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【ショートショート】征服者

 「生命反応が出ているのは、あの星のようだな」
 「ああ、間違いない。調査に向かうことにしよう」

 渦巻き状の星系の端の方にある、比較的小さな恒星の周りをまわる8つの惑星のうちのひとつ、青色の美しい星をめがけて、私たち2体は宇宙船を進めた。
 私たちの任務は、この広大な宇宙空間の中で、生命の存在する、あるいは存在可能な星を探査し、調べることであった。
 その目的は、もちろん征服だ。

 私たちは、その星の大気圏を突破し、その大地を上空から見下ろした。固体の大地と、それから液体で覆われたその星は、私たちの美意識から見てもとても美しく、魅惑に満ちていた。
 大地を観察すると、植物群の緑に覆われた場所もあれば、グレーに近い固い材質の建物が密集する土地もあった。それは、知的生命体が存在するという、明らかな証である。
 「この星はいいな」
 私の相棒が言った。
 「この星を征服できたなら、我々がいちから開拓するまでもないではないか。まるで、居ぬきの物件のようじゃないか」
 相棒は、嬉しそうに笑った。
 「ああ。しかし、まだ喜ぶのは早いぞ」
 私は相棒をたしなめることにした。とらぬ狸の皮算用にだけはなりたくなかったのだ。
 小型宇宙船に乗った私たちは、ある地域に目星をつけた。そして、縦に細く長い島に向けて宇宙船を走らせ、ゆっくりと下降していった。
 「よし、この辺りで大丈夫だろう」
 ある高度のところで停止した私たちは、宇宙船の下から、任意の物質を透過させて見ることができる望遠鏡を伸ばした。
 ある建物の中を私たちは観察することにした。
 「あれは何をしているんだろう?」
 私は、望遠鏡からの映像を凝視した。おそらくあれが、この星の知的生命体なのだろう。
 望遠鏡の倍率を上げ、音声スイッチをオンにした。その瞬間、私たちは衝撃と大きな恐怖を覚えた。
 「あいつらは、何をやっているのだ? 大型の人間が、小型の人間を抱え、抑え込んでいるではないか!」
 「うむ」
 私は、恐ろしさに二の句を継ぐことができなかった。
 「小型の人間は、あれはおそらく恐怖のあまり、感情を爆発させているのだろう。声が張り裂けんばかりに泣き叫んでいるではないか!?」
 その悲鳴にも似た泣き声が、狭い宇宙船の中をこだまするかのように鳴り響いた。
 「しかも見ろ!」相棒はさらに叫んだ。「あいつら、大型の人間どもは、泣き叫ぶ者を囲みながら、ニヤニヤと笑って見ているではないか。人が苦しむのをうれしがるなんて、なんてやつらだ!?」
 「おい」私は、奴らの中の一人、白い布に身を包んだ奴の動きを見て驚愕した。「あいつ、小型の人間に向って、鋭利な武器を向けているぞ! なんて野蛮で残酷な奴らなんだ。拷問じゃないかこれは!?」
 小型の人間は泣き叫び、それを見ている大型の人間たちは薄気味悪い笑みをたたえ、白い服の人間はーーーなにやら物をしゃべっているが、その言葉はもちろん私たちには理解できなかったーーー鋭利な武器を小型の人間に向けていき、その柔らかそうな皮膚に一気に突き立てたのだ。
 私たちの顔面は蒼白になった。
 小型の人間は、なおも狂ったように叫び続けている。おそらく耐えられないほどの痛みを感じているのだろう。
 それに引き替え、その断末魔の叫びを耳にしながらの、大型の奴らの喜びの笑顔と歓声のような声はどうだ?
 私たちは血の気の引いた顔で、お互いに見つめ合った。
 「この星は、ダメだ。 残酷で、冷酷で、野蛮すぎる。奴らは、我々の手にはとても負える生命体ではない」
 震える声で私は相棒に言った。
 「お前の言うとおりだ」
 相棒も大きくうなずいた。
 そうして私たちは、この星を後にした。
 私たちが飛び去る寸前の、彼らの言葉は、記録装置にしっかりと記録されていた。意味は到底理解できないものの、その嬉しそうなトーンは自ずと伝わってくるものだった。そのトーンは、私たちが自分たちの星を旅立つときに聞いた、仲間たちによる励ましの声のようだった。苦しみに悶える小さきものに対するには残酷すぎるものだ。
 ああ、思い出すだけでも恐ろしい! 身震いするわ!
 その声は、こう言っていた。
 「あー、ゆうちゃん、よく頑張ったねー、痛かったねー。注射もう終わったからねー、もう大丈夫よー!」

 我々の征服とは、基本的には共存共栄的なものなのだが、この星の人間とはとてもじゃないが共存などできないだろう。
 願わくば、どこの将来においても、この星の人間が宇宙侵略など考えることがないよう、祈るばかりである。

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