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産業心理では会社員の経験が活きている|ココカリ心理学コラム

名選手、名監督にあらず。これと同じで、心理士が産業領域で活躍するために会社員経験は必要条件ではない。事実、高い共感力や必死の学びで、実務経験者以上の世界感を持っている院卒ストレート心理士はいる。非凡な彼らに対し私は凡人なので、会社員を経験しておいてよかったなと感じている。17年間に渡る3つの会社での経験が、今、産業心理の現場で生きている。

臨床心理士が働く主な領域は、医療・福祉・教育・司法・そして産業である。新米心理士が働ける席はたくさんある。医療であれば病院臨床、教育であればスクールカウンセラー、福祉・司法だって基礎知識を積んでおけば雇ってくれるし、仕事にもなるだろう。一方で、産業心理だけは特殊に映る。

産業心理の求人は、新卒よりも中途採用の方が多いように思う。新卒心理士では相談者の相談内容に共感が追いつかないのだろう。会社組織で働く人の悩み、社内の人間関係、取引先との関係、ノルマのプレッシャー、ワークライフバランス…。これらは経験したことがないと、多くの人にとっては、想像を働かせづらい事象なのである。

東大病院で心理士として働いている時に、20代の医師が、会社員経験がないから患者さんの会社での苦労話の生々しさが掴めないと悩んでいた。会社員時代に散々苦労してきた(笑)私は、その部分で悩んだことはない。人柄も素敵でこんなにも優秀な医師に対し、私が勝る分野があるのかと自分の経歴を少し誇らしく思った。

私のキャリアは回り道である。同年代の心理士は皆20年戦士、年季のなさに負い目を感じる部分もあった。捨てる神あれば拾う神ありとは言ったもので、見る人が代われば、弱点は美点になるらしい。

経験を活かすしか私には道がない。そもそも20代前半の当時は人として未熟すぎて、他者をみるなんて到底できなった。今この歳になってやっとこさ、なんとかやれてるのかなあ、どうなのかなあレベルなのだ。使える武器を駆使して、やれることをやるしかない。気をつけるのは、過去の経験にしがみつかず、サンプルのひとつに過ぎないと悟り、アップデートを怠らないことだ。ひとつの経験が過度な一般化に発展し、多様性の柔軟さを失う危険を、念頭に置いておこう。

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