映画『君たちはどう生きるか』:宮崎駿はまだ本気を出していない
先日、宮崎駿監督最新作『君たちはどう生きるか』を観てきたので、記憶が鮮明なうちに感想を記しておきます。
……とその前に、内容もさることながら、「一切宣伝をしない」宣伝によってどれぐらいの興収成績になるかも気になっていました。
幾つかの悪意あるメディアでは、大失敗などと報じられておりましたが、僕が観に行った回(公開2日目のレイトショー)は、ぎっしり客席が埋まっておりました。
一人で来られている高齢のお客さんもいて、やはり宮崎駿は国民的作家だなと感じました。
少なくとも初週の興収成績は、決して悪くはないという感触です。
某外資系配信サービスの友人からは、既に興収100億円コースに乗っているよと聞いたりもしていましたし。
けれど、リピートして観るような映画でもないしなぁ……と思っていたところ、週明けに非常に好調だというニュースが!
近年、アニメ映画は興収100億円を突破することが珍しくなくなっています。本作も大ヒットの兆しが見えて、宮崎駿監督と同時代に生きる自分としても、少しホッとしたところです。
物語の構造
『君たちはどう生きるか』の物語構造はシンプルです。
「行って、帰ってくる」
古今東西、多くの物語がこのパターンを踏襲しています。
『千と千尋の神隠し』なども、まさしく「行って、帰ってくる」ですね。
行った先にドラマがあり、成長して帰ってくる。
ただ構造がシンプルだからこそ、きっちり作り込んでいかないと、簡単にアラが見えてしまいます。
僕が気になったのは特に前半です。
「下の世界」へ行くまで、話しが一向に進まないのです。
意匠を凝らしたメタファーは多いです。アオサギが急に話しかけてきたり、主人公・眞人が自分の頭を殴ってしまう等々……。
けれど、いずれもただの「出来事」なんですよね。
ドラマの基本は葛藤と対立です。
アオサギと出会っても、眞人の中では葛藤と対立が起こりません。
様々な「謎」を知っているアオサギに眞人は興味を持ち、追いかけます。
しかし行動の「カセ」もありません。単なる行き当たりばったりの行動に見えてしまいます。
僕にとっては、ここが退屈してしまった点です。
例えば、アオサギを追いかけると、父が死んでしまう……というカセを設定すると、眞人の中で葛藤が生まれます。
こうした場合、眞人はどのような行動を取るのでしょうか?
若者だけあって、やはりアオサギを追いかけてしまいそうな気もしますが、いずれにせよ人生の岐路に立たせられるはずです。
葛藤をさせていかないと、行動に感情が宿りません。
特に前半部分はドラマの作りが弱かったと思います。
キャラクター
個々のキャラクターは、それなりに立っていて面白いものでした。
アオサギの「食えない」キャラクターも、実際にこういう人いるよなぁ~とニヤニヤしながら観ていました。
眞人の正義感ある真っ直ぐな主人公像も良いでしょう。
けれども、こうした実直でマジメなキャラクターは、宮崎駿が得意とするものではないと思います。
いや。
誤解を恐れずに言ってしまうと、宮崎駿が得意とするのは、はつらつとした少女キャラクターのはずです。
ジブリで宮崎駿が監督した長編作品は以下になります。少女(幼女)キャラが中心のものは、タイトル横にキャラ名も記しましたが、いずれも人気作ばかりです。
風の谷のナウシカ(1984):ナウシカ
天空の城ラピュタ(1986):シータ
となりのトトロ(1988):サツキ、メイ
魔女の宅急便(1989):キキ
紅の豚(1992)
もののけ姫(1997):サン
千と千尋の神隠し(2001):千尋
ハウルの動く城(2004)
崖の上のポニョ(2008):ポニョ?
風立ちぬ(2013)
君たちはどう生きるか(2023)
以前、『千と千尋』の宮崎駿インタビューでは、千尋役の柊瑠美さんに対し「柊さんが13歳ですけど、そのぐらいのガールフレンドが何人かおりまして」と語っております。
近年も『千と千尋の神隠し』の舞台化にあたっては、以下のコメントを出しています。
「千尋は僕の小さな10歳のガールフレンドをモデルにして作ったんですよ。あれから20年……感慨深いですね」
少女へのこだわりというのは、宮崎駿の特異な作家性にも繋がります。
ですので、少女キャラが中心にいない『君たちはどう生きるか』が地味になってしまっているのは、致し方なしとも言えるかもしれません。
総論
『君たちはどう生きるか』は色々と引っ掛かる点はありましたが、総じて楽しめました。賛否両論あるのはもちろん理解できます。
脚本については、点数を付けるとしたら60点ぐらいですが、一方演出はキレッキレで100点です。イマジネーションあふれるもので、宮崎駿の創造性は全く衰えていないと感じました。
年齢的に本作は「遺作」になるとも言われています。
しかしながら、ぜひ「次」が観たいです。
設定厨が喜ぶ作品、解釈が様々分かれる作品……宮崎駿の真骨頂は、ここではないです。
キャリアの総仕上げとして、少女主人公の冒険活劇を求めています!
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