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僕らの時代のジェンダー ①

ジェンダー、という言葉、ご存じですか?

ジェンダーとは社会的な性別の事を意味します。

 性別には「生物学的な性」と「社会的な性」の2種類が存在してます。生物学的な性は、男性はXY染色体をもち、女性はXX染色体をもっている、男性は男性性器を持ち、女性は女性性器を持っているなどなどの生物学的に分類できる性別の事を言います。

 一方社会的な性は、人々の社会的、文化的に創り出される性の事を指します。例えば、「女らしさ」「男らしさ」のようなものがこれに当たります。

 もしあなたが道端で、ピンク色の手袋と青色の手袋を拾ったとします。持ち主として名乗りでた人が2人いて、片方は女の子で片方は男の子です。あなたはどちらの子にどちらの手袋を渡すでしょうか?おそらく多くの人がピンク色の手袋を女の子に、青色の手袋を男の子に渡そうとするのではないでしょうか?

 でも、これってなぜでしょう?なぜ私たちはとっさにピンク色を女の子のものと判断し、青色を男の子のものと判断するのでしょうか。この判断の背景にあるのが、社会的な性「ジェンダー」です。

 今、ジェンダーの在り方は多様化してきています。また今までの時代に、社会の中で作り上げられてきたジェンダー感覚が問題になることも増えてきました。

 11月のカラフルデモクラシーでは、僕たちがこれから生きていく時代のジェンダーをテーマに話をしました。

ジェンダーは生物学的性と関係がないのか?

 ジェンダーは、本当に社会的に作り出されたものなのでしょうか?生物学的な性別の特徴から自然と生まれてしまうものではないのでしょうか? 

 ジェンダーが社会的に作り出されたものであることを示すこんな研究があります。アメリカ出身の文化人類学者マーガレット・ミードはニューギニア地域の研究の中でこんな発見をしました。彼女が研究対象にした社会集団のなかから、アラペシュ族、ムンドグモル族、チャンブリ族という比較的近くに居住していた三つの部族についてみてみましょう。
 ミードによると、アラペシュ族は男性も女性も、欧米的価値観の下で育った彼女から見ると「女性的」で優しい気質を持っており、逆にムンドグモル族の場合は男性も女性も「男性的」で攻撃的でした。さらにチャンブリ族では男たちは繊細で臆病で衣装に関心が高く、絵や彫刻などを好むのに対して、女たちは頑強で管理的役割を果たし、漁をして獲物を獲得するなどといった「男性的」な役割を果たしているというのです。おまけにチャンブリ族では女性は授乳時以外の子供との接触が少なく、一歳児以後は子育ては主に男性が担うのだそうです。


 この研究からも分かるように、「男らしさ」「女らしさ」というものは必ずしも生物学的なものではなく、社会的、文化的に生み出される側面が強いのです。


 さらに言えば生物学的な性「セックス」も必ずしも二分できるものではなありません。一般に男性はXY染色体、女性はXX染色体をもっているといわれますが、少数ではあるものの、XYYと通常より多くY染色体を持っている男性もいれば、XXXとX染色体を通常より多く持っている女性もいます。また外見的な特徴から言っても、最近ではインターセックスと呼ばれる、男性性器女性性器双方を持った人の存在は古代から存在していたことが確認できます。
 さらに言えば、人によって男性ホルモン、女性ホルモンのバランスも多様です。このように考えると生物学的性別さえも、男と女に二分することはできず、染色体、生殖器、ホルモンといった要素からみて、両極端の間のどこかに属する、ということになるのです。

 一方で、男性と女性の思考の仕方の傾向の違いには、脳の仕組みが絡んでいることを示す実験もあります。

 言語機能についての研究で、女性は脳の両半球を比較的均等に使い、男性はより強く左脳に側性化(ある機能に脳の片側を使う。)しているというものがあります。2013年には脳梁(左右の脳をつなぐ神経線維の束)が男性より女性の方が多いこと、また半球内の繊維連絡はその逆であることがわかりました。この性差は13歳ごろまではあまり目立たないものの、14~17歳ごろになると顕著になってくるのだそうです。
 この差がどのように行動に影響を及ぼすのかについて学者は「全体的に男性の脳は知覚と協調運動の結合を促進するように構造化されており、女性は分析的と直感的処理に間の連絡を促進するようにデザインされている」と結論付けています。

 しかしさらに、この思考パターンの変化を育つ環境の違いによって説明したこんな研究もあります。

 ナンシー・チョドロウは幼児体験から性別による思考パターンの違いが生まれる、という説を唱えました。
 チョドロウによると男子は多くの場合(近代産業社会成立以後の子育てを担うのが主に母親であるという社会において)、主に彼らを育てる母親との関係で、当初は身近な存在である母親と一体となりたいという願望を持ちます。しかし、男女の性差が強調される社会において、女である母親は「あなたは男であり、女性である私とは異なる。」という対応を取りやすいといいます。このことにより男の子は女の子に比べて母親からの精神的な分離が早い段階から要求される傾向にあるのです。子供にとって最も重要な他者である母親から切り離されるという経験は不安を呼び起こし、その不安から自分を取り巻く外部と距離を取りたがる傾向(客観性の重視)が強くなり、また不安ゆえに自分の周りの人やモノを支配しコントロールしようという気持ちが強くなるのではないか、とチョドロウは考察しています。このことからクールで冷静な男、他者との感情的な共感能力において女性に劣る「男らしさ」の意識が作り上げられるというのです。


 一方女子の場合、男子と比べて同じ性である母親に育てられるため、幼児期を通して母親と緊密な関係性を維持し続けます。母親との断絶が男子に比べて遅くなる女子の場合は、他者との連続性や共感能力を持ちやすいのです。しかし、同時に母親への依存の傾向を維持しやすいため、他者への(最初は母への、成人後はパートナーへの)依存の傾向が強くなるというのです。


 この説明が成り立つとするのであれば、家族の形や子育ての形態が多様化する現代においては、かつて二分されていた男性性、女性性が変化してきていると考えることもできるのではないでしょうか?

ジェンダーギャップ指数

 ジェンダーギャップ指数とは世界経済フォーラム(WEF)が発表する各国の性差によって生まれる差を指数化したものです。経済、教育、政治、保険などの分野でそれぞれ計測されます。日本は最新の調査によると153ヶ国中121位です。(順位が高いほうがジェンダーギャップが少ない。)
 保険、教育分野においては1位ととても高い順位を維持していますが、政治、経済分野においては順位がともに100位以下となっています。

 この背景にあるのは性別役割分業的な意識です。代表的なのは「女は家庭、男は仕事」という考え方ですね。

 この性別役割分業は狩猟採集の時代からあったと考えがちですが、研究により近代産業社会成立以後に作られたものであることが分かっています。

 狩猟採集生活をしていた人間の仕事は、単純に生きる糧を得ることです。男性は外で狩りをして食料を得ており、女性は家で家事をこなしていた、というイメージがありますが、実際には当時の男性による食糧自給率は20~30%であったことが分かっています。もちろん、肉は重要な栄養源であり、必要不可欠なものではありますが、残りの70~80%の食料を得るための労働力は女性や子供だったのです。

 この時代、現代の「女は家庭、男は仕事」というような家庭内と家庭外の分離があまりはっきりしていなかったことがわかります。この傾向はそのあとの時代も続きます。

 これがはっきりと内外で分離したのは、近代産業社会の成立により今まで家庭や地域内で回っていた生産、消費、教育などの生活の諸側面が外に出たことによるものだと考えられています。

 このことにより、工場労働と女性の持つ生物学的な能力(子供を産むこと)のバッティングが起こってしまいます。工場労働は肉体労働なうえに、継続的に同じものを作ることが要求され、そのためには、子供を産むことで仕事が中断される女性労働者よりも男性労働者の方がよい、と考えられたのです。ここから、女性たちの仕事は長時間外で働いてきた男たちの世話と、引退した老人の世話、子供の世話などになり、はっきりとした「女は家庭、男は仕事」という考え方が生まれていくのです。

 しかし、男性のみが社会を動かしていたかというと、そんなことはありません。女性の家庭内労働は社会の重要な下支えでした。性別役割分業の問題点が大きく注目された1980年のILO(国際労働機関)の調査によると、家庭内労働も労働に含めて計算すると、世界の労働の3分の2が女性によって担われていたことがわかります。しかし、賃金の入らない家庭内労働よりも、賃金のもらえる公的な労働の方が価値が見いだされやすく、女性の地位は低下し、男性が優位な社会になっていました。(社会の中の労働の3分の2を担っていた女性が得ていた賃金は、世界で払われていた賃金の5%にしかすぎませんでした。)

 今、肉体労働よりもサービス業が増加するなど、職業のジェンダーレス化が進んでいます。それなにもかかわらず、依然として性別役割分業的な意識は社会の中に残っています。

 私たちが生きていくこれからの時代の社会的な性、ジェンダーはどうなっていくのでしょうか?どうなっていくべきなのでしょうか?

                Colorful democracy  松浦 薫

参考資料

女性学・男性学 ~ ジェンダー論入門 ~ 

伊藤 公雄・樹村みのり・國信潤子 著

これからの男の子たちへ

太田啓子 著

杏林医会誌49巻1号 ~ 生物学的に見た男女差 ~ 大木紫 著

朝日新聞社 35のデータでしる日本の男女格差

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