見出し画像

牡蠣小屋の思い出

ぼくは牡蠣が好き。
牡蠣フライもいいけど特に生牡蠣が大好き。

海の旨味をギュギュっと凝縮されたような
とろける濃厚すぎる味、ひろがる磯の香り。

大変美味しいのだけどいかんせん癖がある。
とくに、生牡蠣は「当たる」リスクもある。
なので牡蠣好きだって人はそうそういない。

・・・

「え、私も牡蠣好きだよ?」

結婚当初嫁ちゃんがしれっと言ってのけた。
しかも生牡蠣も余裕で食べれるとまで言う。

いやいや、まてまてそんなわけないじゃん。
そんな都合の良い話なんてある?ないよね。

ぼくの大好物(クセ強め)を食べれるって?
珈琲が飲めるってだけでレアな女性なのに。

「そうだ、ねえ、牡蠣小屋行ってみない?」

嫁ちゃんが提案する。なんだ?牡蠣小屋って。

「私もよく知らないんだけど、なんかね
生牡蠣を蒸したものが食べ放題?みたいな」

どうやら牡蠣小屋というのは
獲れたての新鮮な牡蠣が食べ放題で楽しめる
そんな場所のようだった。知らなかった!

…でもなんで、そんな場所知ってるんだ?

「私の姉も牡蠣好きでね、誘ってくれたんだ。
夫くんも一緒にどうかなって」

もちろん二つ返事で快諾。
かくしてぼく、嫁ちゃん、嫁ちゃんの姉の三人で
食い倒れ牡蠣ツアー開催が決定したのだった。

・・・

想像以上だった。

1月下旬の厳しい冬空の下
風だけは凌げる大型テントの中で
数十人の男女が牡蠣をむさぼり合う。
なんともワイルドで豪快すぎる光景だ。

「じゃあ食べ方を説明するね」

嫁ちゃんの姉(以下姉とする)が教えてくれた。

①受付で料金を払う
②生牡蠣をコンテナに入れて運ぶ
③自分達の席で牡蠣を蒸し、食べる
④牡蠣を補充して以下繰り返し

「「なにこれ・・・うっまぁあああい!」」

「ぬっふっふ。そうでしょうそうでしょう」

感嘆の声を同時に上げるぼくたち夫婦を見て
姉はしたり顔で牡蠣を蒸してくれた。

新鮮な牡蠣ってこんなに美味いの?
身も大きいし食べ応えもバツグン!
えっ、これが・・・食べ放題なの?

「夫くん、これを使うといい」

姉はポン酢とレモン汁、柚子味噌等の調味料を
ズラリとテーブルに並べた。

「味変だよ。これでいくらでも食べれる」

そして私たちは獣になった。

蒸して、喰う。蒸して、喰う。補充!
蒸して、喰う。蒸して、喰う。補充!

食べ終えた牡蠣の殻はみるみる積み上がり
やがて備え付けのドラム缶を埋め尽くした。
我ながらとんでもないペースだったと思う。

「いやあ・・・もうギブアップ・・・」

誰からともなく終了の声が漏れる。
この時間違いなく人生で一番牡蠣を食べた。
むさぼり喰った。

驚きだったのが嫁ちゃんが一番食べていたこと。

「言ったでしょ。私牡蠣大好きだって」

ぞくりとする。この嫁ちゃんは計り知れない。
1月になると、そんな記憶が呼び覚まされる。
この一件以来、私たち夫婦は隙あらば牡蠣を
食べるようになった。
誰にも気兼ねせず食べるクセ強め食材は最高。

ちなみにまだ夫婦で「当たった」ことはない。
お互い社会人なので火を通すようにしている。
いつか生でむさぼり喰いたいとも思うけど…。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?