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関サバはアニサキスが少ない?!夏休みのサバ研究が研究者の学術論文に

こんにちは、CoffeeSign広報担当のさおりすです。

今回はSDT株式会社が提供している生成AIサービス Panorama AIを導入いただいている、大分大学医学部先進医療科学科講師の八尋隆明先生にお話を伺いました。

普段はなかなかお話を聞くことができない大学の先生に、医療の研究者を目指した理由や、臨床から研究職へとキャリアを歩まれた背景、研究を行う日常について語っていただきました。

八尋隆明先生プロフィール
https://www.med.oita-u.ac.jp/campus/med-sciences/staff-yahiro.html


医療研究を志した理由

ーー八尋先生は、なぜ医療研究の道に入られたのですか。

生まれて1歳から2歳になる頃、先天性の心臓の病気という診断を受けました。この病気は、手術をしなければ生存が難しい病気です。私が手術を受けたのは約50年も前ですが、当時は、人工心肺装置を使用した外科的手術が一般的になって十数年程度。医療技術も発展しておらず、その病気を持ちながら生き続けることが大変難しい時代でした。子どもの頃、私が入院していた病室には8人の患者がいましたが、私以外の全員が幼くして亡くなってしまいました。

私自身は3歳の時に根治手術を受け、幸いにも再手術をすることなく、今のところは、順調に経過しています。現在50代ですが、これまでの人生でその病気を持ちながら、私より長生きしている人にまだひとりしか出会ったことがありません。

それほどまでに当時は助かる確率がとても低い病気と付き合って、生きている私自身の体験から「医療に携わり、人々を助けたい」という強い思いを抱くようになり、医療の道を選びました。

臨床から研究職へ

ーー医学部を卒業後の、八尋先生のキャリアについて教えてください。

医学部を卒業した後、病理の臨床現場で約10年の経験を経て、研究職へ移行しました。医学部を卒業したと言うと、よく医師と混同されるのですが、医師免許は持っていません。医療の道を選ぶ際に、患者さんと向き合う医師よりも、癌と顕微鏡を通して向き合う検査の分野の方が自分に合っていると考え、病理・細胞診断学の道を選んだのです。

約10年、病理の臨床現場で働くなかで、もどかしさを感じる場面が多くありました。臨床現場では、癌細胞の診断場面を何度も経験します。癌の診断では、形態学という手法で細胞の形を観察し、その癌細胞が良性か悪性かを判断します。この判断には主観が入りやすく、経験や個人差によって結果に多少のブレが生じてしまうのです。

私が病理の臨床現場にいた頃は、「私の経験から言うとこれは癌だ」「経験的にこれは良性腫瘍のようだ」といった、経験値で語られる根拠に乏しい診断が行われることがありました。診断を誤ると医療事故につながります。

臨床現場でこのような場面をいくつも目の当たりにしてきたことから、客観的な根拠のある診断ができる人材の必要性を感じ、臨床から研究の分野へと移ることを決意しました。

現在は医療の研究者として、アカデミックな知見を臨床現場にフィードバックし、臨床と研究の橋渡しができる存在になれるよう活動を続けています。


ーー八尋先生のように、病理の臨床現場から研究分野に移動される方は多いのですか。

かなり珍しいです。理由は、早い段階で研究の道に入った方が、教授への道も早くなるなど、研究者としてキャリアを積むのに有利だからです。例えば、博士号取得後、教授になるまでには10年以上の期間が必要とされるなど、ある程度の期間が必要となります。もちろん例外もありますが。

しかし、最近では医療現場において、患者さんと対峙する臨床現場の医師も研究に携わることが奨励されるなど、臨床と研究の連携がより重視されるようになってきました。

一方で、臨床現場の医師たちにとって、臨床経験のない研究者から指示をされても、実践しにくいこともあると思うのです。これからは、臨床と研究の両方を理解しバランスを取っていくことが重要だと考えられています。

大学での研究

ーー八尋先生が専門とされている、ウイルス学、臨床ゲノム検査学、細胞診断学について教えてください。

私の研究は大きく分けて3つの分野に分類されます。

1. ウイルスの疫学および分子疫学的解析
ウイルスのゲノム解析を通じて、ウイルスの変異パターンや、それらの変異が感染力や病原性にどのように影響しているかを研究しています。

2. 新しい病原体検査法の開発と生成AIの医療応用
ウイルス検査に精通しているため、新たな検査法の開発に取り組んでいます。また、生成AIを活用して医療分野での応用の可能性を探っています。

3. ウイルス治療薬の開発
ウイルスの治療に用いる薬剤の開発プロセスについても研究しています。

これらの研究では、ウイルスという広範な対象の中で「ゲノム解析」という強力なツールを用いて、多角的にアプローチを行っています。

身近な疑問から生まれた研究-関サバとアニサキス

ーー研究のテーマはどのように見つけるのですか。

「研究」と聞くと難しく考えられるかもしれませんが、研究のテーマは難しいものである必要はありません。むしろ、身近なところからヒントを得ることも多いのです。

例えば、サバに生息するアニサキスに関する研究を行ったのですが、研究のきっかけは、ある日、学生が実習用にと関サバを買ってきたことでした。そんな高いものを買ってきて…と思ったのですけどね(笑)

関サバを解剖してみると、「他のサバよりアニサキスの数が少ないよね」って研究室のなかで話題になったんです。面白いので「“関サバ”と"スーパーで売られているサバ”のアニサキスの数を比べてみよう」と思い、即、佐賀関漁港に電話しました。

「関サバの内臓をください」って。ダメもとで電話してみたら「内臓だったらあげますよ」といってくれて私もビックリしました(笑)せっかく調べるのなら、当時、中学生だった娘の夏休みの研究にしようと考えたんです。

スーパーで買ってきた30匹のサバの内臓と、佐賀関漁港からいただいた関サバ30匹の内臓に寄生するアニサキスの数を比べる研究を娘に任せました。といっても、ほとんどの作業は私がやりましたけどね(笑)ちなみにスーパーでサバを30匹買うのにかかった費用は、500円×30匹で6000円ほどでした。このくらいの費用で家庭でも研究することが可能です。


ーーサバに寄生するアニサキスですか…なんだか研究を身近に感じますね(笑)

サバ、親近感ありますよね(笑)こんなふうに身近なところにも研究の種は転がっています。

娘とのこの研究をきっかけに、大学でも研究してみようということになり、論文化まで実現することができました。(Analysis of the Prevalence and Species of Anisakis nematode in Sekisaba, Scomber japonicus Caught in Coastal Waters off Saganoseki, Oita in Japan

この経験から学んだことが2つあります。

ひとつは、思い立ったら即行動に移すことが重要だということです。
佐賀関漁港に電話をかける時は、無理だろう……と思っていましたが、実際に電話してみると、快く了承していただくことができました。行動してみてよかったなと思いますね。

もうひとつは、楽しみながら研究に取り組むことです。勉強でも研究でも結果を得るためには、続けていかなければなりません。楽しくないと続けていくことは難しいですよね。だから、楽しむことが大切なんです。

研究室では、疑問点を探しながら常に研究のテーマを探っています。一般家庭においても、日常生活の中で多くの疑問が湧いてくるはずです。そうした疑問が研究のテーマになることもあると思います。

研究者として大切なことは、身の回りの素朴な疑問を大切にし、それを楽しみながら探求していくことだと私は考えています。

ーーところで八尋先生、研究者としてどのような日々を送っているのですか。

研究者は日々実験に取り組んでいますが、すぐに結果が出るわけではありません。毎日コツコツとデータを積み重ねていく地道な作業が続きます。

研究は、まず仮説を立てることから始まります。

仮説通りの結果が得られた時は、研究者にとって大変嬉しい瞬間です。しかし、一度仮説が当たったからといって、終わりではありません。次に、その結果の再現性を確認する必要があるんです。

再現性を検証する実験を行い、再び同じ結果が得られた時が、研究者にとって最高に嬉しい瞬間です。そんな日には、お祝いにお酒を飲みに行くのもいいでしょう(笑)

研究は地道な作業の連続ですが、仮説が実証されたときの喜びは、何物にも変え難い喜びがありますね。

ーーひとつの研究についてどのくらいの期間、研究を行われるのですか。

一生です……(笑)

研究者は、複数のテーマを同時に進めることもありますが、基本的にはひとつの大きなテーマを追求し続けます。私の場合、ウイルス学の研究が大きなテーマです。そのなかでアニサキスの研究のように、ウイルスから派生した小さなテーマについても研究しています。

研究者にとって、自分の専門分野を深く掘り下げていくことが重要であり、それが生涯にわたる研究活動につながっていくのです。

ーー研究職の方は、どのようなキャリアを歩まれるのでしょうか。

一般的に研究者は、自分が所属する研究室のテーマを引き継ぐ形で研究を進めていきます。

私の場合、研究室で最初に習得したのは、ゲノム解析という技術でした。ゲノム解析は、現在でもウイルス研究をはじめとする多くの分野で共通して用いられる手法です。そのため、ゲノム解析という強力なツールを武器に、様々な方面での研究を展開することが可能となります。

このように研究室で培った専門性と技術を活かしながら、自身の研究の幅を広げていくことが、研究者としての成長につながるのだと思っています。


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