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まなかい ローカル72候マラソン

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まなかい… 行きかいの風景を24節気72候を手すりに 放してしるべとします。                                        万葉集        …
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2020年10月の記事一覧

寒露:第51候・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

寒露:第51候・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

晩秋ともなると、夜にあれほど鳴いていた虫たちの声が減る。

蟋蟀戸にあり、

虫の数が減って、合唱だった歌が独唱となり、その歌が侘しくさせるのだろう。

秋も、彼らの生も残り僅か。

離れていくから名残惜しい。

恋情は燃えるが、それを振り払って、引き剥がして生きていく。

「あき」はそうやって「あきらめていく」とき。「飽きる」も語源だともされるが、いずれにしても距離が「空いて」いく。

自分の何

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寒露:第50候・菊花開(きくのはなひらく)

寒露:第50候・菊花開(きくのはなひらく)

菊は寒空に開く。

小さな太陽のように。

デイズ・アイ。甘苦い香り。

実に晩秋から冬至まで、太陽は無数の菊に宿るのだ。だいたい冬至まで役割を果たしたら、今度は蜜柑や檸檬や、橙に宿るのだ、それが順番というものだ。

ミタマノフユの冬至までますます太陽の力が弱まる間、菊は咲く。寒い露に濡れそぼりながら、木枯らしに耐えてなお、芒や女郎花や、竜胆と競い、咲き続ける。

菊の花は、括られた花。括られたた

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寒露:第49候・鴻雁来(こうがんきたる)

寒露:第49候・鴻雁来(こうがんきたる)

鶴や白鳥や雁が、弓なりの列島に渡ってくる。

この都市ではニュースでしか見ないけれど。

白く大きな翼を持つものたちよ。

V字で飛行を続けるものたちよ。

羽毛のような雲を見て、その不在を紛らわす。

燕は南に帰った。青光る翼で。風を切って、波を躱して。

入れ替わるように北から優雅に使者たちがやってくる。

これが天使でなくて何だろう。

廻る地球の、凍てつく北方からの魂の飛来。

 彼らの

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秋分;第48候・水始涸(みずはじめてかる)

秋分;第48候・水始涸(みずはじめてかる)

涸れるは枯れる、渇れる、嗄れると通じて、それは水分が抜けていき、いのちが離(か)れる、そうやって水分が抜けると軽くなる、空になって、虚ろと成って、仮の場になるということ。

花を生ける日々はありがたいことに、その感触を手に取ることができる。

ありったけの水分は実に閉じ込め、あとは色づくばかりの木瓜。棘のある枝の素型(すがた)を。紅葉した錦木。割れて顔を出す赤い実。日が短くなり、光合成するクロロフ

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秋分;第47候・蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)

秋分;第47候・蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)

母の住む信州上田の市街地の一室から虹が見えた。

朝霧が太郎山方向から降りてきて街を覆うころ、雲の切れ間から射し込んだ日光がこの虹を見せてくれた。写真は一緒にこのエアビーに泊まった息子が撮ったもの。仕事で来ていた僕は一足早くこの部屋を離れたが、出る前にもっとうっすらとした虹が見えていた。わずかな長さの。虹の欠片のようで、とても淡かった。

子供が見たこの虹は、部屋からアーチ全体が見えたというからと

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