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置いてかれる日のオレンジジュース

わたしの力が及ぶ範囲ってどれくらいだろうかと最近、考えている。

地球征服をもくろみ始めたわけではない。その他、大それた野望も抱いていない。ただ、いつか置いていかれるかもしれないとは思っている。

我が家の双子姉妹(6歳)は、果物がなにより好きだ。

先日、次女が「次女ちゃんの夢はジュースをつくること!」と叫んでいるのを聞き、わたしは張りきった。

よし、生オレンジジュースをつくろう。

つくると言っても、メインの工程はブレンダーが担ってくれる。わたしたちはスーパーマーケットで買ったオレンジを四つ、カットして、セットするだけ。

がががが、ぎゅいーん! とブレンダーが動くのを娘たちはじっと見つめていた。オレンジのつぶつぶした果肉が液体へと変わる瞬間を見逃したくないようだった。

ただ、ブレンダーがオレンジを絞るのを見ていただけだ。それでも娘たちは楽しかったようで、ちょっと筋が入ってしまった生オレンジジュースを確認して歓声をあげていた。

次女が言った。

「次女ちゃんの夢、叶った!」

叶えた夢、生オレンジジュース。
おいしそうにごくごく飲んでいました。

わたしは娘の夢を一つ叶えたことになるらしい。こんなかわいい夢ならいつでも叶えて進ぜよう、と思いながら、ちょっと考えこむ。

「ママ、NASAに入りたいから叶えてよ!」って言われたら、どうしよう。

無理である。どう考えてもわたしの力では叶えてあげられない。全方位的に見て、足りないものが多すぎる。

ほんとうにそんな夢を抱く子になるのかどうかはさておき、ある程度以上の夢になると、もうわたしの力は及ばなくなる。夢は、娘たちがそれぞれ自分の力で叶えるものへと姿を変える。生ジュースをつくりたいとかアンパンマンに会いたいとか、親が叶えてあげられるものではなくなる。

彼女たちは今後、成長する過程でそれに気づくだろうと思う。「あ、これはママに頼んでもあかんタイプの夢やわ」と理解する日がきっと来る。夢を叶えたいなら、誰かに引き寄せてもらうのではなく、自分でつかみにいくしかないと知る日が、ほぼ確実に訪れる。

喜ばしいことだ。自力で人生を切り拓くためには、ママの力が及ばない範囲はとても広いと学ぶことが必要かもしれない。その余白が広ければ広いほど、彼女たちは強くなるかもしれない。

もし、わたしの力が及ばないところにある夢を彼女たちが追い始めたら、そっとうしろから応援しよう。置いていかれることをおそれずに生きていくのもきっと大切なんだろう。

その証拠に、あのオレンジジュースはちょっと苦かった気がする。

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