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「僕のヒーローアカデミア」にみる障害者福祉の世相 臨床心理士への随録 心理学

「僕のヒーローアカデミア」は、魅力的な登場人物たちが個性を武器に悪を倒していく、いわゆるジャンプらしい王道マンガです。今やその人気は日本に止まらず、アニメは世界148カ国に配信されています。私は毎週土曜日に放映されているアニメを観ながら、現代の障害者福祉を反映している作品だなと感じていました。

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現在の障害者福祉におけるキーワードは「共生社会」です。共生社会とは、これまで十分に社会参加できる環境になかった人々が積極的に参加貢献していくことができる社会で、誰もがお互いに人格や個性を尊重し、支え合い、多様な在り方を認め合える、全員参加型の社会のことを指します。障害はひとつの個性であり、障害をもつ人ももたない人もそれぞれが負を感じない社会をみんなでつくりましょう、ということです。

無いものから有るものに目を向ける

主人公である緑谷出久(デク)の一番の武器は、推理や論理などの思考力と、目的完遂や友情のための行動力です。もともと無個性だった彼は、個性がない分、それ以外の力を磨くしかなかったのです。個性がある者はそれを強化すればいいし、ない者はある資源をどう活用するか考えて行動する。これは臨床現場で支援者が持つべき理解と援助の仕方だなと感じました。

また、個性の組み合わせで、様々な必殺技が生まれます。一人では単体の個性だけれど、二人以上で協力すればより大きな力を発揮できる。自分の個性と敵の個性の相性が悪くても、仲間と一緒に戦えばカバーできる。最近の福祉・医療・教育領域でしきりに言われるチームアプローチの思想をみごとに描出しています。

「ワンピース」は悪魔の実や覇気で能力がインフレするけど、ヒロアカは個性の枠から大きく逸脱しないのがいいですね。人は人を超えられないという前提で、等身大で生きる観念が現代っぽいです。

美人の定義が変わった

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ヒロインである麗日お茶子は、ややめのぽっちゃり体型。摂食障害(神経性やせ症)への配慮なのでしょうか。

摂食障害は自殺やリフィーディングによる致死率が高い精神障害で、思春期の女性に多く、肥満に対する嫌悪感を示す社会風潮と共に増加してきました。治療を受けている患者の増加率は最近では緩やかになったとされていますが、2016年の厚労省による調査では全国で推計2.6万人、20年前と比べると約1割ほど増えているのが現状です。

ルイ・ヴィトンやグッチが、モデルたちの心と体の健康を守るために、痩せ過ぎモデルの起用を禁止すると2017年に表明しましたが、魅力的な女性像の時代の変化を感じます。

これからの障害者雇用

厚生労働省の統計によると、障害を持つ人の数は全国で約936万人で、2013年時より約149万人増えています。日本の全人口に占める割合も、約6.2%から約7.4%に増えています。

企業の障害者雇用の法定雇用率は、2018年4月に現行の2.0%から2.2%に、さらに2020年度末には2.3%まで引き上がります。これは従来の身体障害者と知的障害者に加え、精神障害者の雇用も義務化されることを受けての措置でもあります。

ヒロアカのような人気作品を通じて個別性への理解が進み、障害をもつ人の働く機会が増えることは、高齢化社会における労働力アップとともに、共生社会実現への大きな前進につながると考えられます。

番外編

そういう視点でみたときに感じるマンガをいくつか紹介させてください。

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「弱虫ペダル」
感じる雰囲気はヒロアカに近いのですが、こちらはヒーロー活劇ではなくスポ根です。地味系主人公の、自分を必要としてくれる仲間のために自分にできることをひたすらやる、という姿勢に心打たれます。

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「彼氏彼女の事情」
物語前半の恋愛モードから一転、後半は虐待・アタッチメント・防衛機制・自己実現などの臨床心理学視点がふんだんに盛り込まれた展開となります。ハッピーエンドなので読了感はすっきりしています。

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「ブラックジャック」
言わずと知れた巨匠手塚治虫の医療マンガですが、これは医学をまとった人生哲学書だと思っています。

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「パーフェクトブルー」
1997年に公開された今敏監督による映画作品です。精神病症状として現れる妄想や幻覚が、アニメーションならではの演出でリアルに描画されています。人の"心理的気持ち悪さ"をザワつかせる最高傑作だと思います。