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note de 小説「時間旅行者レポート」その9


Zeitmeschine

天空にまでそびえたつ
巨大な建造物をボクは
ただ見上げていた。

あまりの大きさに
その全貌を見切ることが
出来なかったが

どうやら
頂上付近には
膨大なエネルギーを
集めるであろう
大きなアンテナが
何本も突き出ている。



それにしても。
それにしても、だ。

ボクは今まで
精肉店裏側から
階段を降りていたはず。

なのにどうして?
いきなりここに
移動できたというのか。

上を見上げながら
キツネにつままれている
ボクがいた。


ーーーーーーーーーー


「君は瞬間移動しました
Dr.オリバー」

空を見上げるボクに
白髪の老人が
歩み寄ってきた。

「あなたと08が体験したのは
まさに瞬間移動。

まだ試作段階であり
わがDimentionz社の
次なる新製品なんですよ。

わたしは
ハーバー博士という。

この研究所の所長をしている。
お会いできてうれしい。

ようこそ当研究所へ!


Zeitmeschineは大きいだろう
驚いたかね?
どうだい?」


ボクはうなずいた。

「あなたがハーバー博士。

お名前は存じております。
科学誌であなたの名前を見ない
事はない。

まさか本当にお会いできるなんて・・」


「偶然を疑ってはいけない。
そして常識に囚われすぎても
いけない。

すべては必然。

君と同伴していた
08から話は少しだけ
聞いていよう。

君がここにいるということは
1+1の模範解答を
したことになる。

そうだね」


ぼくはうなずいた。

「答えは無限にある。

そしていままで教え込まれた
常識や正義は権力者の都合のいい
ように施された教育で見事に
細工されている。

分かるかね?


このあと君は
時間旅行に旅立つ。

そこでだ!
君に伝えておきたい
Dr.オリバー。


東洋のことわざで
「覆水盆に返らず」
という言葉があるね。

こぼれてしまった水を
嘆いても無駄だ、という
意味なのだが

これは私には滑稽でならない。


つまり、こぼれた水は

盆に返るのだよ


ボクは目を見開いた。
この場の、このタイミングで
博士の言わんとしていることが
確かに理解できたからだ。

「つまり・・

つまりですよ。
博士がおっしゃったことは
つまり・・」

「そう。

時間はさかのぼることが
それすなわち

可能なのだよ。


君や君たちは

「過去➡現在➡未来」
に時間が流れると
教えられているだろう?

だから何も疑うことなく
「過去➡現在➡未来」

だけが時間の流れだと
思い込んではいないかい?

実は違うのだよ。
実は存在する。

「現在➡過去 未来➡現在」
つまり未来から過去まですべての
時間旅行は可能なのだ」


ボクの瞳孔が開いていたのでは
ないだろうか。

この世界的権威の個人講義を
余すところなく聞くことが出来た
幸運だけではなく

その世界的権威から
教わったことそのすべてが
幼児ですら理解できる
「馬鹿げたはなし」
なのだから、だ。

「Dr.オリバー。

こぼれた水は戻すことができる。
何度も言おう。

運動方程式上では
コップから水をこぼす動きも
水をコップに戻す動きも
ただベクトルの方向を変えるだけで
可能なのだ。

ところが現実世界においては
こぼれた水が勝手にコップに
戻る現象を確認されない。

これは恐怖ではない。
物理学的には可能なのだ。

むしろ時間が
「過去➡現在➡未来」
にしか流れていないことが
我々物理学者は不思議だ、と
考えているのだよ。


『どうしてこんな不思議な
現実世界なのか、』とね。

理由は簡単なのだ。


時間の流れの正しさを
強く信じ込まされて
いるから
だよ。

かたくなにひとつの方向
だけを強く信じているのだ

正しさを捨てたまえ。
すべての常識を
捨てたまえよ。


そうすることによって
「過去➡現在➡未来」
ではなく

「未来↔️現在↔️過去」
の時間旅行が可能になったのだ

じつはこれは誰にでも出来る
ことなのだよ。


我らが天才アインシュタイン


『時間は幻想である』


と言った。

彼はエジソン同様
学校で教わった正しさを疑い
自分の頭脳で運動方程式を解く
ことで

この境地にたどり着いたのだ。

むしろタイムマシンがないことが
おかしかったのだ」

引用文 悪魔とのおしゃべり 著者 さとうみつろう 


ボクは思う。
その境地に達することは
おそらく一般人では
無理だろう。

そして
ハーバー博士は
22世紀の現在に
この境地を極め

科学技術の力を使い
Zeitmaschine
開発したのだ。

ボクは聞いてみた。
恐るおそると
聞いてみた。

3年まえの自分と
はなしが出来るかどうか
聞いてみた。

すると

「うん、いい質問だね。

だが、答えはNein だ。

君が君に会うことは
できない。

つまり君が存在する
過去、21年前以内と
現在と
未来の残りの人生以内には
いけないのだ。

よって
5分前には
いくことはできない 」

なぜかを説明するのは
また日を改めよう、と
バーバー教授は
おっしゃった。

「それを説明するに
あたって、少し時間旅行の
経験をしてもらいたい。

さすれば私が説明するには
及ばなくなる。
君が一人でその解を
得るだろう。


さて。


出発は明日だ。
私はこれで失礼するがね。


あとは08が君に
出発までのレクチャーを
してくれるだろう。

しっかり頭に
叩き込んでおきたまえ」


ボクにそう告げると
ハーバー教授は多くの
研究者たちのなかに
消えていった。


ーーーーーーーーーーー


やがて
08がやって来た。

「Herr.オリバー。

博士とのおはなしが済んだ
ようですね。

出発は明日の未明。
03:00です。

Drei Uhr(3時)に
あなたは現在には
存在しなくなる。

つまり死人だ。

よってここにサインを」


とぶっきらぼうに
スマート時計から空間に写し出された
内容を見た。


これには背筋が凍りついた。

ここには

被験者死亡
(つまり時間旅行者が行方不明)
の際、当研究所の責任の
一切を放棄するもの

その際、遺族補償が
年金形式で支給されるもの也


と書かれている。


ボクはナメていた。
それは否定できない。

ボクは改めて
恐怖を覚えた。

だがもう遅い。

ボクは震える手で
スマート時計に
表示された書面に
サインをした。

Zeitmaschineのノイズが
けたたましく電子音を放つ

薄暗くだだっ広い
研究所がより一層の
絶望感をかもし出したのだ。


ーーーーーーーーーーー

続きます。



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