2020年 観て考えた映画たち
気づけばもう12月。今年もあとほんの少しで終わってしまいます。この一年を思い返してみると、新型コロナウイルスの影響で沢山の事ができなくなったり、いつものようにできなくなってしまったりしました。でも思い返してみるとこんな時だからこそできたことも沢山あるように思います。
僕は今年、映画をたくさん見ました。その中から、すこーし社会的なことを含んだ、考えさせられる映画をご紹介します!
ジェンダーを考える映画
1.「his 」 ~ 今泉力哉 監督 ~
今年のまだコロナがあまり騒ぎになっていなかった1月に観た映画。男性同士のカップルを主人公にした映画です。
春休みに江の島を訪れた男子高校生・井川迅と、湘南で高校に通う日比野渚。二人の間に芽生えた友情は、やがて愛へと発展し、お互いの気持ちを確かめ合っていく。しかし、迅の大学卒業を控えた頃、渚は「一緒にいても将来が見えない」と突如別れを告げる。
出会いから13年後、迅は周囲にゲイだと知られることを恐れ、ひっそりと一人で田舎暮らしを送っていた。そこに、6歳の娘・空を連れた渚が突然現れる。「しばらくの間、居候させて欲しい」と言う渚に戸惑いを隠せない迅だったが、いつしか空も懐き、周囲の人々も三人を受け入れていく。そんな中、渚は妻・玲奈との間で離婚と親権の協議をしていることを迅に打ち明ける。ある日、玲奈が空を東京に連れて戻してしまう。落ち込む渚に対して、迅は「渚と空ちゃんと三人で一緒に暮らしたい」と気持ちを伝える。しかし、離婚調停が進んでいく中で、迅たちは、玲奈の弁護士や裁判官から心ない言葉を浴びせられ、自分たちを取り巻く環境に改めて向き合うことになっていく――。
公式HPより引用
映画全体は優しく包み込むような雰囲気で進んでいきますが、まだまだ残るマイノリティーの生きづらさをきちんと描いている映画だと思いました。妙に美化された物語ではなく、現実にもこんな風に悩み、生きている人がいるかもしれないなということが実感できる映画だと思います。
それでも、男とか女とか関係なく、人を好きになるって素敵なことだな、誰かと一緒に生きていけるっていうのは素敵なことだなとしみじみ感じました。
舞台になっている田舎の町の空気感も僕は大好きでした!おすすめ!!
カラフルデモクラシーでは7月の回でLGBTについてみんなで考えました。良ければこちらも読んでくださいね!
2.私はロランス ~ グザヴィエ・ドラン監督 ~
LGBT関連だと「私はロランス」という映画も観ました。トランスジェンダーのロランスとその恋人を描いた映画です。少し硬派で難解な感じもしましたが面白かったですよ。確か3時間くらいある大作なので見るのには少し時間が必要です!
3.「82年生まれ、キム・ジヨン」 ~ キム・ドヨン監督 ~
こちらは最近話題になった映画ですね。韓国の映画ですが、きっと日本にも存在する「男」「女」という社会の中の壁。幸いにも自分は強く感じていないけれど、無意識のうちに「男だから、女だから」という考え方に基づいて誰かを傷つけてはいないだろうかと考えさせられる映画でした。
結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかしデヒョンの悩みは深刻だった。妻は、最近まるで他人が乗り移ったような言動をとるのだ。ある日は夫の実家で自身の母親になり文句を言う。「正月くらいジヨンを私の元に帰してくださいよ」。ある日はすでに亡くなっている夫と共通の友人になり、夫にアドバイスをする。「体が楽になっても気持ちが焦る時期よ。お疲れ様って言ってあげて」。ある日は祖母になり母親に語りかける。「ジヨンは大丈夫。お前が強い娘に育てただろう」――その時の記憶はすっぽりと抜け落ちている妻に、デヒョンは傷つけるのが怖くて真実を告げられず、ひとり精神科医に相談に行くが・・・。
公式HPより引用
女性たちからの共感や称賛の声が寄せられているようですが、僕は男性にも見てほしいと思いました。普段意識はしていないけれど、今までの社会の構造の中で生まれながらにして社会的な強者の立場にいる男性は、自然と自分たちの方が優位であるという考え方がインプットされていないかどうか、常に自分の事をチェックしなければならんな、と思った次第です。
ジェンダーについてもカラフルデモクラシーで話題にしました。良かったらこちらの記事も読んでくださいね。
戦争を考える
戦争という私たちが幸いにも普段身近に感じることがないテーマについても、考えさせられる映画もたくさん見ました。
1.「ラッカは静かに虐殺されている」~ マシュー・ハイネマン監督 ~
戦後史上最悪の人道危機と言われるシリア内戦。2014年6月、その内戦において過激思想と武力で勢力を拡大する「イスラム国」(IS)がシリア北部の街ラッカを制圧した。かつて「ユーフラテス川の花嫁」と呼ばれるほど美しかった街はISの首都とされ一変する。爆撃で廃墟と化した街では残忍な公開処刑が繰り返され、市民は常に死の恐怖と隣り合わせの生活を強いられていた。
海外メディアも報じることができない惨状を国際社会に伝えるため、市民ジャーナリスト集団“RBSS”(Raqqa is Being Slaughtered Silently/ラッカは静かに虐殺されている)が秘密裡に結成された。彼らはスマホを武器に「街の真実」を次々とSNSに投稿、そのショッキングな映像に世界が騒然となるも、RBSSの発信力に脅威を感じたISは直ぐにメンバーの暗殺計画に乗り出す――。 公式HPより
現実の出来事だとはとても思えない、思いたくない映画でした。僕らがどれだけ恵まれた環境で生きているのか、ということをひしひしと感じさせられる映画でした。
かなり観ているのがきつい場面も多いので、見るのにはすこし覚悟が必要です。(※本編には残虐な処刑のシーン、損傷の激しい遺体の映像などが含まれます。あらかじめご了承ください。また16歳以下の方は保護者の指導の下で鑑賞してくださいとの注意書きがついています。)
2.「娘は戦場で生まれた」 ~ ワアド・アルカティーブ監督 ~
ジャーナリストに憧れる学生ワアドは、デモ運動への参加をきっかけにスマホでの撮影を始める。しかし、平和を願う彼女の想いとは裏腹に、内戦は激化の一途を辿り、独裁政権により美しかった都市は破壊されていく。そんな中、ワアドは医師を目指す若者ハムザと出会う。彼は仲間たちと廃墟の中に病院を設け、日々繰り返される空爆の犠牲者の治療にあたっていたが、多くは血まみれの床の上で命を落としていく。非情な世界の中で、二人は夫婦となり、彼らの間に新しい命が誕生する。彼女は自由と平和への願いを込めて、アラビア語で“空”を意味する“サマ”と名付けられた。幸せもつかの間、政府側の攻撃は激しさを増していき、ハムザの病院は街で最後の医療機関となる。明日をも知れぬ身で母となったワアドは家族や愛すべき人々の生きた証を映像として残すことを心に誓うのだった。すべては娘のために――。
公式HPより
幸せそうなサマちゃんの笑顔と、空爆の爆音。子供たちの無邪気な笑顔と、死んだ息子の体を抱きかかえて泣き叫ぶ母親。「戦争と平和」という言葉を聞くと、日本ではどこかふわふわとした印象を受けるかもしれません。でも、この映画は「戦争とはこういうものだ!!」と静かに、しかし激しく訴えかけてくるような映画でした。
3.兵役拒否
イスラエルでは徴兵制が敷かれている。兵役はユダヤ人市民の義務となっており、心身に問題がある場合など一部の例外を除き、18歳になった段階で男女とも2、3年前後にわたって軍務に服する。しかし、軍人一家に育った女子高校生のアタルヤは、家族の反対を押し切って、兵役拒否を宣言する。なぜなら、彼女はイスラエル軍が行っているパレスチナ占領に強い疑問を抱き、それに反対しているからだ。兵役拒否は、イスラエル社会では裏切り者とみなされ、社会で異端視される。果たしてアタルヤは、自らの信念を貫けるのか…。イスラエル軍によるパレスチナ占領に異を唱えるアタルヤと若者たちの活動を記録したドキュメンタリー映画。
アジアンドキュメンタリーより
戦争は人が亡くなる、町が破壊されるということを生み出すだけではなく、社会の中に分断を生み出す、そんなことを考えさせられる映画でした。主人公のアタルヤは軍人一家の娘。祖父や父は彼女が兵役を拒否することをあまり理解できません。それでも話をして、お互いに「あなたの言っていることのここがわからないのよ」としっかりと話をしている様子がとてもステキでした。でも同時にイスラエルとパレスチナを取り巻く問題の深さを感じさせられるものでした。
4.「石川文洋を旅する」 ~ 大宮浩一監督 ~
石川文洋さんは1938 年沖縄に生まれた。世界一周無銭旅行を夢みて日本を脱出。64年から南ベトナム政府軍・米軍に従軍し、戦場カメラマンとしてベトナム戦争を世界に伝えた。そして68年末に帰国してから今日にいたるまで、ふるさと沖縄の姿を記録し続けている。
本作は、75歳になった文洋さんとともにベトナムと沖縄を旅し、その生立ちと青春とを見つめる。切り売りした命がけのネガフィルム、サイゴンの下宿、アオザイを着たスチュワーデスの神秘的な魅力、解放戦線兵士が眠る烈士墓地、幾世代にも及ぶ枯葉剤の影響。そしていまなお沖縄に張り巡らされるフェンス、配備されたばかりのオスプレイ。
公式HPより
カメラマンとして「戦争」というものを見つめ続けてきた石川文洋さん。彼が見つめるベトナム戦争と日本国内が抱えている問題。戦争とは無関係に思える日本の中にも考えなくてはいけない問題が残っています。動かない白黒の写真の中からじっとこちらを見つめるベトナムの少女の顔が印象に残っています。機会があればぜひ!
民主主義を考える
私たちは民主主義国家に生きていますが、そのことについてあまり深く考える機会がないかもしれません。今年僕はこんな映画を観て民主主義について思いをはせました。
1.タクシー運転手 ~ チャン・フン監督 ~
ソウルのタクシー運転手マンソプは「通行禁止時間までに光州に行ったら大金を支払う」という言葉につられ、ドイツ人記者ピーターを乗せて英語も分からぬまま一路、光州を目指す。何としてもタクシー代を受け取りたいマンソプは機転を利かせて検問を切り抜け、時間ぎりぎりで光州に入る。“危険だからソウルに戻ろう”というマンソプの言葉に耳を貸さず、ピーターは大学生のジェシクとファン運転手の助けを借り、撮影を始める。しかし状況は徐々に悪化。マンソプは1人で留守番させている11歳の娘が気になり、ますます焦るのだが…。
公式HPより
光州事件という軍事政権下の韓国で実際にあった事件の実話に基づく映画です。民主主義とは国民一人一人が社会の在り方についてしっかりと考えて動かなくては成り立たない制度。光州事件は政府による弾圧の中、命の危険を顧みずに自分たちの社会の未来の為に考えて行動した若者たちが起こした反政府デモで、その後の韓国の民主化につながる事件です。
もちろん社会の為に命を投げ出すのがいいことだなんて毛頭思ってませんが、今日本に住んでいる僕たちが享受している自由が当たり前ではないということを考えさせられる映画でした。
物語としてもハードですがスリリングで、見ごたえがあります。
2.香港革命2019 ~ ABCテレビ ~
今まさに民主主義が弾圧されつつあるのが香港。今年は国家安全法制が施行され、本格的に声を上げる自由がなくなりつつあります。
日本は戦後半ば与えられるかのような形で民主主義の国になりました。僕たちが生まれた時から、僕たちの生きている国は民主主義国家。そうではない環境を知りません。
民主主義を守るために戦うっていったいどんな心境なんだろうか。それほどまでに必死になることなんだろうか。
当たり前に与えられているものを見つめなおして考えるというのも時には大事。ぜひ見て、僕たちの国の民主主義についても考えてみてほしいなと思います。
カラフルデモクラシーでも民主主義について考える会を持ちました。その報告の記事も是非お読みください!
終わりに
もちろん、もっと楽しい映画もたくさん見たんです。でも今回はちょっと考えさせられる映画をピックアップしてみました!皆さんも機会があったら見てみてくださいね。
カラフルデモクラシー 松浦 薫
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