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精神科外来で統合失調症の回復と心理士の役割を考える|臨床心理士への随録 心理学

ここは郊外にある統合失調症の患者さんが多い精神科病院の外来診察室。大学院のカリキュラムで陪席実習をさせてもらっていました。<医師>と「患者」のやりとりの中から、統合失調症とは何か、回復とは何か、心理士の役割とは何かを考えていました。

<聞こえてくることはありますかー?>「ないですね」

統合失調症の陽性症状のひとつが幻聴です。自分に対する悪口や批判など、被害的で意味のある言葉が語りかけられます。実際には無い声が、その人の中では実際に聞こえるのです。幻聴について医師は、「聞こえる」とは、外界の体験(知覚)に関して用いる動詞であり、「浮かぶ」とは内界の体験(表象・思考)に関して用いる動詞であるが、患者は「浮かぶ」ところで「聞こえる」と言っている、と解説してくれました。想像はできても実感での理解はなかなか難しい…。

<お薬のんでるー?>「飲んでます」

この疾病の原因は未だに解明されていませんが、脳内の神経伝達物質であるドーパミンが過剰放出されていることから、投薬療法が用いられます。薬の知識が乏しい私は、帰りに本屋に立ち寄って「今日の治療薬」を購入しました。ストラテラ、オランザピン……抗精神病薬だけとってもこんなに沢山の種類があるんですね。

<困ってることあるー?>「手の震えが治まらないですね」<どんな時に震えるの?>「緊張した時とか、そうじゃない時も」「薬の副作用もあるかもね。主薬の減薬は現状では厳しいので、緩和してくれる薬を入れようか」

患者の訴えに真摯に応えようとする医師の姿がありました。極論で言えば、人の苦しみを他者が100%で理解することできない。それでも、いやだからこそ、医師は可能な限り患者の声に耳を傾け、要望をかなえる施策を一緒に考えているのです。

<散歩はできてるー?>「サボっちゃいます、調子悪いと」<人間、楽な方に流れちゃうからね。今が大事な時なので、気分にひっぱられずに、行動を大事にして、生活リズムを頑張ってつくっていきましょう>

生活リズムの大切さ。精神病は薬だけでは治りません。「治る」の定義によるのでしょうが、再発防止まで視野に入れたところで考えると、生活様式、疾病理解、認知変容など、薬以外の要素も必要になってきます。

医師は治療の中で、投薬療法のみならず心理教育や心理療法も駆使します。とはいえ医師が診察で使える時間は短い。心理士が心理療法で患者と医師を支援できる部分が多分にあると感じているのです。

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