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ウマ娘小説まとめ

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真面目に書いた側のウマ娘小説一覧です
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記事一覧

『Report:その脚は壊れる運命にあるとして』(ウマ娘)

 ウマ娘の持つ力の限界は、親だけで決まると言っても過言ではない。血筋、因子、才能。そこには努力では越えられない壁が明確に存在する。
 長距離を苦手とするウマ娘がいれば、短距離だけは無理だと話すウマ娘もいるように、誰もが何かしらを欠かした状態で生きていく。

 そして私に欠けていたのは、「脚の強度」だった。

 両親が私に興味を失い放任主義と化したのは、私が初めて脚の痛みを訴えた、あのときからであ

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『壊れた親友をマンハッタンカフェが救い出すまでの話』(ウマ娘)

 それは菊花賞の最中のこと。

 私の前を走るアグネスタキオンが、突如壊れた玩具のように膝から崩れ落ちた。あまりにも唐突で、何が起きたのかを理解できなかった。
 その悲惨な転倒はレースの熱気を一瞬で奪い取り、観客全てを凍り付かせる。勢いよく芝を転がるアグネスタキオンを見て、私は何故か試験管が砕け散る瞬間を幻視した。

 彼女の身に何が起きたのかは今でも分からないし、何が原因だったのかも分からない。

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『そのカプセルの名は絶望薬』(ウマ娘)

 はて、とアグネスタキオンは首を傾げる。『研究には犠牲がつきものだよ』だなんて偉そうに口にしたのは、果たしていつの話だったか。
 確かカフェにそんな話をしたようなしていないような……と、彼女の思考はふらふら泳ぐが、しかしそれは断言出来るほど明瞭な記憶ではない。そして加えて言えば、今のアグネスタキオンは何かを断言出来るような精神状態でもなかった。

――目の前で、一人の人間が倒れている。

 それは

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『シンボリルドルフに告白したけど断られたトレーナーは、仕方ないので〇〇することにしました』(ウマ娘)

 勝ちたい、ではない。勝たねばならないのだ。
 私に課せられる責務は「勝つこと」ではなく、「どのように勝つか」だった。

――唯一抜きん出て並ぶ者なし。

 故にライバルなど不要と私は断ずる。ただひたすらに前へと進み、己自身を超え続けるのが正しいのだと、他ならぬ私だけは知っていた。
 血反吐を吐けば吐く程に、私の心は穏やかに澄み渡る。口から溢れた体液が芝を濡らす度に、私は安堵した。

 シンボリル

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『ゴールドシップが死んだあと、彼女が生前に書き記した「財宝の地図」を見つけた。それが示す先には何があるのだろう』(ウマ娘)

 ウマ娘の寿命が25年から30年と言われる中で、ゴールドシップはそれなりに長生きした方ではないかとトレーナーは思う。死に際ですら、「アタシと過ごせて楽しかったろ?」なんて図々しく口にするのだから、ゴルシは最期までゴルシだったと胸を張って語りたい。

 当時見知ったウマ娘のほとんどが姿を消した頃、トレーナーは今の仕事を辞める決意をした。周囲の人間に引き止められはしたが、最初に担当したゴールドシップが

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『トレーナーの為に自分の脚をぶち壊すアグネスタキオンの話』(ウマ娘)

 全力で駆けるウマ娘の速度は時速七十kmに至る。それは公道を走る車よりも遥かに速く、そして衝突した際のダメージに関して言えば車以上だと言えた。
 なにせ車とは違いウマ娘という人型の高速物には、ぶつかることを考慮したセーフティが存在しないのだ。故に辿る悲劇は全身骨折、或いは即死。それがこの世界の常識だった。
 だからこそ道路にはウマ娘専用の走行レーンが用意され、また「走るウマ娘の前には決して立つな」

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『幼児化したアグネスタキオンが行く、トレーナー探しの旅 inトレセン学園』(ウマ娘)

 はて。密室に閉じ込められた経験がある、という人間はこの世にどれくらい居るのだろう。
 誘拐やイジメに虐待と、閉じ込めるに足る理由は様々思い付くが、しかし己の経験として「閉じ込められたことがあるぞ」と語れる人物はそう多くないのでは、と、この私――アグネスタキオンは考える。

「ふぅン、どうしたものかな」

 だが現実として私の目の前にあるのは、行く手を阻む”巨大なドア”。世間一般ではこのドアを巨大

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『ライスシャワーの選択肢』(ウマ娘)

 どうしてライスは不幸なのかなぁ、と。
 何度目かも分からない自問を、一人ぽつりと呟いた。

 菊花賞にてミホノブルボンを打ち倒したライスシャワーは、誰に声を掛けられるでもなく、誰に褒められることもなく、一人静かに学園へと戻る。
 そして「敗者が悔しさを叫ぶ場所」に使われるという、中心部を切り抜かれた切り株の上に座り、ぼうっと空を眺めていた。

 雲一つない夜空には三日月が浮かび、辺りを明るく照ら

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