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『エンタメビジネス全史』現在の視点から、エンタメビジネスを俯瞰で語る

エンタメビジネス全史 「IP先進国ニッポン」の誕生と構造』と大上段に構えたタイトルに賛否両論あるかもしれません。
項目も「興行」「映画」「音楽」「出版」「マンガ」「テレビ」「アニメ」「ゲーム」「スポーツ」と9つに別れ、多岐にわたっています。
さすがに一冊で「全史」は無理だろう……と思っていましたが、コンテンツの歴史について現在の視点から枝葉を極限まで削ることによって、本著はエンタメビジネスの本質を浮き彫りにしています。
著者の目論見は、かなりの角度で成功しているのではないでしょうか。

著者はエンタメ社会学者の中山淳雄さん。コンサルティングファームや多くのエンタメ企業を経た経験が、今回の本にも存分に活かされています。各エンタメ業界は、業界ごとの「点」に過ぎませんが、俯瞰で見ると「線」で繋がっています。
この辺りは、中山さんならではの視点でしょう。

それでは本著の中で、なるほど!と感じたところをピックアップしてみます。

タレントと観客のインタラクティブと「場の盛り上げ」のうまさは、まさに日本の興行界が磨いてきたものであるし、それを実際にうまくアニメやゲームの文脈に落とし込んだのがVチューバーたちである。

エンタメビジネス全史 P62

Vチューバーは一つの帰結だと思いますが、他にも落とし込んでいる、あるいは落とし込めそうなコンテンツはあると思います。また、昔の興行師が使っていた手法で、現在に活かされていないものもありそうです。この辺りを研究すると、新たなマーケティング方法などが見つかりそうです。

コミケやPixiv向けに創作されていたアダルト向け・2次創作が、その後の新しい作品につながっていったという話がマンガ業界でも少なくないように、またゲーム業界でも1990年代後半からの美少女アダルトゲームで多くのメジャー作家が育ったように、映画もまた「安価でたくさんの経験を積ませてくれる」ピンク映画の市場がバッファーとなって、大手映画会社が制作から撤退する中で「アクセレレーター」の役割を果たしていた。

エンタメビジネス全史 P76

国民的アニメ映画作家となった、新海誠監督はかつてエロゲーのオープニング映像を作っていたりました。ニトロプラスも、18禁ゲームを制作しておりますが、虚淵玄さんなどを始め、数々のクリエイターを排出しています。人間のあからさまな欲望に直結するコンテンツは、そのままだとメジャーになるのは難しいです。とはいえ、決してなくならないジャンルなので、「食っていく」ためにクリエイターの肥やしになったりしています。中には芸術性の高いものも創出されるときもあります。
今だと、どんなコンテンツが、新たなクリエイターを育てているのでしょうか?
D2C全盛の時代なので、ファンティアなどのプラットフォームで活躍する人たちが該当するのかもしれませんね。

「興行の半分以上を自国映画で占めている国」は数えるほどしかない。インド、日本、韓国、中国である。

エンタメビジネス全史 P82

挙げられた国の中で、文化・産業的な規制がないのは日本です。海外の大作と伍しているのは、日本語という参入障壁はあるとはいえ、日本映画コンテンツの強さも感じられます。ポテンシャルは高いはずなので、あとは輸出を押し出していくパワーが求められています。

半世紀かけて確立された日本のマンガ生産・消費市場は、世界で随一の「文化消費インフラ」として機能しており、これがその後のアニメ・ゲーム市場につながっている。

エンタメビジネス全史 P131

他国の「3倍の速度」「1/10の価格」で量産されているマンガは、日本のコンテンツ産業を支える柱です。マンガ家の過剰な負担の上に成り立っているので、非常に危ういものがありますが、コンテンツ業界はどのジャンルであれ、数がないとヒット作が生まれません。日本のアニメなども、供給元となる原作の「マンガ」に支えられているところがありますね。

創造の種は常に“劣悪”な新興メディアが握っている。演劇から映画が、映画からテレビが観客を奪ったように、今YouTubeやTikTokがテレビから視聴者を奪い取っている。

エンタメビジネス全史 P184

このメディアの変遷は、確かにその通りですね。ただ、一方で演劇も映画もテレビも、無くなる訳ではありません。YouTubeなどの新興メディアはレッドオーシャンなので、あえて旧来型のメディアで事業を練るのもチャンスがありそうです。

つまりシェアで見ると米国4割、日本2.5割だが、その日本の勢力図は米国アニメの10分の1もコストをかけていない「安い」作品群で実現しているのである。

エンタメビジネス全史 P187

マンガ同様、アニメも「安く」「大量」に制作されています。だからこその強みがあるのでしょう。日本のクリエイターの環境は低賃金で劣悪だと言われますが、「高く」「少量」になったときに、今まで通り果たして競争力が発揮できるのかどうか不明です。複眼で考えていきたい課題です。

1995~2014年の20年間のアニメ制作本数は、ジブリが13本、ピクサーが14本とそこまで違いがない。しかしその権利を自ら確保し、ビジネスの幅を広げていくという点で、ジブリとピクサーは対照的だった。そしてディズニー傘下で配給のみならずパッケージ販売、商品化、ゲーム化などビジネスをどんどん広げる「翼」を手に入れたピクサーは、組織・業績が1桁違う規模に成長する。

エンタメビジネス全史 P218

クリエイター中心主義のジブリが業績で完全に敗北しているのは、構造的な問題です。日本テレビに買収されても、おそらくはこのままクリエイター中心主義で行くのでしょう。クリエイティブとビジネスは相反するものではないので、両方の架け橋となる人材が必要です。

ゲーム業界の新たな成長を演出している人材やノウハウは、実は広告、出版、音楽、アニメ、映画、テックから取り入れられてきたもので、その流れがこの2~3年で大きく広がってきている。

エンタメビジネス全史 P244

サイバーエージェントがゲーム会社として大きな存在感を示すとは、誰が予想していたでしょうか。業界の壁が溶け出し、あらゆるものが融合しているのが現代という時代です。自分が身に付けた知識や技術が、他分野でどう活かせるか検討することも大切かと。画期的や方法論が見つかるかもしれません。

日本のコンテンツでも、アニメ配信権料がこの10年で上昇しているのは、この文脈に乗っているからだ。全世界の人々が注目するアニメなどは価格が上がり、それ以外の日本のコンテンツ、つまりドラマや映画、音楽といったものはその文脈からこぼれ落ちていった。スポーツも同様である。

エンタメビジネス全史 P268

巨大化したメディアの競争が、放映権料UPに繋がっています。この文脈に乗れないと、ローカルに留まるしかありません。日本の経済はシュリンクしているので、海外に打って出るしかありませんが、世界のコンテンツファンが欲しているかは別です。要らないものを押し付けられても、誰も買わないでしょう。
「アニメ」のように「勝っている」コンテンツに乗っかっていくのも、現実的な考え方の一つだと思います。アニソンアーティストではなく、一般アーティストがアニメの主題歌を担うのも、その一端かと。

「購入し、消費してもらう」という前提においては、日本のエンタメ黄金時代を取り戻すことは、どうやっても不可能なのだ。ならば日本エンタメで育った海外のユーザーに向けて広げる以外に方法はない、という結論は当然の帰結と言えよう。

エンタメビジネス全史 P298

デジタル化の恩恵で、海外を対象としたビジネスが飛躍的にやりやすくなりました。クリエイターやプロデューサーなど、職種問わず、一人ひとりが考えて、行動するときです。
・海外にどうやって届けるか?
・どうやってマネタイズしていくか?
この2つの問いは、常に頭の中に入れておくべきですね。

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