見出し画像

本当に、価値があるものとは…。祖母と孫の、ひと夏の物語。

2021/6/29 読書記録no.42「西の魔女が死んだ」

読む前は、タイトルからして何かファンタジーな要素が詰まっている本なんだろうなって思っていました。私は、表紙に惹かれて買う、所謂“ジャケ買い”をすることが多いのですが、この本の表紙からは何も汲み取れなかったです。これが何を表しているのか、一つ一つのイラストにどんな意味が込められているのか知りたくなって、手に取りました。

私の想像していた物語じゃなかったです。ファンタジー要素は全くなかった。自然に溢れた生活に寄り添って生きるお婆ちゃんと、そのお孫さんの物語。人として、生きることに対して、大切なことを教えてもらったような、そんな本でした。

今日は、こちらの本について書いていきたいと思います。


あらすじ

中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変わるひと月あまりを、西の魔女のもので過ごした。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなお婆ちゃんから、まいは魔女の手ほどきわや受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。


印象的な言葉

p35「人の運命って、いろんな伏線で織りなされていくものなんでしょうね」
p50「おばあちゃんは、誰はばかることなく、身内を褒めるところがあった。そして、自分がそれを誇りにしていると、まるで植物に水を遣るかのように、さりげなく伝えるところも」
P57「人の注目を集めることは、その人を幸福にするでしょうか。何が幸せってことは、その人によって違いますね。あなたも、何があなたを幸せにするのか、探していかなければなりませんね」
p67「精神力というのは、正しい方向をきちんとキャッチするアンテナをしっかり立てて、身体と心がそれをしっかり受け止めるっていう感じ」
p70「悪魔を防ぐためにも、魔女になるためにも、1番大切なことは、意志の力。自分で決める力。自分で決めたことをやり遂げる力です。その力が強くなれば、悪魔もそう簡単には取り付きませんよ。
p73「ありがたいことに、生まれつき意志の力が弱くても少しずつ強くなれます。少しずつ時間をかけて、だんだん強くしていけばね。生まれつき体力がない人でも、そうやって体力をつけていくようにね。最初は何も変わらないように思えます。そして、だんだんに疑いの心や、怠け心、諦め、投げやりな気持ちが出てきます。それに打ち勝って、ただ黙々と続けるのです。そうして、もう永久に何も変わらないんじゃないかと思われる頃、ようやく以前の自分とは違う自分を発見するような出来事が起こるでしょう。そしてまた努力を続ける。退屈な日々の連続で、またある日突然、今までの自分とは更に違う自分を見ることになる。それの繰り返しです。
p86「息を潜めて開いた。この幸運が逃げて行かないように」
p116「人には魂っていうものがあると思っています。人は、身体と魂が合わさってできています。死ぬ、ということはずっと身体に縛られていた魂が身体から離れて、自由になることだと思っています」
p138「魔女は、自分の直感を大事にしなければなりません。でも、その直感に取り憑かれてはいけません。そうなると、もう、激しい思い込み、妄想となって、その人自身を支配してしまうのです。直感は直感として、心のどこかにしまっておきなさい。そのうち、何が真実であるかどうか、分かる時が来るでしょう」


ページを閉じて。

本の最後に、早川さんという方が解説を書いてくださっているのですが、そこにまとめられていた文章を紹介いたします。

[魔女修行]その人の持つ素質を伸ばす。自分で考え、自分で決める→本来の人らしい人になるということ
本当に価値のあるものは何であるのか。今、現実に私たちのいる社会が求めた答えの一つが此処にあり、書かれるべくして、書かれた物語のように思えてなりません。

最初の方は、「魔女修行って、なんだ?」って思っていましたが、読み進めていくうちに段々と分かってきました。


こんな忙しい日々に生きているから私たちだからこそ、見えなくなってしまうもの、見失ってしまうもの、またそういう感情があると思います。そして、そういうものとは逆に、自分が欲していない要らない情報や居心地が悪い人間関係によって無駄な感情が生まれたりするのも事実です。

「魔女修行」とは、そういう色んなものが絡み合う社会からちょっと距離をあえて置くことで、主人公まいの視界が広くなっていく、そんな様子が描かれていると思いました。


なんといっても、魔女であるお婆ちゃんの生活が本当に素敵なんです。自然や緑に溢れて日の光が優しく降り注ぐ豊かな場所で暮らし、様々な昔ながらの知恵を活かして、日々のちょっとした変化を楽しみながら一日一日を大切に暮らしている姿。

そして、言葉もどれも素晴らしい。上にまとめている「印象的な言葉」は、ほぼお婆ちゃんの言葉です。

一番最後、魔女は亡くなるのですが、最後に残した言葉が何ともチャーミングで、最後の最後まで素敵な方だなと思いました。

画像1

意思を持つこと、周りに揺られず何でも自分で決める事、その決めたことに対して何がなんでもやり遂げること、私もその強さを持ちたい。

いつまでも、読み継がれて欲しい名作だと思いました。

色んな人にオススメしたい一冊です。


おりょう☺︎

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,460件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?