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【詩】流転

村の谷間にひとりの少女が
ひっそりと住んでいた

長い悠久の歳月を
龍神様とともに

龍神様は毎晩少女の唇に
滝の水をそっと移し
生命の瑞々しさを愛でた

少女の長い艷やかなな髪の毛は
生命そのものであった

少女は谷間から見える
空の青さだけしか知らなかった

もっと近くで群青の空に
包まれたいと願った

だが、龍神様は少女が谷間から
出ることを激しく拒んだ

少女が意思を持つことを
固く許さなかった

龍神様の怒りは
雷と滝の水を溢れさせ

少女を闇深き洞窟へ
押し込めた

少女は光のない世界にいた

漆黒の洞窟からは
伸びた艷やかな髪の毛だけが
地上に出てきた

艷やかな美しい髪の毛は
羽毛のように龍神様を覆いつくしたあと
絞め殺し、滝のなかへ溶けていった

少女は髪の毛を引きちぎり
白銀の滝のなかへ飛び込んだ


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