し始める。僕の理解する起業は、だいたいこんな感じです。

起業という山登りに大切なのは、登るべき山(WHAT)を見つけ、ゴールまでの適切なルート(HOW)を設計し、チームで登り切ること(ACHIEVEMENT)の3つです。イニシャルを取ったらWHA。なんとなく、ビジネス書に出てきそうな言葉になりました。

どれか一つでも掛けると失敗する。できたとしても、再現性や継続性がないので一回限りで終わってしまいます。

これをナンバーナインに置き換えた時に、「あの山を登るぞ!」と会社のMissionを声高に叫ぶ代表の小林さんがいて、「このルートで登ろう」と道筋を立てるCOOの荒井くんがいます。この2人がいなかったら、そもそも登るべき山も、登頂ルートも見つかっていません。

少数精鋭のチームで、一度限りの登頂ならこの二人がいれば十分登頂できますが、スタートアップは登るべき山が大きくなればばるほど人数が増え、道は険しくなり、役割も多様化します。

そうなった時に、チームの練度とモチベーションを高める役割が非常に重要になってくるのです。それがまさに、僕がCXOとして担っているところなのかなと、最近になって気づきました。

結論として、スタートアップは編集者を入れるべきか

さて、ここまで僕の経験を色々と書かせていただきました。僕自身の話でいうと、冒頭にも書いたとおり、起業は自分のキャリアにとってメリットしかありません。

もちろん、紆余曲折ありつつも会社が軌道に乗りエキサイティングな挑戦を続けられているからということもあるでしょうが、それを差し置いても、編集者から起業家へのステップはやってよかったしおすすめしたいと思っています。

ただ、これまで触れていなかった落とし穴があります。

ここからは、僕の周りにいる編集者の友人たちを見た上での独断と偏見で編集者の扱いづらさを挙げてみます。

この部分、あくまで僕の独断と偏見の意見なので、あまり議論するレベルのことでもない内容となっています。変なバイアスがかからないように、有料とさせていただきます。伝えたいことはほぼここまでで伝えられているので、ここからは興味のある方だけ冷やかし程度に覗いてください。

その前に…ナンバーナインでは、大絶賛一緒に働くメンバーを募集中です!漫画に敬意を表し、野心を持ったナイスパーソンと出会えることを楽しみにしております。

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